第5話 初めてのクエスト

「どうだ?俺は腕に結構の自信はある方だぜ。それに初回サービスで、今回は無料にしてやるよ」


腕が片方ない人に、腕に自信があると言われ、私は雇用するかをちょっと後ろ向きに検討する。


現状自分達の能力がどこまで通じるか分からない為、ギルドでクエストを受けて圧勝して帰って来る可能性もあれば、逆に身包みを全部捨てても逃亡出来ずに先輩と仲良く死亡もあり得る。というか、格闘技未経験な上で武器もなければ、薄着もいいところな装備では返り討ちに遭う可能性が高いだろう。


かといっても、それを相手が見越してクエストに同伴と言っている可能性もあるし、例え外の敵が弱くとも片腕なくて碌に戦えるのか、、、、




「まぁ、雇うに越しませんね。それに、初回サービスと言ってクエストを平気で同伴するのは、多分強者の言うセリフでしょうし」


と、私は推察を交えながら雇う旨を伝えると、「おっ、中々話しが分かるじゃねぇか」と男が言葉を返して私の手を握る。


「ちょっと、待った!空ちゃん!本当にこの人を信用するの!?」


握手を交わした私達に、先輩は横槍を入れる形でツッコミを入れる。


「まぁ、先輩。折角本人から声を掛けられたので、ここはお言葉に甘えましょうよ」


「正直私も甘えたいよ。でも、信用出来る要素もないし、怖いんだよ〜」




随分わがままな感じで手を結びきれないと言うが、先輩の言っている事は非常に的を射ていて、完全に信用が出来る要素がない。


予想を更に立てても良いのなら、通常じゃ攻略不可能ななんいのクエストを受けさせ、私達が肉壁となる間に財宝的なのを盗むかも知れないっという予想等も出来る。


だが、「ここは一歩踏み出してクエストに行きましょうよ。それに、信用出来ないならギルドの人に聞けばどうですか?この人は信用に値するかと」


そう言い、私は酒屋のカウンター近くのボードに行くが、従業員らしき人物は不在のようで、少し待つついでに近くに貼られている紙を凝視する。




貼られている汚い紙には、文字らしきものは書いてなく、ただここら周辺の簡易的な手書き地図に、弱そうに見えるモンスターだと思う絵だけが書かれてあった。


ついでに、字は書かれずとも見た事がないが、不思議と数字だと分かる文字で、×2的な事が書かれてた。天界からは言われてないが、多分異世界に行く時に脳に刻まれたのだろう。自信はないが、多分字を見ても多分読めるし、よく聞くと後ろで大声で喋っている人達の言葉に、聞き覚えのない言語がテレビの翻訳時みたいに気にならない程度にが発せられている。


字が書いていない事から、順当にこの世界の識字率の低さが察せるし、それを踏まえてこのギルドでは倒すべきだろうモンスターの数と、クエストの地域を絵だけで伝えているのだろう。


良い心遣いだ。なのだが!妙にモンスターが弱っちく見えるせいで、本来なら凶悪そうなドラゴンがここでは黒点で描かれた目が、子供の落書き臭くて倒せそうに感じてしまい、身の丈が測れない。




「困ったなぁ〜。うっかりヤバイクエストを選んだら、死亡ルート不可避だよね、って?どうしたの?」


不意に服を引っ張られ、どうしたのかと振り向くと、エプロン姿の小さい瓜二つの女の子瓜二人がボードに貼られている紙と同じ質感の紙を私に突き出す。


「はっ、初めましてお姉ちゃん。あのね、コレね。今日の残ったギルドからの簡単なお使いクエストなの。これなら死んじゃわないと思うから、あのおじさんと一緒に行っていいよ。あと、わたし達は、ここのギルドの人だから、分からない事があったら遠慮しないで言ってね!」


「あっ、あたしも初めましてお姉ちゃん。あのおじさんね、すっごく優しいんだよ。だって、この前あたしに果物くれてね、凄くおいしかったの」


赤い髪に二つのお団子を結いだ子は、私の返事も聞かずに知らない文字で『依頼中』と、書かれた判子を押し、片方のおじさんを褒めた子は、青い髪に一つ結ったお団子をバインバインさせておじさんを褒める。




