ジオラマ

勝利だギューちゃん

第1話

無の世界。


今、僕はその世界に紛れ込んでいた。

いや、正確には無ではない。


周囲は、僕が住み慣れた町、そのものだった。

人はもちろん、あらゆる生物がそこにいる。


しかし、ピクリとも動かない。

そう・・・ピクリとも・・・


最初は、時が止まっているのかと思った。

しかし、時計はいつものように時を刻んでいる。


正確に、狂いもなく、時を刻んでいる。


つまり、実物大のジオラマの中に、紛れ込んだようだ。

上から、誰かに見られている気がする。


そうあっても、おかしくない状況だった。


悩んでいても仕方ないので、歩いて見る事にした。


近所の顔見知りの、家の呼び鈴を鳴らす。

応答はない。

外から、人の影が見えるが、動いている様子はない。


近所のコンビニに行ってみた。

自動ドアが開く。

機械は動いているようだ。


つまり、生物だけが動いていない。


駅まで行ってみる。

電車がいつものように、走っていた。


しかし、中には乗客もいる。

運転士も車掌もいる。


ダイヤの通りに動いていて、ドアも開く。

しかし、乗客の乗り降りはない。


それが、繰り返されていた。


「落ち着いて考えよう」


そう思い自宅へと向かった。


ドアを開けて、部屋に入る。

途中で家族を見かけたが、やはり動かない。


テレビはついている。

しかし、テレビの中の人も止まっている。


ただ、同じ音や声が壊れたCDのように、続いている。

ラジオもそうだ。


部屋に入ると、ベットに倒れこんだ。


「眼が覚めたら、元に戻っているかもしれない」


その時呼び鈴が鳴った。


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