天使二人の異世界転移譚
日ノ々ヶノ々ヶノヶ崎
転移前
第1話 ここ本当に天界?
チクタクチクタクカチカチカチカチ。
時計の針が忙しなく音を鳴らしながら時間を進ませ、私の仕事の遅さを煽りたてる。
別に今日の仕事のノルマを済ませたのだが、それは頼れる同僚だったり、ちょっと頼りない『先輩』に今日も手を貸して貰った結果であり、正直私一人の能力では片せれない仕事だった。
私が『天界』に配属されて1年経ったが、仕事が驚く程に成長していない。いや、あるにはあるけど、、、、成長とは換算出来ないレベルの、微々たる成長だろう。
せめてもう一仕事を終わらせてから帰りたいが、時間とはかくも残酷な事に「キーンコーンカーンコーン」と終業のベルが鳴り、仕事をやめざるを得なくなってしまう。チクショウ。
「ほいじゃ、『空』ちゃん。バイなら〜」
手をフリフリと振り、私の同僚の『
「うん、、、、バイなら。雲さん」
「おうおう。もしかして、今日も自分で定めたノルマが終わらんかったのか?」
「うん、そうなんだよね。マジヤバイよ。本当に驚く程に仕事が進まない」
「う〜ん。空ちゃんは要領が悪い訳じゃないんんだけど、、、、何で仕事がうまくならないんだろうね?」
雲さんは顎に手を当てて、深く思慮をする様に考えるが、正直理由は明白だろう。
「いや、雲さん。それ私が今日丁度16歳だからだよ。普通に考えてさ、雲さんは既に大学卒業して仕事もちょっとやった上で、ずっとバイトやっていたから仕事慣れしているんだよ。それに比べて、、、、私は高校登校当日に雷に打たれて“死ぬ”とかさ。笑えるよ」
何を隠そう私『
幾ら学校との距離が近いからと言っても、雨の日でのダッシュが良くなかったな。おまけに、誰も居ない河川敷の道路で一人ポツンだから、人間避雷針だよ。避と書いてるくせに、実際は雷に当たったけど。いや、避雷針自体がそういう物だけどね。
ちなみに、私は一月産まれだから、まだ高校一年生。
「あはは。でもね、案外バイトしたり実践した事があっても、普通は一年でなれると思うけどね〜。事実、私はやってた仕事2ヶ月もあれば完全に慣れたよ」
と、生前バイトの一つもした事のない私に、雲さんは真剣に私の仕事の遅さに悩んでくれる。
確かに、私も自分のこの遅さはどうかと思う。
生前バイトもやった事もないけれども、一年やってこうも慣れない物なのか、、、、
「んまっ、空ちゃん。今日はそれを発散させる為にも飲もう!」
仕事で心配する私に、雲さんは私の肩を叩いて問題ないと言葉を介さずに私を宥める。
「、、、、そうですね。今日は私が奢りますよ」
「おぉ!太っ腹だね。じゃ、今までの仕事のお返しと思ってありがたく頂くよ。だって――」
「「今日は給料日だからね!!」」
手と手でハイタッチを交わし、今日私は財布の緒を雲さんの為に緩める。
だが!
「おっ、おっ奢りなの!?空ちゃん!それなら私もついて行くよ!だって、今日も私空ちゃんの仕事手伝ったし!」
ちょっと遠めの席に居た『天使』が立ち上がり、“光輪”を高速回転させて私に奢るかどうかを問う。
「ゲゲ!?もしかして『先輩』も来るつもりですか?」
「え!?ゲゲってどういう事なの空ちゃん!空ちゃんが一番頼れる先輩ちゃんの私に、それを言うの!?」
「エーゲゲナンテイッテマセンヨ。センパイキキマチガイナンジャナインデスカ?」
「う〜そ〜だ〜。酷いよ空ちゃん!もしかして、私の様な年齢の先輩は守備範囲外なの!?」
大袈裟なリアクションを私のデスクの近くで繰り広げ、先輩は飯を寄越せと駄々を捏ねる。
そのせいで、まだ会社に残っている上司から後輩達に話しを聞かれる。いつもの事だが、、、、恥ずかしい!
