相手になりたい 第9話

 一旦、やることがわかってしまうと、どんどんとゲームが進んでいった。チヒロは場所がバレているのをいいことにハコオンナが叫んで居場所を伝える。そうすることでハコオンナチカラのカードをひとつ引く。

 すると待っているのは目を閉じ続けている。ドキドキの時間だ。一刻も早く終わってほしい気持ちと、こっちに来て欲しくないという気持ちが入り混じり複雑さを増してく。

 それが心地よくもある緊張感を生み出している。これ、ホントにゲームだよね。そう思いながら開けたくなる目を必死に閉じ続ける。


 そうして開いたその光景はやっぱり頭を混乱させるものには十分すぎる。


「こ、ここにはいないよね」


 物音チェックはまた最初から積み直しだ。ハルが最初の1個を軽々と乗せてから、発した言葉は確認だった。


「まだ、届かないはず。いるとしても多分、ここじゃないかな。たぶんだけど」


 そうミツルが言葉をかけると、ハルは安心したのかチップを覗き込んだ。それはソノコガホシイというハコオンナノチカラチップだった。がっくりするハルをよそにミツルもどんどん進む。どうやらハルを追いかけることはしないようで、先に進むのを選んだ。それはハコオンナがいたはずの方向だ。


「なんでそっちに行くの?怖くないの?」


 ハルのもっともな質問にミツルではなくてチヒロが答える。


「まあ、あんまりおんなじところにいるとハコオンナに狙われやすくなるからね。狙いを分散させてるんでしょ。さて、どっちを狙おうかなー」


 そんな風に脅すものだから次の敬子の手番は物音チェックで失敗してしまった。チヒロの言葉に焦りすぎたのだ。それに、赤いディスクを積む番で回ってきたのもある。いやに緊張してしまったのだ。


「さ、じゃあ今回も叫んで見ようかな。居間にいるよ。小室さんのすぐ近くです」


 いやらしい笑みを浮かべるチヒロに恐怖がこみ上げてくる。場を作るのがうまいのはよくわかったから少しは手加減してほしいと思ってしまう。


 チヒロがハコオンナノチカラカードを1枚セットしてこれで2枚になった。使うまでは力は追加されないことになる。逆に言うと使う気があるってことだ。

 そうして、また目を閉じなくてはならない時間が訪れる。ゴソゴソと動くチヒロはやっぱり不気味さを感じる。


「開けていよー」

「あー。もうどこだかわかんないよー」


 そう言ったのはミツルだ。居間からは1Fホールと今いるミツルがいる浴室にしか繋がっていない。どちらかに移動しているのだろう。移動するからこそ居場所を教えてくれたのだ。いや、それとも……考え出すときりがない。


 その間にハルは順調に物陰を覗き込んで探索を続けていくが、チップはハコオンナノチカラばかり。これはハルも嘆いていたがツイてないとしか言いようがない。


 続いてのミツルは恐怖心から逃げるようにおんなじタイルの別部屋である便所へ移動する。そうしてまた敬子の番になるが、ここにはいないという安心感からか今度は赤いディスクの物音チェックを無事に通過。ハコオンナと一緒の場所に居たくない一心でミツルを追いかけるのを諦めて1Fホールへと戻った。


「うーん。みんなバラバラになってきたなぁ」


 さすがのチヒロも悩み始めたみたいで、ハルが更に奥の厨房へとコマを進めたあと、ミツルが物音チェックに失敗してしまい、しばらく考え込んだ。ここでかぁと呟いている。物音チェックをクリアしミツルが覗き込むのを待っていたのだろうか。


「まっ。いっか。叫ばないです。みんな目を瞑ってください」


 まただ。ガサゴソと何かを動かしている音だけが聞こえる。チヒロの合図とともに目を開ける。特になに変わった様子はないがどこかに移動したのだろうか。


「えっ。わかんないんだけど。こっちきたの?きてないの?」


 不安そうにしているのはミツルだ。それはそうで、ミツルが覗ける物陰はひとつ。そこにいるのかいないのかが重要になってくる。


「まっ。小室さんの手番なんでミツルの番はまだ先なんだけどね」


 それはそうで、とりあえず動かないことには始まらないので1Fホールから繋がる2Fホールに移動できる。そしてその先にあるのは子供部屋でハコオンナがいないはずの場所だ。敬子は迷うことなく移動を選ぶ。


 順調に順番は進み、ハルは厨房を探索。白木の杭の弱点チップがめくられて、それが弱点でないことがわかった。


 しかし問題なのは次の番のミツルだ。ハコオンナがいるかいないかわからない恐怖が覗き込むのを阻んでいる。


「えっ。ホントどうしよう。正解がわからないよ」


 ミツルのその言葉に敬子は激しく共感していた。そうなのだ。時折ボードゲームというやつは遊んでいて正解が見えなくなる。そうなったときに決断できなくて、立ち止まってしまうのだ。それが旦那を苛つかせる原因だということもわかっていたりもする。


「正解なんてあるけどないよ。いるかも知れないしいないかもしれない。正解があるとしたらその決断が楽しめるかどうかだと思うけどね」


 だから、ミツルのつぶやきにそう答えるチヒロの言葉に敬子はなんだか、自分に対して言われている気がして、申し訳ない気持ちでいっぱいになるのだ。

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