第12話 vs.中級ウイルス③
「今の音なに!? 大丈夫なの!?」
「あぁ、大丈夫だ! よし、これで‥‥‥」
俺は、急いで後ろを振り返る。サービスカットをこの眼に拝むため……いや、あくまで助けるため、そして、まぁその、ついでに? 不可抗力? を理由に?
すると、その目に飛び込んできたのは、白くネバネバした粘液にまみれた淫靡な姿を……していなかった。
少女に絡められた蜘蛛の糸は、背中越しに想像していたような白色ではなく、ウイルスと同じ黒色だったのだ。
「……」
そうか、ウイルスだもんな。ただの蜘蛛じゃなくて、あくまで蜘蛛型のウイルスだもんな。糸の色も普通とは違う可能性の方が高いはずだよな。
見た目から考えても、黒い外見から出す物なら、黒い確率の方が高いよな。
うん、しょうがない。しょうがないけど‥‥‥。なんだろう、この期待外れ感‥‥‥。
「チッ」
「え!? あなた今、舌打ちした!?」
「いや、してねえ。大丈夫か?」
「え、えぇ。してない、って……。わりとはっきり聞こえたけれど……」
舌打ちを疑われているが、急いでいるので聞き流す。そして、少女の後頭部横から腕を伸ばし、黒クモの頭にプラズマソードのグリップを押し当て、再びプラズマ
「あ……?」
黒カブトと同じく、黒クモの方も、刃が入ることなく閃光と共に弾き飛ばされた。しかし、1つ違ったのは、弾き飛ばされながらも、黒い糸を吐き出して地面に接着させ、身体を引っ張って建物への激突を防いでいた。
「流石ね」
「あぁ。多分、学習したんだろうな。俺が黒カブトに同じことしていたのを見て対処したんだと思う」
「じゃなくて、あなたのことよ」
「え?」
「プラズマソードは護身のために、一般市民のほとんどが所有しているわ。それでも、今のような使い方をした人は見たことがない。そういう意味よ」
「‥‥‥疑いは晴れたか?」
「まあ、疑いというか、疑問は晴れたわ。この機転の利きようがあるなら、中級クラスを倒せても不思議ではないかもね。こうして目の前で見せられては、受け入れるほかないけど」
「そいつは良かったよ。じゃあ、これ」
俺はプラズマソードを差し出す。
少女は不思議そうな顔をしながら、それを見つめている。
「奴等が起き上がってくる前にこれで糸切れよ。そっちの黒刀より、人体に害のないプラズマのほうが切りやすいだろ」
「そ、そうね‥‥‥ありがとう」
少女はプラズマソードを受け取り、自身を絡めている糸を切り始めた。
「糸を切り終わったら、あんたは少し下がってくれ。俺に考えがあるんだ」
「名前で良いわよ」
「え?」
「さっきからずっと、“アンタ”って呼んでるでしょ?名前でいいわよ」
「あ、あぁ。それもそうだな。えっと、じゃあ名前教えてくれるか?」
「え? 何言ってんの、見ればいいじゃない」
「は? 見る? どこを?」
俺は少女の全身をスキャンするように上から下へと視線を流す。しかし、名札らしきものは見当たらない。
少女は、そんな俺の様子を不思議なものを見るような目で見つめる。
「‥‥‥何をしているの? どこって、決まってるでしょ」
呆れた顔で俺の顔を見つめる。その眼は何かを映し出すように、かすかに光を帯びていた。
その光が気になり見つめていると、少女の呆れた表情が「ん? あれ? おかしいわね‥‥‥」と疑問の表情へと変わる。
てか、どこ見てんだ……? 俺の頭上……?
お互いにお互いを訝しげな表情で見ていると、少女が「ど、どういうこと‥‥‥!?」と驚きに満ちた表情へと変わった。
「な、なんで? なんで出ないの……!?」
「え? 出る? なにが?」
「ミス‥‥‥? トラブル‥‥‥? いやでも、何も読み取れないなんて‥‥‥」
少女は動揺しているのか、独り言を呟いてこちらの質問には答えない。
「やっぱり、あなた変‥‥‥おかしいわよ……」
そう言って、こちらに驚きの顔を‥‥‥いや、というよりかは恐ろしいものを見るような表情を向けていた。
「……このウイルス達を片付けたら、じっくり話を聞かせてもらうわよ」
身体に絡み付いた蜘蛛の糸を斬り終えた少女は、俺にプラズマソードを手渡しながら、そう言った。
「は、はあ!? え、ちょ、名前聞いたくらいで、なんでそんな……! なにがどうなって、ちゃんと説明を……」
「GUOOOOOOーーー!!」
『‥‥‥‥‥‥!!』
理解出来ない反応に対して、少女に説明を求めようとしたその時、それを遮るように鳴き声めいたものが響いた。
崩れた建物に埋もれていた黒カブトが、瓦礫を押し退けながら再び姿を現した。
その姿を確認した俺は、手渡されたプラズマソードをすぐさま手に取り、黒カブトに向かって構えた。
少女の方も、再び動き出し始めていた黒クモを警戒するように向き直る。
よって、ここで再び背中合わせに。
「とりあえず、今はコイツらを駆除するわよ!」
「あぁ……わかったよ! そっちこそ、後で説明しろよ!」
心に残るモヤモヤを振り払うように、少し声を張ると、それが伝わったのか、少女は敢えて返事をせずに切り替えた。
「それで? 考えがあるって言ってたわよね! どういう考えがあるのかしら!」
「あ、あぁ! 単純なことだ! コイツらが次に突っ込んできたら正面から受け止めるな! もう止まれないってとこ、ギリギリで避けろ!」
「‥‥‥わかったわ。それだけでいいの?」
少し考えるような間があったあと、確認するように少女は言った。それに対して俺は、なにも問題はない、というニュアンスを込めて答える。
「それだけでいい! 来るぞ!」
「こっちも来た!」
黒カブトが先程と同じように、角を伸ばして一直線に突っ込んでくる。そして、見えないが、おそらく後方にいる黒クモも、少女に向かって鎌を振り上げて、突っ込んで来ているはず。
黒カブトの角が当たるまで、あともう少し‥‥‥というところまで迫る。
「かわすわよ!」
「あぁ!」
背後からの合図を聞き、首を少し背後に向けて、横目で少女がギリギリのところで飛び退いたのが見えた。それを確認し、こちらも動く。
次の瞬間、大きな衝突音がその場に響いた。
そして、その次に聞こえたのは少女の声だった。
「やはり、相討ちを狙っていたのね! 上手くいったわ!‥‥‥あれ?」
そう。少女の想像通り、狙っていたのは相討ち。
プラズマを弾く固さ同士なら、お互いの武器が効果を発揮することになる。しかし、一直線に最短距離を進む黒カブトの角に比べ、腕の鎌を振り上げていた黒クモは、その分だけ遅れを取り、角の方が先に黒クモへと到達する形となった。
つまり、互いに衝突し合ったウイルスは、黒カブトの角が、黒クモに突き刺さる形で制止していた。
ここまでは少女も想像していたことであろう。
あの考えるような間は、相討ちを察したことから生まれた間だろうからな。
そして、あの確認を取る口ぶりは、この策だと「黒カブトのほうは残ってしまうがどうするのか?」という意味で言っていたのだろう。
黒カブトの甲羅はプラズマでは切れない。だから、黒刀を有する自分が手を貸さなくていいのか?という意味も含めて。
だからこそ俺は、少女の想像とは違う行動をとった。
「え!? 横に飛ぶんじゃなかったの!? なんでそんなところに!?」
少女の驚く声を俺は聞いていた。‥‥‥黒カブトの下で。
黒カブトの角が到達する直前、横にかわすのではなく、スライディングで真下へと滑り込んでいた。
「こういう甲羅の固いヤツは、柔らかい内側が弱点って相場が決まってんだよ……!」
そして、寝転んだ状態で真上に見える、黒カブトの内側に向かって、グリップを押し当て起動させた。
「仲良くあとを追うんだな!」
放出された光は、今度は弾かれることなく、撃ち抜くようにして、勢いよく一直線に伸びていった。
光の刃に貫通された黒カブトは、衝撃により一瞬、全身が浮きあがったが、その後、まるで電池が切れたように手足を下ろして動きを止めた。
「そんなデケェ角、振り回すからだ。今度は、自動ブレーキ機能でも付けるんだな」
プラズマソードが刺さった黒カブトを押し退け、そのまま大の字に寝転んだ。
「ハァー、まったく……」
そして、そんな俺を見下ろすように少女が歩み寄ってきた。
「まさか、真下に潜り込むなんてね。いい度胸してるわ。見てるこっちが、あせったわよ」
「ハハッ、でもまぁ、上手くいっただろ?」
「まぁ、そうね」
呆れたように笑みを浮かべた。
「とりあえず、お礼を言っておくわ。ご協力、感謝します。そして……」
そう言って、少女は手を差し出した。
「アイリスよ。よろしく」
「アイリス、ね。こちらこそ」
差し出された手を掴んで立ち上がる。そして……
黒い刃先が喉元に突きつけられた。
「それじゃあ、教えてもらおうかしら。あなたの、正体を……!」
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