第102話:協力者1

 ウィンダイムに運ばれてコルドに向かうと、あっという間についてしまった。

 先に掲示板に立ち寄ってから、交流のある色即是空のギルドに向かう。

「こんにちはー」

「おう、らっしゃい」

 扉が開いて、タケミカヅチが出迎えてくれる。入口に立つと後ろが見えなくなってしまうような、タケミカヅチの巨体は圧がある。それにしても、ここのギルドマスターだというのに、ここで見かけたのは初めてのような気がする。

「今日は、相談があって……」

「おう! 今朝手紙届いとったぞ」

「じゃあ、話が早いですね」

「うちのギルドは全員討伐に参加だ。今日は、準備してっから明日には出発するぜ」

「頼もしい」

 ギルドハウス内を見ると、他に人の姿はない。

「アンネさんは?」

 以前、フレイリッグの話をしたことを思い出して姿を探す。

「買い物だか倉庫だかだな」

「ありがとうございます。せっかくなので探して挨拶してきます」

「おうよ。見つからなかったらまた後で来な」


 ギルドハウスを出て、ひとまず商店が並んでいる倉庫のある通りに向かう。

 相変わらず人通りは多く、掲示板の周辺にすでに人が集まり始めている。

「いました」

 セーレが指さした先を見ると、見覚えのある後ろ姿が見える。雑貨屋で消耗品を購入しているようだ。長身かつ褐色に金髪のアンネリーゼの姿は、遠目でもよく目立つ。

「アンネさーん」

 モカが駆け寄っていく。

「あれ、モカちゃん。と、お二人さん」

「討伐参加してくれるそうで、ありがとうございます」

「おう。お手伝いさせて~」

「でも、よかったんですか?」

「ああ。前に話したこと気にしてた? まぁ~。あの頃は、そうやったけど……戦争よかよほどええし、勝算もありそうやし、皆で行ったろーって感じ。コルドの仲ええギルドにも声かけといたよー」

 アンネリーゼも参加には前向きなようで、その言葉を聞いて安心した。

「ありがとうございます」

「しかし、レオくんが主催なんやねぇ。こういうの言い出すのって、セーレくんかアキくんやと思っとったわ」

「はは……。まぁ、よろしくお願いします」

「うん。頑張ってな。皆のナイトさん」

 アンネリーゼが、その言葉と共にウィンクを飛ばしてくる。


 それからコルドの上空からチラシを撒いて、時間がありそうだということでサティハラまで移動してまた同じようにチラシを撒く。

「今日は、サティハラ泊まろうか」

「はいっす。ここまで来たらアルヴァラにも寄っていくっすか?」

「そうだな……。移動思ったより早いし行こうか。しかし、懐かしいな」

「こっち来て最初、アルヴァラに泊まったっすよね」

 俺とモカがセーレを見ると、セーレが首を傾げる。

「いやー。最初の頃のセーレってさぁ……」

「……なんですか」

「めちゃくちゃ話しかけ辛かったっすね。何かやらかしたらボク処されるかもって、びびってたっす」

「モカは、しょっぱなから地雷踏んでたもんなー」

「モカさんは今でも地雷踏むでしょう」

 そう言って、セーレがモカの頬を指でつまんでむにっと引っ張る。

「ふえぇ。そういえば、セーレさんは男になった時どう思ったっすか? 声とか身体とか……」

 セーレがモカの頬を引っ張る指にさらに力を込める。

「はい、モカアウトー」

「ぎゃぁああっ! 痛い!」

「セクハラです。モカさん」

「ごめんなひゃい」



 翌日はアルヴァラの掲示板に立ち寄ってからチラシを撒き終わると、すぐにトンボ帰りでカーリスを目指して移動していく。帰る途中の街道で、ちらほらとプレイヤーが馬や馬車に乗ってカーリスの方面に向かっている姿を見かける。全員がフレイリッグ関係ではないとは思うものの、それでも期待を込めた目を向けてしまう。

 アルヴァラでチラシを撒いた二日後の夕方にはカーリスに戻って来られた。以前移動した時のことを考えると早いものだ。

「はー。ちょっと身体冷えたっすねぇ」

 モカが腕をさすりながら歩く。

 ギルドハウスの前には、本日の受付終了。と書かれた看板が置かれている。

「ただいまー」

 ギルドハウスの扉を開けて入ると、マリンとエリシアが机に突っ伏している姿が目に入る。

 その向こうで、クッキーとリコリスが紙の束を箱に仕分けている。

「あ、おかえりぃ……」

「ど、どうだった? 参加者とか……」

「いやー。それが、めちゃくちゃ来たよ」

「現在で、討伐参加希望者350名、製作等の支援希望者600名程度ですね」

 クッキーが答える。

「え、そんなに?」

 戦争の時の規模を思い出しても、ずいぶんと多い。

「今日はターハイズからいらっしゃった方が多かったですね~。コルドやグバルからもチラホラと」

 リコリスが紙をトントンと揃えながら言う。

「ハルメリアからは、昨日一昨日がめっちゃ多かったよ~」

「編成はどのようにされますか? 一応、ギルド単位で申し出があった人はギルドで、個人参加は個人でクラス別に仕分けております」

 クッキーが俺とセーレの顔を交互に見る。

「えーっと……」

「そうですね。まずはギルド単位にしましょう。連絡がスムーズにできますし」

 セーレが、クッキーの傍らに行って用紙を覗き込むので、俺も同じように見に行く。

 名前とギルド、クラス、簡単な装備の情報と滞在場所が書かれている。

「そういえば、シオンさんとバルテルさんは?」

「お二人は、製作の支援物資の配布でターハイズに出かけておりますね。明日には戻ってこられるかと」

「なるほど」

「船の大砲はありすぎても置く場所がないかもしれませんので、ひとまず予備も含めて100門分製作中です」

「そうだなぁ。あの広さだと、確かにそんなには置けなさそうだな」

 話していると、ギルドの扉がコンコンとノックされる。

「はーい」

 近くにいたモカが扉を開くと、俺とモカが以前所属していたギルドで仲良くしていたメンバーの、ミズキとサシャの姿があった。

「お、レオンとモカいるじゃん」

「帰ってきてたんだね」

 サシャが俺とモカの姿を見て言う。

「そうそう、二人にも手伝ってもらってるの~」

「おー。ありがとう!」

 なんでも、募集のチラシを見て、手伝えることはないか聞きに来てくれたらしい。

「イーリアスから日報もらってきましたー」

「ありがとうございます」

 ミズキがクッキーに書類を渡して、それにクッキーが目を通す。

「それでは、皆さん。夕会を始めます」

「夕会……?」

 モカが首を傾げる。


 クッキーが木のボードに紙を貼りつけていくと、ぐったりしていたマリンとエリシアが背筋を伸ばす。

「まず、討伐参加希望者と、製作支援希望者は先ほど話した通りです」

 木の棒で紙を指しながらクッキーが言う。

「船の製作に関しては、昨日時点で全体の進捗が20%程度。日数の余裕はありますので、こちらは問題ないかと。拠点作成の方は木材不足で都度補充しながら製作。今のところはカーリスの城やギルドハウスを提供しているので、他の街から来られた方も問題はなさそうです。拠点運用のために、新たに食料班を編成。洞窟内の舗装は、あと一週間もあれば整う予定とのことで、概ね順調でございますね。わたくしからは以上です」

 クッキーが喋り終わると、マリンが手を上げる。

「要望でいくつかあったんだけど、討伐までにレベリングしたいから希望者でパーティーのマッチングできるようにしたいってー」

「では、パーティー希望者向けの案内を作成するとして、具体的にはいかがしましょうか」

「うーん、希望者は聖堂に集まってもらったらどうかな。あまり使う場所じゃないけど広さはあるし」

「じゃ、名札……。いや、聖堂に看板設置したらどう? アタッカー列とかヒーラー列みたいな感じで並んでもらってパーティーに拾っていくの」

「マッチングは時間を決めて行った方が効率的かと思います。10時、12時のように時間付近に希望者は集合という形で」

 マリン、エリシア、リコリスが順に提案していく。

「はい。なかなかよろしいかと。では、一旦その運用で参りましょう。他は大丈夫でしょうか」

 出かけている間に、何やらしっかりとしたチームが出来上がっていたようだ。皆が頼もしい。しかし、主催なのにプロジェクトに途中参加したような疎外感を感じてしまう。

 セーレが手を上げる。

「銃って作ってます?」

「そちらは船建造の目途がついたら製作予定です」

「了解です。ありがとうございます」

「レオくんたちはどこまで行ってきたのー?」

「ああ、コルドのあとはサティハラとアルヴァラ行ってきたよ」

「じゃー、今後はその辺からも来るかもしれないわけね。おっけー」

「それでは、今日はこれにて。皆様お疲れ様でした」

 クッキーがペコリとお辞儀をする。

「皆ありがとう」

「レオくんたちにも明日からは、いっぱい働いてもらうからねー」

「演説とかしてもらったらええかもな~」

 マリンとエリシアが笑う。

「……考えておくよ」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る