「シーッ!先輩静かにして下さい。ちゃんと先輩にも奢ってあげますので、静かにして下さい」
そろそろ掛け合い漫才は周りに迷惑だと判断し、私は先輩に耳打ちでそう伝える。
「ん?本当!?」
「はい。本当ですので、後でお腹一杯に食べて下さい」
「んなはははっはっはは!ありがとうね〜空ちゃん。じゃ、お給料引き出してさっさとご飯食べよ〜」
「はいはい。分かりましたよ」
先輩の上限なしのテンションに、(コレも一年経っても慣れないな〜)と思いながら、私は“空間”に手を入れ、今月の給料を引き出す。
私の手を入れた空間は、ワームホールやブラックホール的な何かのみたいな感じで、私の手元を覆いかぶさる様に見えない穴が空中に出来ていた。
無論。私が手で給料引っこ抜き、閉まれと思うとその空間は穴が閉じ、開いてた空間がなくなる。
「おぉ!やっぱりいつ見てもここの給料は良いですね。本当、日本だったら30万円相当ですからね。週2日キッチリ休めて、所謂定時で帰れるのに」
「ですよね。先輩の方の『世界』でも、やっぱりコレよりも少ないですよね?」
「そうだよ〜。私の方では、日本円?だっけ?それで10万も稼げれば駆け出しにしては十分だったよ」
その世界ヤベェなと雲さんがツッコミ、先輩がボケる中。適当に私は今日はここで食べるのが良いのではないかと二人に聞き、オーケーを貰うと胸を張って食事に向かった。
◆
“羽”を動かして、私達は今日ご飯を食べる居酒屋へと向かう。
聳え立つ高層ビルの間を縫う様に飛び、見下ろす光景は、生前では一度たりとも見た事もない絶景で、コレも一年経っても未だに美しいと思える。
視線を前に向けると、ふわふわと浮かぶ雲の上には道路が敷かれ、その道路の周りにビルが建ち、様々な『天使』達がその道路とビルの間を移動する。
街路樹が植えられている道路では、少々見にくいが多数の『天使』がそこを歩いて各々の行きたい所へ向かい、ビルの間には私の直ぐ隣にどこかへ向かう一団が空を飛んでいる。
数え切れない程の羽と光輪持った人間に近しい姿のファンタジーな『天使』と、道路にビル等の近代的な物と、植物と雲の自然がこの目の一枚に収まる凄い絵図だ。
瞳一杯にこの絵図らが映る中。私はふと、やって来た頃を思い出す。
私が雷に打たれて死んだ日。気付けば、私は何故か先程働いていたビルの中に立っていた。
曰く、ここは『天界』で、死んだ人間のかなりの大半はここに来るらしい。
訳が分からない状況で、私は兎に角仕事をすれば良いよ皆んなに言われ、私はここで仕事をした。
どうやら人間や、亜人的な自分で思考出来て文明を作れる様な生物は、死んだ後に三つの世界に分けられるらしい。
一つは私が来た『天界』。
天界は死んだ人間の8割方が来る所で、ここでは自分が『天使』となって生前犯した罪。要は誰々を殴ったや、ポイ捨てしたや、人を殺したりした時に重ねて罪を、天界の方法で人を幸せにさせて贖罪をする。
私の場合は、特に人を殺していないし、犯罪をしていない為比較的に軽いが、昔やった食べ残しや殺してしまった小動物達への贖罪だ。
あと、今こそは違和感が少ないが、人間いつ死ぬか分からないから、基本この天界での先輩後輩は先に死んだ人という形で分かれており、私が死んだ2日後に死んだ雲さんが天界では私の同期となってて、私よりも先に死んだ先輩が先輩となっている。正直、先輩風は雲さんの様な人に吹かれたかった。
ついでに、この罪は天界での生活態度に、仕事の意欲も換算して現在進行形で増える事がある。
そして、その残り二割の確率の内の片割れである場所の一つは『魔界』である。
だが、魔界に関しては私は実を言うとよく分からず、先輩や雲さんもよく知らない未知の領域だ。
唯一分かっている事は、地獄に行った者は『悪魔』になり、天使である私達と違ってコウモリの様な羽と、矢印みたいな尻尾が生えているらしい。
まぁ、肝心な職務はよく分からないが、魔界という位だしどうせ人を不幸にしているんじゃないかなぁ?
逆に天界でも、魔界でもない所として、『地獄』がある。
これなのだが、入る条件と仕事内容は魔界と違いハッキリと知られてて、ぶっちゃけ純粋に悪い事をするだけである。
多分天界に行かせても仕事が出来そうにない人間や、デスクワークだけで終わらせてはいけないカスを、何千年という時間を掛けて苦しめるらしい。
何千年は苦しそうで、同情もするが結局は自分のせいな為、正直言って当然だと思う。
コレが人間が死んだ時に行く三つの、『天界』、『魔界』、『地獄』である。
だが、、、、実を言うと、この三つ以外にももう一つ行く所がある。
例えば私が仕事を沢山こなし、自分の重ねた罪を贖罪し終えると、私は『天国』に向かえるらしい。
『天国』は贖罪を終えた者全てが向かえる所で、そこでは絵に描いた悠々自的な天国ライフが送れるらしい。
ちなみに、罪を全部消化した天使を『大天使』と呼び、仕事を全て終えた『悪魔』は『堕天使』と呼ばれて、二人とも天国で遊べる。
ただ、天使でも悪魔でもない者である罪人は、罰を消化しても天国には行けずもう一度人生を歩んで貰う事になるらしい。
それと、天国行きだが、別に強制ではなく贖罪を終えたら行けれる程度らしい。
更に、天界では仕事を抜きにして自分が自分が生きた世界で人に伝えたかった事を伝えたり、ちょっとした事が出来たりする事が可能だ。
早く死んでしまい、家族を泣かせたりしたのは正直心苦しく、一つ大きな恩返しがしたい為、私は食事の場を利用して仕事のコツを聞き出そうと決意を固めて、今の天界の生活を楽しもうとする。
事実。私の隣の先輩はこの天使ライフを十二分に楽しんでいる様で、毎日はしゃいで生きている。
そうそう。そういえば、先程亜人的のと言ってたね。それについてだけど、私は昔日本という国がある世界に居て、それは雲さんも同じだけど、先輩はちょっと違う。
先輩は私と雲さんが居た世界と全く違う、、、、所謂『異世界』に、住んでいたそうだ。
その異世界には日本もなければ、亜人や魔法が存在していたらしい。
そんな結構規格外な先輩が私の肩を叩き、「あそこだよね?今日の晩御飯を食べるのは?」と聞いてくる。
「えぇ、、、、そうですよ。『カナリエ・べフェルト』先輩」
「んな?なんで空ちゃん私のフルネームで言うの?」
「そういう気分なんですよ。ホラ、奢りますから一杯食べましょう」
「おぉ――――!!」
手を掲げ、先輩はよだれを流しながら天使な笑顔で笑う。
まさか私は、この飲み会を終えて次に出社した時。この人と異世界に行く事になるとは、、、、この時の私に伝えたい重大な情報だった。
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