第51話 ズレ

「いや~。久々やなぁ、三人で話すのは」


「だねだね、私楽しみだよ~」


「あぁ、確かにそうですね。私は時々話しましたけど、三人で話したりするのは久々ですね。特に先輩は話してさえもいませんから」


ギルドの宿、私と先輩はそこで天界にいる雲さんに語り掛ける。


「そうそう、一応聞くけど人払いしてるか?」


見られてはアレだからと補足する雲さん。


「大丈夫ですよ絶対ではありませんが、人払いは済ませておきました」


帰ってからの商売話しを楽しみにしていたセレナさんだが、この話しだけはセレナさんは参加してはならない。


でもまぁ、あのセレナさんが納得なんてする訳なく食い下がってきたが、そこは企業秘密と誤魔化して下で待たせてる。ついでに門前にハリィを置いといた。盗聴されるかもしれないからな!


「そっか、友達いてよかったな」


はんなり笑う雲さんを見て、この人はやっぱり大人だなと思う。




「あっはっは。ん?そいや、カナリエちゃん胸そんなにありましたっけ?めっちゃ巨乳」


おい、大人。胸の事は後にしてよ。


「フッフッフッ。乙女はね、毎日成長するもんなんだよ」


「あ~成長したんですね。ん?成長?」


「先輩。変な事言わないで下さいよ」


「ん?大丈夫!空ちゃんも大っきくなるよ!」


「余計なお世話ですね。私はこれで、、、、満足してます」


「おーい、空ちゃん。ハンカチいるか~?あげれないけどな」


眉を垂らして私イジリは異世界に行っても変わらないのかと落胆する。




「にしても――今日はどういう気分なんだい?今まで三人で会話しなかったのに、今日は三人で話そうとしたのかい?」


頬杖をついて若干不機嫌気味に聞く。まぁ、数ヶ月まともに会話をせず利用する様に使ってからいきなり三人で会話ってのは嫌だよね。


「すみません雲さん。変ですよね、こんないきなり呼んで」


「いや、いいんよそこは。無理矢理送り出した私に問題があるからさ。でも、私と会話するなら早めの方がさ、人払いも要らないでしょ?私待ってたんだよ二人と話すおもしろいネタとか探してさ」


バツが悪そうに頭を掻いて視線を逸らす。




「ん?雲ちゃん。おもしろいネタってどういうの?」


先輩の質問に待ってました、と掻いてた手を何かを探す手に変える。


「おっ、あったあった。ほい、これ異世界ファンタジー作品いっぱい!」


「、、、、一応聞きますけど、これのどこがおもしろい話しですか?」


「空ちゃんの異世界勉強ついでに楽しく読めそうなのをさ。私も幾らか読んだし、これでおもしろい話題!」


「そうですか。でもそれって外国旅行してる人に国内旅行のパンフレット渡してるのと同じじゃありませんか?」


「――――――――、、、、、、、、」


また逸らしたよ。視線。




「いや、でもきっとおもしろいよ。それに、何か共通するところ位あるでしょ」


「きっと?」


「――――――――、、、、、、、、」


ねぇ、もしかして。


「雲さん。もしかして、、、、」


「いやぁ、違うよ。ちゃんと読んだよ。4冊位」


なるほど。パッと見18冊中4冊か。残り14冊は一体何を根拠におもしろいと言っているのだろうか。


「雲さん。雲さんが見たこの4冊、比較的に評価が高いヤツですよね?」


「――ギク」


やっぱりね。




「まぁまぁ、空ちゃん。きっと他のもおもしろいよ」


「そうですかねぇ、クラスの男子が見てたのが一冊混じってますが」


確かクソつまらねぇって言ってた気がするな、ソレ。


「安心してよ。少なくとも私が見た4冊はおもしろいからさ」


そりゃあ比較的評価が高いのだからな。


「とはいえ、ありがとうございます。きっと少し位共通点や使える事位ありますよ」


「流っ石空ちゃん。文句とか言っても最後は納得してくれる」


「そのせいで異世界に行かされたんですよ。あの時ダッシュしてでも逃げれば今頃はゆっくり先輩とゲームでもしてるでしょうね」


「えへへ、空ちゃん私と一緒にゲームしてるんだ。えへへ」


訂正。一人でします。




「そうそう、お喋りはもう少し後にしましょう。今回呼んだのは意見を聞きたいのと、調べて欲しい事があってですね」


「ほいきた。私に任せなさい!何の相談かな?」


パンと手を叩いて笑う。


「そうですね、今回も金稼ぎなんですけど、医療用品と食料品。どっちがいいのですかね?」


片方は難しいがその分見込みは高く、もう片方は上手くやれても修理費を稼ぐには時間が必要だ。


「そうだな。やはりここは安定性をとって食料品かな?医療用品はきっと出来んよ」


「やっぱりですか。でも、ここの医療水準ってたかが中世ですからどうせ高くありませんし、いけるんじゃないですか?」


「中世、、、、ね」


その言葉に手を組んで訝しげに呟く。




「一応は聞くけど、その世界の医療基準ってのはどんなのかい?あっ、いや、私が調べるよ」


パソコンを引っ張り出してキーボードを打つ。


調べ物の最中に話し掛けるのはどうかとは思うが、私は一応聞かれはしたので、一応返しとく。


「え~と、そうですね。医療用器具の種類は――分かりませんね。でも、頻繁に取り替えるらしいですよ。そういう器具とかは。それと、二日酔いの薬はめっちゃ効果凄かったですね」


本当にアレどうなってんだろ?現代医療上回る力って。ヤバいクスリか?