「へぇ〜、うん。そっか。じゃあ、二人の話をし信じて、お姉ちゃんはあのおじさんと一緒にクエスト行くよ」


「二人じゃないよ!わたし『ジギル』!」


「あたし『ハイド』!」


「そっか〜。ジギルちゃんと、ハイドちゃんか。よし、覚えたからクエスト行くね」


ジギルとハイドに、私は腰を低くして頭を撫でると、「行ってらっしゃーい!」と手を大きく振られて送り出されながら、、、、一つの疑問を口にしてクエストに向かう。




「なんであの子達。うるさいギルド内で、入り口に最も近い私達二人が話した言葉を、綺麗に聞き取ったんだ?」







短くはない移動の後、私は再び入った森の香りを一つ大きく吸って、このクエストの内容を確認する。


内容としては本当にお使いクエストで、森に自生するベリー的な果物を幾らか取って来いの事だ。


うまく行けばモンスターには出会わないし、最悪出会ったとしてもこの森では人の足で逃げ切れるモンスター多いと言うし、なにやら男は良い場所を知っているらしくそこにも連れて行ってくれるらしいのだ。




「ん〜。中々見つかりませんね。簡単なクエストでも、やっぱり少し難しい程度にはなっているのでしょうか?」


未だ足を止めずに森を真っ直ぐに歩きながら、私達は見た事もない森の中の植物を見るのも兼ねて、目を様々な角度に傾ける。


「そうだぜ。そうでもしねぇと、ギルドで解決どころか依頼主すらいねぇからな」


「とほほ。それ聞いたら空ちゃん私やる気なくなっちゃうよ〜」


「諦めないで下さい先輩。諦めらたらそこで三落ちクエ終了ですよ」


「あぁ、モン○ターハ○ターか〜。私も天界で買ったけど、すっごくおもしろかったよ〜。空ちゃんの世界はあれが毎日遊べるんだね」


「いや、あっちの世界学校があるから毎日じゃないけど、、、、夏休みとかなら男子は毎日やるんじゃないんですかね?」


毒にも薬にもならない雑談を交わしながら歩き、私達はどこにあるかを軽く探すと、足元の違和感に気付いて覗き込む。




「おっ、ありました先輩。この果物ですよね多分?」


「ん〜。よく分からないけど、そうじゃない?絵に描いているのがそっくりだから」


草を掻き分け、一部葉っぱが違う植物を発見すると、その先に絵に描いてた物に近い物があったが、、、、


「いや、確かにそれなんだが、オメェさん食ってみろよ」


と、男はクエストだけではなく、この世界初心者の私達にそう返す。


「え、コレ何が違うんですか?」


「まぁ、まぁ。俺の言った通りに食ってみろ。嫌なら、そこのアホっぽい子に食わせな」


「んな!?私アホじゃないよ〜!!」


「おぉ、そうかワリィな。じゃあ、賢そうなお嬢さん。そこの果物を一口どうぞ」


「んなはっは〜。賢いように見える〜?じゃ、それなら食べてみるね〜」




心の込もってない言葉に、先輩はチョロく騙されると、一房取って口に運ぶ。


「んっ!?すっ、酸っぱ〜い!!何コレ?凄く酸っぱいよぉ!」


口を押さえ、一言そう叫ぶと先輩は暫く自分の周りを忙しく走り、隻腕の男に笑われる。


「あっははっは。まぁ、酸っぱいのも仕方ねぇ。コレは未だ成熟してねぇんだ。本物は指の第一関節程のデカさだが、コレはちょっと小さいな」


「へぇ〜そうなんですか。物知りですね」


得意げに語る男に、私は自然と出た言葉を漏らすと、一瞬。男が固まり、私に振り向き言葉を投げ掛ける。


「、、、、ん?なんだ?本当に知らなかったのか?俺はてっきりウケを狙って言ったかと思ったんだが」


「いえいえ。ウケ狙いではありませんよ。でも、、、、それそんなに有名な果物なのですか?」


「ん〜。まぁ、二人共見る感じ世情に疎そうだし、そうかもな」


なんだか若干違和感のある納得のされ方をした後に、男はさっきの果物を指差しながら、異世界の世情に疎い私にこれがなんたるかを説く。




「コレはな、『インプリベリー』って言ってな、兎に角成長が早い事で有名なんだ。野生種でも10日あれば果実を作って熟成させ、品種改良した商売用じゃ実は一周間あるかないかで出来るめっちゃ早いんだ。勿論そもそものこの植物が成長する時間はさて置き、途轍もなく早いし果実を作り終えれば、また新しいのを一から作り直すんだ」


「それは、、、、凄いですね」


「あぁ、凄いだろ?ただな、どうもここじゃモンスターもあまり出ないし、暇な子供の遊び場にうってつけな森だから、ここら辺じゃ熟せば子供が食いまくって碌に熟成したのが食えないんだ」


