17.絡みつく視線
私が暮らす部屋には古いながら、お風呂がついている。
部屋自体は私が片付けや掃除が得意でないことを考慮しても元から新しくて綺麗とは言いがたいのだけど、なんとお風呂だけはトイレと別にちゃんとついている。
お風呂場にやってきた私はするすると服を全て脱ぎ、その上に眼鏡を外して乗せる。春先の古いお風呂場は寒いけれど、私はえいやっと気合いを込めてバスマットの上に飛び乗ってお風呂の
緊張、色々な要素で固く結ばれていた私の口元が少しだけ緩む。
裏返して渇かしていた
「……あっ」
だけど、私は石けんを取り落としてしまう。指先は
「………………」
体や髪を洗う間、私はずっと唇を引き結んでいた。そりゃあ、一人でお風呂に入る時に騒がしくすることもないけれど、どうしてか一言も発してはいけない気がしていたのだ。
私は背筋に忍び寄るような寒さに耐えかねてぶるりと小さく身震いをすると、体に付いた石けんの泡を風呂桶に
暖かかった。
本当ならほっと息でも吐いてリラックスしたいところだ。
だけど、私は背筋を丸めて母親のお腹の中の
だって、私はずっと
最初は痴漢、覗き、変質者の類いの仕業かもしれないと考えていた。古いこの家は
実際、二軒隣に住んでいた若い女性は元交際相手のしつこいストーキングから身を守るためにもっとセキュリティのしっかりしたマンションへ引っ越したという。
まさか私みたいな
ならば現行犯で抑えてやろうと気を張っていたのも
だって、いくら私が気をつけて辺りを見ていても、それは必ず私の死角から絡みついてくるのだ。出入り用の扉と換気用の小窓しかないこの狭いお風呂場で、そんな芸当が出来る人間がいるだろうか。
ちょっとあり得ない。幽霊や妖怪の類いならばともかく、そんなことは……。
そう考えて、私はぞくりとする。
ぴちゃん、と天井から冷たい
妖怪。そう、妖怪の仕業かも知れない。さっき私が考えていたしょうけらの設定と今の状況は奇妙に
今、視線と気配は頭上に設置された換気用の小窓の方から感じられた。私が視線を水面に固定していた為か、それは
だから私は心の中で五から数字をカウントダウンしはじめる。そして、それが零になった瞬間、ばっと素早く顔を上げて窓を見上げた。
……そこには何も居なかった。
ただ、換気のために数センチだけ押し開かれた窓があり、その向こうには暗闇だけが広がっていた。
「………………」
ぴちゃん、とまた天井から冷たい雫が滴って湯船に落ちた。
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