「なるほど。地方の村でも医薬品は手に入るんだ」


あぁっ!そっちの発想もあったか。


「それに、医療用器具の取り替え、つまり雑菌が病気や感染症の元となる事を知っている」


「いや、それは知りませんでしたよ」


「なら素直にその傾向を受け入れる寛容性。もしや――宗教の力が薄い?違う、宗教は科学自体を否定してない。否定してるのは教義に反する教え。でも、それにしたって寛容だ」




ブツブツと独り言気味に捲し立てる雲さん。天界で時々見たが、その度にこの人の頭の回転の速さと発想には常に驚かされる。


「ん?おっ、空ちゃん。この世界、“国立で科学を研究するアカデミー”があるで。しかも沢山」


「マジですか。中世時代で?」


「そうだね。確かにそうだけど、正直所々は中世超えて近世に近いよ。医療水準も中世と近世の境。しかも!手術は医者が専門でやるのか!」


え?それって当然じゃ?


「ん?どうした空ちゃん?もしかして昔は医者は手術しなかった事を知らないのかい?」


「うん。まぁ、、、、というか、手術誰がするんですか?医者じゃなきゃ」


「決まってるじゃないか。床屋だよ。曰く昔の医師は古代ローマを真似して手による仕事、つまり手術を避けてたの。有名な話しだけど、床屋のクルクル。あれは血、正脈、包帯を表してるなんて逸話があるよ。まぁ、実際は学識医、理容外科医、湯屋外科医を区別するための標識らしいけど」


本当に物知りだなぁ~雲さんは。




「とはいえ、クルクルの起源はどうでもいいとして、実際専門的な手術医は中世時代にはないよ」


「だから床屋って、、、、」


本当に分からないよね、と苦笑して続ける。


「そうだね、空ちゃん達は外科手術用の器具が作る予定なんだよね?」


「そうなるかな?需要は多分それ位ですよね」


ふとザッコさんの先がない腕を思い出す。


(あれも誰かが手術とかして切ったのかなぁ?)


「しかしなぁ~医学か。専門知識がないのが手ぇ出していい領域じゃないな。あぁ、ダメや。どれもこれもやっぱり麻酔が効いてる前提の器具ばっかりだ」


「あぁ、それもそうですかね。全身麻酔でなくとも局所麻酔用の器具しかないか」


「なるほど。局所用麻酔もあったか。調べよ」




――――20分。


大体それ程の時間。雲さんは黙々とパソコンに向き合った。


結果。


「プシュー。ほほほ、全く分かんねぇ。ネットの情報やウィキペディア先生じゃ役に立ちやしねぇ」


オーバヒートした。


だって医学なんていう専門知識の塊、無理だろう。一般の大人が理解するのは。


「悪い空ちゃん。力になれなくて」


「いや、雲さん。言わないで下さいよ。私こそお礼を言うべきです」


「そーだよ。雲ちゃんは頑張ったよ」


「いやいや、力になれない私が悪い」


消沈ムードが漂う。




現実はそんなに甘くない。人類2万年の歴史が私達に語り掛けるような重圧。


(これは、利益率が低くても料理かな?別に時間制限がある訳じゃないからそれでもいいか)


時間は貴重だが、バカは地道に歩むしか方法はないしな。


「ん~とはいえ、意外な物が開発されてなかったね」


そう言って画面にその未開発の品を映す。


「“体温計”?確かに意外な気はしますが、言う程ですかね?」


「カァ、分っとらんなぁ~。熱膨張程度国立アカデミーを作る奴等が知らない、もしくはそれを利用する体温計。そこに至る発想がないのが問題だよ」


額をペチンと叩くとわざとらしく語る。


「ここまで頭がよく回れた人類達よ?熱が出れば体は熱い。でもその熱の判定は人次第、だから平等な判定を下す物が欲しい。なら水銀の熱膨張力を利用して体温計を作る。コイツ等なら出来そうにな~」


うん。そうなのかな?




「ま、でも体温計は作るの簡単だよ。多分夏休みの工作程度で出来るからさ。ホラ、設計図」


「、、、、うん。ありがとうございます」


「どうした?変な所あったけ?」


「いえ、別に」


雲さんの質問にそうは答えたが、私は何かしらの違和感を感じる。


「まぁ、でも作るしかないよなぁ~」

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