相手になりたい 第10話
結局、ミツルは目の前の便器を覗き込んだ。想像したら底にたまっている濁った水が、頭に浮かんできて恐怖のあまり振り払う。みんなに不思議そうな顔で見られたけれど、それとなくごまかす。想像力豊かですねなんて一回りも若い人たちに言われるなんて、それこそ想像もしたくない。
めくったチップもハコオンナノチカラで、モノガウゴクと書かれている。それを見てチヒロがどんどん生き生きしていくのが分かる。何か狙っているハコオンナノチカラでもありそうだ。
続く、敬子は2階ホールにある西洋ヨロイの中を覗く。
「うぇ」
妙な声がどこからか漏れた。おそらく自分自身なのだけれど、それを誤魔化すために話をめくったチップに持っていく。
「こんなに連続でハコオンナノチカラばっかりっておかしくないですか」
言いがかりをつけるつもりはなにのだけれど、ここまで連続でめくれ続けると不信感を抱いてしまう。
「そもそもハコオンナノチカラの割合多いですから。そう感じるのも仕方ないかもしれないですね。でも順調にイキノコルミチも近づいてると思いますよ」
それが事実ならばチヒロは追い込まれているはずなのだが、その余裕な口ぶりはなんなのだろうか。気になる。
「あれ?これってガソリンが弱点であること決まってない?」
そう言い始めたのはハルだ。獲得したチップをしげしげと眺めている。
「えっ。どういうこと?」
「いや、だって私白木の杭が弱点じゃないってチップ見つけたじゃない。前の方で錆びた鎖が弱点じゃないのもわかってるよね。つまりガソリンが弱点ってことじゃん?」
そう言われて初めて気がついた。弱点チップは3つしかないはずで、そのうち2つが入手済み。
「あー。バレちゃったかぁ。残念。上手く隠してたつもりだったんだけどね」
チヒロが随分と余裕そうだったり、演出を強調していたのはそういう意図があったみたいだ。どうりで進行が早く、口数も多かったはずだ。
「じゃあ、このガソリンでハコオンナやっつけられるってこと?」
ハルが持っているチップをみせてくる。その表情はゲームが始まってから一番輝いて見えた。
「だよ。それを使って宣言してから覗きこんでそこにハコオンナが居たら討伐成功だね」
「えっ。どこにいるか当てないと行けないの?難しくない?どこにいるかわかんないよ」
浴室を最後にハコオンナの居場所はわからなくなっている。あの後一回動きがあってどこに動いたのかまったく予想ができない。ハコオンナの居場所を特定しなくてはならないってことは、1回覗き込んだチップも再確認しなくてはならなくなる。しかも、チャンスは1回のみ。失敗したら違うイキノコルミチを探さなくてはならない。
「それこそ小室さんのポックリさんの出番ですよ。ねっ。部屋さえ特定できたらいけますって」
ようやく見えた希望の光にミツルが興奮しているのがわかる。いや、ミツルだけじゃない。敬子自身も胸高鳴るのがわかった。
「じゃ、私はハコオンナがいる場所を目指すってこと?こわっ」
ガソリンを手に入れてしまったのがハルなのだから仕方がないのだが、たしかに進んで近づくのは嫌だとも思った。しかもはずしたらダメなのだ。その重圧は計り知れない。
「まっ。とりあえずハルの手番だよね」
そうチヒロに促されて物音チェックを終えたハルの行動は敬子と合流するを選んだ。とりあえずポックリさんの力を使おうと言うことになったのだ。
敬子の方も探索を一旦中断してハルと合流するために再び1Fホールに戻る。順調に行けば食堂で合流できるはず。でもその前にハコオンナの手番を迎える。
物音チェックに失敗したわけではないが、5回目のチェックを終えたのだ。そして、目を閉じて開けた後、3人で絶句した。
「それってどういう意味かな」
「嘘でしょ。怖すぎるんだけど」
「どこにいるのかわからなくなってしまいました」