「つまり?」


「森の奥深く。まぁ、さっきの様に真っ直ぐ前に歩くと、一面この植物が生えた場所があるから、そこで取るぞ。あっこなら少々危険でガキも来ねぇし、第1近くに生えているのをチマチマ取って、そのクエストが終わると思うか?」


確かにと思い、クエスト用紙を見ると、この果物の絵の横に異世界語で31ほにゃららと書かれてて、31キロかと思ったが、不思議と本当は約20キロだと思った。




「先輩。コレ見て下さい。何キロだと思います?」


「キロで?え〜と、コレは、、、、20キロ位?いや、でも数字は31、、、、もしかして?」


「えぇ、“単位”が違うんですよ。多分雲さんがそうしてくれたのでしょう」


確かに向うとこちらの単位が違うのは当然だし、そういう事での誤差さえなくす至れり尽くせりなサービスっぷりに、私は感心しながら言葉を続ける。


「20キロって事だから、、、、コレは確かに生半可な量じゃ足りませんね。あの人の言う通りここで横着せずに群生地に行った方がいいでしょう」


「決断が早くていいこった。オーケーじゃ、続けて歩こう」




ウインクをして私達の決断を聞き入れると、男はインプリベリーを齧り、酸っぱい酸っぱいと言って私達をエスコートする。


「にしても、中々に凄い場所ですねここは。自然が凄いって言うか、、、、」


「ん?もしかしてだが、お嬢さん二人が住んでいる所は、緑が少ないのか?こっちはこんな森はザラだぜ」


「いえ、あるにはあるんですけど、流石にコレ程ではないですよ」


「あっははっは、そうかそうか。じゃあ、この景色を呆れる程見れる凄腕冒険者になれるといいな」


中々に口が良い意味で達者な男に、そう言われて少しやる気が出ると、ささっと男の目の前を何かが通る。




「おっと、気を付けなお嬢さん達。“モンスター”のお出ましだ。二人は何が出来るかな?」


先のない腕を私達の前に出し、腰を屈めながら男は剣を抜き、真剣な声色で私達にそう問い質す。


「すみません。実は、正直言って自分でも出来る事がよく分からなくて、そういう意味でもクエストに行こうとしたんです」


「そうか。まぁ、気にするな問題ないさ。その為に俺が居るんだし、モンスターだって女の子に殺させるのは、酷な仕事だから今日はモンスターの動きを覚えな」


私達の戦力外通告を物ともせず、男はダンディーに決めると、一歩も動かずにじっと待つ。




「いいか。ここら辺周辺はまだガキの遊び場に出来る程にモンスターが弱くて、出会っても逃げ切れるんだ。だから殺そうとすると、こちらは棍棒とかで殴るだけでも勝てる。しかし、どうして弱くても、奴らは“ここに居る”?」


「それは、、、、」


「なーに。答えは簡単。腹を空かせたバカのモンスターがワンチャンを狙って、人間を襲うからだ。そして、そのワンチャンを狙って飛ぶ場所は必ず一つ」


男のモンスターに関する重要そうな話しを聞くと、私の隣でシュッと小さい草むらから猫程の大きさのネズミが飛び出し、私目掛けて“跳躍”をした。


日本で平和慣れした私には反応が出来ず、振り払う動きさえ出来なかったが、、、、


「くっ、たばれぇ!!」


目にも残らない速さで剣を振り抜き、男は私に向かって飛んだネズミをお腹から真っ二つに斬り裂き、血飛沫が地面と男のに着く前に剣を仕舞って返り血を受ける。




「そう、あれ程度のモンスターでは人間を殺す時に食らいつく場所は、“喉”その一点のみだ。首に牛の皮でも巻けば、ここはマジで子供でも遊べるお遊技場だ」


魔法陣が描かれた灰皿の形をした鉄板を取り出し、先がない方の腕に持って行くと、そもまま断面に押し付けて装備?をすると、葉巻を二本取り出して鉄板につけると葉巻の先が燃えて煙が出る。


それをすかさず咥え、灰皿を仕舞うと男の頬についた返り血を拭って一服する。


真剣な表情で大きく葉巻を吸うと、私達に一言男が投げ掛ける。




「どうだ?俺を雇って正解か?」




モンスターを殺すどころか、植物に関しても解説をしてあまつさえ命を救った恩人に、私が言える事はただ一つだった。


「最高です。ありがとうございました」

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