二千十_年三月十_日

猫田

私の家族

 私たち家族は、母、姉、妹、私と女が4人。そして男は父だけだった。

 父と母は共働きで、姉も私もバイトをしていたので生活には困らなかった。

「灯!あれ録画しといで!」

「ん」

 母に言われた「あれ」で分かるのか、姉はテレビをつけ番組を録画した。

「灯、あれって言われで分がるの?」

「分がんね。んでも多分これだど思う」

 そうすると、姉は私に番組表の録画したところを見せた。そこには…

「あー…なるほど。母さんの好きな《あゆ》か…」

「うん。確がにあゆ、顔めんこいし、声もめんこい、歌も上手えがらね」

 そうしてテレビをミヤテレ(宮城のTV番組)にすると、姉は大学に持っていってる鞄から5冊の本を出した。

「わあ、灯…またほだに本借りてぎだの?また歴史?」

「そ、歴史!坂本龍馬と、毛利元就、そして政宗!!」

 姉はかなりの歴女で、小学生の頃から歴史に興味を持っていた。なので姉は長話は全然しようとしないタイプだが、歴史の事となると話が必ず長くなる。そういうところは父さんに似ている。

「あと広島舞台の本!高知も!」

 好きな歴史人物の出身地は、必ず一緒に好きになるのが姉だ。

「独眼竜ってかっこいいよね…!うぢの地元にそう呼ばれでだ人居だんだっちゃ!!」

 昔から慣れているので特に気にしていないが、姉は小さい頃結構訛ってる爺ちゃんとよく一緒に居たから周りよりも方言がひどい。

「あはは…石巻に居だがは分がんねーけどね…」

「あの頃は石巻だって仙台藩だもん、居だに決まってるっ!」

 まーた長話が始まりそうな予感…と思っていると、いつも妹が助け話しかけに来てくれる。

「今日ね、おんなじばらぐみのれいやくんがね、未来におてがみくれだの!」

 と、保育園であったことを話す。未来とはかなり年が離れていて、姉と未来の2人で歩いていると親子に間違われることが多々ある。

「どいなお手紙もらったの?」

 と、必ず私は聞く。するととんでもない一言が必ず返ってくる。

「らぶれたー!」

「はぁ!?」

「……っげっほ!ごほ!!うぇ!?」

 この時の妹の発言は私からしても灯からしても衝撃的な言葉だった。

 どうやらラブレターだったらしい。私はその場で硬直し、姉も衝撃のあまり咳き込んでしまった。

「それでね、未来ね、れいやくんのかのじょになっちゃった!!」

「ぐふっ…」

 更に衝撃の発言が返ってきた。

 もう姉が自分に彼氏がいないのに未来にいることに傷ついたのか、妹が衝撃の発言を繰り返すあまりショックを受けているのかよく分からない。

「そのれいやくん、イケメンな子!?」

 そして母まで食い付いてきた。緊急事態にすぐ対応するのがうちの家族だ。


 姉の帰宅が遅いときには、家族みんなで待った。

「灯、大丈夫がなぁ…誘拐どがされでだりしねーがなぁ…」

 父はとても心配性で、娘の帰宅が遅いときにはいつもアワアワしていた。しかし、姉の年齢になって誘拐されたらある意味事件だ。

「もー、あの年になって誘拐なんてされるわげねーべ?」

 この父と母の会話が、もはやテンプレと言ってもいいくらいだった。

「んでも、交通事故どが…」

「たーだいまー」

 どれだけ心配されても、結局は当たり前のように帰ってくるのが姉である。

「おい灯!何時だと思ってんだ!」

「何?また説教?あのさぁ…もう私大学生だよ?20歳越えでるの!高校生の時の門限守ろうが守らまいが私の勝手だべ?」

 そして絶対に始まるのが、またもやテンプレの父と姉の喧嘩である。

「父さんは灯心配してだな…」

「はいはい、喧嘩はやめる!今がらご飯なんだがら!」

 そうしてなんだかんだあり、やっと夕食にありつけるのだ。


 こんな幸せ(?)な毎日が、ずっと続くと思ってたのに。思っていたのに。あんな事起こらなければ、ずっと続いていたのに。

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