お隣失礼します。
ろくろ
第1話 面倒な彼
俺は、裕福な家庭の育ちであるが、家族との仲は昔から最悪だった。常に兄と妹を贔屓していて俺に興味の無い両親、甘やかされて育った理不尽で我儘な兄妹に嫌気が差し大学入学を機に家を出た。
勉強は割と得意な方で、大学は首席で卒業。其の儘、学歴とPC技術を生かし運よく大手IT企業に就職できた。
直属の上司、堤 葉一は神経質で功利主義な人。俺にいつもイチャモンつけて必要以上の仕事をさせる所謂パワハラ上司。資産家の息子で、誰もが息を吞むような端正な顔立ち、並外れた頭脳と美的センスを持ち合わせた才色兼備な人だった。
然し、其の厄介で不愛想な性格のせいで敵が多く、社内でも孤立しているような人なのである。
「おい八戸、これもやっとけ」
ぶっきらぼうに渡された書類の山は明らかに俺の仕事じゃないものだった。
「これ、堤さんの仕事でしょう?何で俺が?」
「煩い、上司の言う事くらい聞け、全く、本当にお前は使えない」
「はぁ、失礼致しました」
「はっ、どうせ彼女もいない独り身だろ?デートの予定がある訳でもなし、残業くらい問題ないよな?」
彼女は居ないんじゃなくて作らないだけなんだよなぁ。
「…分かりました」
「明日の朝には取りに来るから、今日中に終わらせておけよ」
そう言われ渋々仕事に取り掛かる。残業確定だ。
俺は今まで異性関係で良い思いをしたことが無い。普通に接することは可能だが、恋愛的、ましてや性的な目では見れないのだ。
それに今の俺には好きな人がいる。だから尚更異性の恋人なんざ必要無い。
「はぁ、やっと終わった…」
頼まれた仕事を終え、ギシギシと椅子を軋ませて背伸びをした。
「お!八戸〜お前まだいたのか、また堤に仕事押し付けられたのか〜?」
けたけたと笑いながら「お前も大変だな〜」なんて云って肩を組んでくる彼は堤さんの同僚の篠崎さんだ。
「まぁ、大変ですけど、これも仕事なんで」
「ははっ、さっすが期待の新人だなぁ!頭が良くて仕事が出来る、おまけに顔も良いと来たもんだ、さっきも女性陣が騒いでたぞ〜、これなら女にも困らないだろ?」
「まぁ、好みってもんがありますから」
「言うね〜」
楽しそうに話ながらじゃあ!と手を振り去っていく彼の背中を見送り、帰路につく準備をし始めた。
お隣失礼します。 ろくろ @HARUKITI_03
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