渡名 すすむ

目が覚めると、塔の中にいた。

 目が覚めると、塔の中にいた。

 ただただ暗闇が広がっていた。


 もしかすると、打ち捨てられた巨大な廃倉庫の中だったかもしれない。太陽に向かってゆっくり漂流するスペースシャトルの可能性もあった。でも、この場所はやはり塔なのだとかすかな記憶が教えてくれた。だから、自分はやはり塔の中なのだ。

 まず、一歩踏み出してみる。すると思わず転びそうになる――次の足場が思ったよりも低かったのだ。

(いったいどれくらいの長さの階段なのだ?)

 次に壁に触れてみる。手のひらに石材の冷たさが染みる。

 壁の向かいを慎重に手で探る。もし地面が突然消えればそのまま真っ逆さまに落ちていく可能性もあるが、幸いにも欄干らしきものがある。自分の心臓と同じくらいの高さだ。息を吸う。この欄干をよじ登れば、自分はきっと深淵に歓迎されることになる。

 辺りの臭いは全く良いものではない。しかしそれがなんなのかは全くわからない。

 そして最後に、自分は首輪をしている。首輪は鎖につながれており、それを引っ張ってみると石に擦れる音が聞こえ、鎖がまだまだ余っていることを感じる。かなりの長さのようだ。もうひと引っ張りしてみる――空洞のものが床をこする音、そして抵抗。何か重たいものだ。

(これは、一体なんだ?)

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