セカンドダイス 第3話
「いらっしやい」
そう見慣れた顔を迎え入れると形式だけの確認作業のち店の奥にある相席テーブルへと案内する。
これだけ簡略化出来るのはお互い見知った顔だからだ。
セカンドダイスの営業は主にはドリンクの提供とお客さんへの案内だ。わからないことがあれば質問に答えるし、おすすめのボードゲームを聞かれたらそれに沿ったものを考える。
でも、ほとんどは常連さんがほとんどでそれも月のフリーパスを持っている人が多い。だから今みたいに案内して誰か来るまでお店で待っている人も多い。
そうなってくると、主にやることは支出の計算と帳簿付。ようは事務仕事がほとんどになる。今月もどうにかなりそうでなによりだ。これもここでボードゲームを遊んでくれているみんなのおかげだ。
こんな生活になれてきたことを不思議に思ってしまう。ついこの前までバリバリに営業周りをしていたと思うと随分と大人しくなったものだと思う。
外周りで仕事を持って会社に帰ることだけが、モチベーションだった。それによる給料アップも大事だ要因のひとつだし、余計なことを色々と詮索されなくなるのもそうだ。それも全部。プライベートをボードゲームに捧げるためだったと言っても良い。
話題の新作からマニアックな同人作品まで必死にチェックしていた。ボードゲームの即売会に顔を出し続けて色々なサークルと仲良くなったりもした。
だからなのだろう。仕事でのトラブルは多かったのだ。特に仕事仲間とだ。休みの日に連絡が来ようものなら、ものすごい機嫌が悪くなったし。邪魔をするなと怒鳴りつけもした。
逆に仕事が進んでいない後輩を見つけては、どうすれば良くなるかを必死に解いて説明した。
仕事は仕事。ボドゲはボドゲ。そう分けて生きていたらいつの間にか。めんどくさいやつというレッテルを貼られてしまっていたんだ。
それに気がついたときにはもう時は遅く。いわゆるパワハラする上司として会社で評判になってしまったからには居場所はなかった。
「よっ。店長。どうしたの辛気臭い顔して」
セカンドダイスの扉を乱暴に開けて入ってきたのは
先程案内した見知った顔は誰かと待ち合わせしているのかと思ったのだけど。なんてことはない目黒さんと落ち合っていただけだ。
「おや。そんな顔してたかい。奥で
昔を思い出して落ち込んでました。なんて、口が裂けても言えやしない。特にセカンドダイスをオープンするときにお世話になった目黒さんなんかには余計だ。
あの時も随分と心配を掛けてしまったし、オープンするにあたって背中を押してもらったりもした。
『ボドゲカフェを作ってくれたら絶対に通うからよ。やってくれよ』
そう懇願してくれた目黒さんを忘れたことはない。仕事で来れない日が多いから買わなくてもいいと言っているのに、フリーパスを毎月買ってくれているのにも感謝するしかない。
そうやってこのお店は成り立っているし、続けていけているのだ。
だからだろうなと思う。
ボードゲームでどんな商売をしようとその人の好きにすれば良いと思う。
でも、こうやってセカンドダイスがたくさんの人の力で支えられているというのに。隣で賭け事紛いなことで人を集め、甘い誘惑でお金を得ているのを黙って見ていたくないのだ。
近いうちにセカンドダイスのお客さんにがそちらに遊びに行く可能性だってあるし、騙される可能性もある。
賞金が出るってことは元手があるってことで。スポンサーでもつかない限り元では参加者から。より弱いものから搾取する構造なのは間違いない。
それにその一員であるミホちゃんのことも気になる。小室さんからの話だけだし、チヒロちゃんから借りた写真で確認してもらって間違いないのだが。情報としてはそこまでだ。
たまたま居合わせただけなのか、一緒に運営しているのかは想像するしかない。
「なあ。最近あの若い4人組の女の子みないな」
まだ居たのかと思ったけど目黒さんはなにか聞きたいことがあるみたいで、珍しくもごもごしている。
そういえばと思い出す。ミホちゃんにこっぴどく言い負かされたのはあんまり昔のことじゃない。でも、随分と前にも感じる。
そしてそれ依頼目黒さんがこっそりと気にしていたのも知っていたりする。口にしたいるわけじゃない。でも、こうやって態度にはすぐ出てしまうからだ。
「夏休みですしね。色々やることあるんですよ」
それを聞いて少しホッとしているのを見て、本当のことを教えたくなる。話せばきっと力になってくれる。でも、ことを大事にしたくはない。そんな気持ちがうごめいている。
「そっか。夏休みだもんな。そりゃそうだよな」
やっぱり、見つけ出して話を聞くしかない。そうしないと、このもやもやは消えないのだろう。
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