ハコオンナノチカラのカードが1枚テーブルからなくなっていたのだ。それはチヒロがその力を使ったとこを意味しており、このタイミングで使うことができるハコオンナノチカラは追加で移動することができるものが多いて説明を受けていた。つまり、ある程度予測していたハコオンナの位置が全くわからなくなってしまったのだ。
「えっ。ポックリさんって同じ場所で使ったら死んじゃうんだよね。やばいじゃん」
ハルが悲鳴に近い声を上げるのも無理はない。合流するはずの食堂に隠れでもしたらポックリさんを使った瞬間に敬子は死亡してしまう。
「どうしましょう」
問いかけたものの、手段としては違う場所で合流するが最善手だろうか。それでも、それすらも読んでチヒロが行動していたとしたらと考えると安直にそれを選択することもできない。
結局は先程チヒロが言っていたとおりなのだ。
『正解があるとしたらその決断が楽しめるかどうかだと思うけどね』
そのとおりだと思う。所詮は遊びなのだ。楽しまなくてはならない。だったら、失敗したらそれも笑ってしまえばいい。
「あの。ガソリン持ってるのハルさんですよね。だったら、私、死ぬ覚悟で食堂でポックリさん使おうと思います。隣にいるならそれはそれで設けもの。死んだらそこにハコオンナがいることになるので、そこでハルさんに頑張って当ててもらおうと思います」
覚悟は決めた。それでゲームに勝てるならなんてことはない。自らを犠牲にしてゲームに勝つ。美談と言えば美談に聞こえる。
「いいんですか?そんなリスクのある役回りで」
ミツルが確認してくるけれど、いまさら答えを変えることなんでかっこ悪くてできない。
「ええ。大丈夫です。失敗したらそれはそれで楽しそうですし」
敬子のその言葉にチヒロが笑った気がした。それで少しは敬子は自分に自身が持てた。
「方針は決まった?じゃあ、続き行くよー」
相談した通り、食堂でハルと敬子が合流する。その間にミツルは奥へ進み狙われていないであると予測し、そちらはそちらで探索を進めていく。ハルが失敗した場合には他の方法で生き残らなくてはならないのでそのためだ。間にハコオンナの行動がひとつ入るが、どこに動いたのかは相変わらずわからないままだ。それはしょうがないことなので、もう気にするのもやめる。
そして、いよいよ準備が整った。
「じゃあ、ポックリさんにお願いします」
ミツルの言葉にこくりとうなずく。ドキドキが抑えられたない。物音チェックも不安で仕方なかった。震える手でなんとか積んだ。それでもドキドキが止まらないのは覚悟を決めたからだ。
「ポックリさん。ハコオンナは厨房にいますか?」
隣の部屋を指定する。当たれば儲けものだからだ。
「なるほど。では、小室さんその部屋にはハコオンナがいました。残念ですが死亡です」
そう宣言するチヒロもそれほど嬉しそうには見えない。なぜってここまでは想定の範囲内だからだ。食堂にある物陰はふたつ。つまり50パーセントの確率で当たるということだ。
「死んじゃった場合、持ってたチップを全部、捨ててもらって。これからは箱人としてハコオンナ側として協力してもらいます。まあ、そうは言っても次で終わる可能性もあるのだけどね」
もはや、ハルの選択次第となっている今、チヒロも天命を待つだけとなっているのか、力が抜けている気がする。
「真っ暗な暖炉の中とダイニングテーブルの下かぁ。どっちがいいかな」
「どっちでも大丈夫ですよ。ここまで来たらあとは運だけです」
ハルがチヒロの顔色をうかがうのだけれど、肝心のチヒロの顔は表情豊かでポーカーフェイスとでも言うのだろうか。顔に出ていない。
「じゃあ、真っ暗な暖炉の中を覗き込みます!」
そう宣言したときのチヒロの顔がしばらく忘れられらなくなりそうだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます