よくある異世界転生かと思ったら、異世界みたいになってた未来でした。
複志真 那終夜
第1話 過去に観た未来
ー20XX年
「それでは皆様、お待たせいた致しました!」
豪華絢爛、煌びやかな空間が構築されている、高級ホテルのパーティー会場。
全体の照明がほとんど消え、その暗がりの中で唯一、スポットライトを当てられている司会の女性の声が響き、皆が注目する。
「これまで、数々の歴史に残るであろう偉業を次々と成し遂げ、全世界に影響を及ぼす科学革命で、見事に、世界を一変させた『現代の創造神』!!
ノーベル賞科学者、
女性が、向かって左側にあるステージに向かって手を挙げると、それを合図に、会場中から拍手が沸き起こる。
スポットライトが、女性からステージへ移動。ステージ両脇からは、勢いよくガスが噴射。
その場にいる全ての人間が注目するステージを覆う煙の中に人影が浮かび上がる。ステージ中央へと向かう人影は、やがてスタンドマイクの前へと辿り着き、その姿を光の下に晒した。
「ご紹介に預かりました、世十です。本日はこのような場を設けて頂き、大変ありがたく思います。
これだけは言っておきたいのですが、もし、このような機会がまたあれば、是非とも、噴射するガスの威力は弱めて頂きたいですね。髪が乱れてしまうので」
髪を直す世十の仕草に、会場から笑いがこぼれる。
「えー、今の紹介の中でもあったように、ありがたいことに、私は、世界の技術を大きく進めたとされています。
しかし、実際のところはそうではなく、あるべき姿になっただけなのです。
元から世界はこうなるべきで、つまり私は、なるべき姿の道標に沿っただけのことに過ぎません。そして、その道標となった世界というのが、私が、遥か過去に見た、未来でした。
おかしなことを言っていると思われるかもしれませんが、確かに私はそこに、未来を見たのです。
あのとき目にした、輝かしき未来に向かって、私は今日まで走り続けてきたのです。」
ー数十年前
全く、なんてベタな展開なんだ、と思った。
学校で嫌なことがあった帰り道に、ぼーっと歩いていたら、今まさに車に轢かれようとしているなんて………ってな。
自分でも不思議だった。
今まさに、こんな危機的状況に落ちているのに、他人事のように冷静に己の運命を受け入れようとする自分自身が………。
次の瞬間、目の前が真っ暗になった。
こういうのって、ほんとに映画やドラマのように、車が目の前まで来たと思ったら、シーンが飛んだように真っ暗になるんだな………と、そこも冷静だった。
そしてまたシーンが飛び、目覚める。
「う………うぅん………」
なんだ………? どこだ………よく見えねえ…………寝ぼけてるみたいに視界がぼやける………。
目をこすり、焦点が定まるのを待った俺の目に飛び込んできたのは、石で積み上がった建物が並ぶ街だった。
例えるなら、異世界ファンタジーの街のような………。
「うん………『ような』っていうか、それだな」
完全にファンタジーそのものだった。そして、察した。
「あぁー、はいはい」
なるほどね。完全にわかった。こちとら、伊達に、アニメやマンガやらラノベをかじってないんでね。
こんなことで慌てふためくと思ったら大間違いだ。こういうファンタジー展開には慣れてる。
車に轢かれたと思ったら、目の前に広がるファンタジー異世界………。つまり、死後の異世界転生ってやつだ。まったく………。
「ベタな展開だぜ」
全てを察した俺は、自分の仮説を裏付けるため、通りがかったおじさんに声をかけた。
「あー、おじさん、ちょっと聞きたいことあるんだけど………」
「ん? どうしたんだい?」
表情の柔らかさから伝わる親切そうなおじさんが足を止めてくれた。
よし、日本語は通じるようだ。
「えーと………」
答えの想像もつくベタな質問だけど………まぁ、お決まりってことで一応、聞いとくか………。
「地球って星、知ってる?」
質問を聞いた途端、怪訝な顔を浮かべるおじさん。まぁ、そりゃそうだ。聞いたこともない惑星の言葉を急に投げかけられたんだからな。
「え? ち、地球?」
オッケー。とりあえず、地球は知らない、っと………。
「知ってるけど………」
「え!?」
想定していた答えと違って思わず大声を出してしまった。
「………知ってる? なんで………あー、わかった」
これ、あれだ。俺よりも先に異世界転生してる奴がいるパターンだ………。
で、そいつが『地球という所から来た異世界人』として既に知られてて、こっちでブイブイ言わせまくってるパターンのやつだ。
「オーケー」
考えをまとめた俺は、再びおじさんに質問を投げかける。
「じゃあさ、その地球ってとこから来た人間を知ってたりしない?出来れば、会いたいんだけど」
俺の質問に、困惑した表情をさらに強めるおじさん。
「え? いや、地球から来たっていうか………うーん………」
おじさんは斜め上を見て少し考えたあと、諭すように言い放った。
「ここが、地球だよ?」
「……………へ?」
表情が固まったまま、俺は周りを見渡した。
目に入る景色はどう見ても現代ではない。
その瞬間、俺は、全く別の答えの可能性を感じ取った。
「あー………えっとー………ちなみに、西暦は………?」
「2070年だけど」
「あー………そっちかぁ………」
よくある異世界転生かと思ったら、異世界みたいになってた未来でした。
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