第101話:フレイリッグ討伐参加者募集3

 ハルメリアからコルドに向かおうとした翌日は生憎と雨だった。

「うーん、移動するっすか……?」

「いや、明日でいいんじゃないかな……。雨の日に行っても人いなさそうだし」

「向こうも雨だとは限りませんが」

 確かにその通りではあるが、雨の中を移動するのは気が滅入る。

「セーレは、雨の中移動したい?」

「いえ……休養に当てましょう」

「というわけで、今日は休みで……。ギルドに手紙で進捗送っておこうかな。二人は何か報告ある?」

「ないっす~」

「オレもありません」

 手紙を書いて外に出しに行こうとすると二人ともついてくる。暇なのだろう。

 それほど雨の勢いは強くはないが、建物や木々に雨粒が当たる音が聞こえ、雨の臭いがしている。


 手紙をポストに投函して、適当にその辺の店を見て回る。

「あっ」

 モカが楽器を売っている店に興味を示して入っていく」

「モカも何か弾くの?」

「いやー。でも、人の見てたらかっこいいなって、何か買おうかな~」

「俺も買ってみようかな」

 店内には様々な楽器が置かれていて、セーレは笛のコーナーを見に行く。

「笛も吹けるの?」

「いえ、笛はわかりませんが……。ウィンダイムを笛で呼べないかなと」

「確かに呼びに行くの面倒だよな。街中置いておけないし」

「バイオリンで呼んだらいいんじゃないっすか?」

「それだとオレ以外が呼べないでしょう」

「そうだなー。えーっと、この辺の……ホイッスルとかどう?」

 昔、体育の授業で見た物を指す。現実のホイッスルと形は似ているが、綺麗な装飾が施されていて目を楽しませてくれる。

「それなら誰でもいけそうっすね」

「それじゃ、まとめて買っておくね」

 一応ギルドの人数分購入しておく。

「セーレさん、ピアノ教えて欲しいっす~」

「オレは教えるのは得意ではありません。ピアノならクッキーさんに聞いてください」

「ちぇーっ」

 楽器屋で気になったものを買って外に出ると、シャノワールが歩いているのが見える。シャノワールは、猫耳のついた黒い傘を差している。

「あれ、シャノワールさん」

「おや、まだいらっしゃいましたか」

「うん。雨だから明日移動しようって」

「その傘可愛いっすね」

「黒猫特製ですにゃ。ギルドに帰れば在庫ございますが、ご入用ですかにゃ?」

「欲しいっすー」

 モカは遠慮がなく、正直だ。

 せっかくなので、皆で黒猫オーケストラのギルドハウスに向かう。


「おじゃましまーす」

 黒猫オーケストラのギルドハウスに入ると、音符の模様が描かれた壁に、猫や他の動物の形のグッズがそこかしこに置かれている。全体的な色合いは白黒にたまにブラウンが混ざる配色で、おしゃれと可愛いの中間のような雰囲気だ。

 シャノワールが一旦別の部屋に消えてから、再び戻ってくる。

「どうぞ」

「ありがとうっす!」

「いや、俺はいいです」

「オレも結構です」

 シャノワールが傘を俺とセーレにも渡そうとしてくる。俺とセーレは断ろうとするが、トレード画面が何度でも表示されるので仕方なくOKを押すと、シャノワールがにっこり笑う。

「飲み物をお出ししますにゃ。お好みはございますかにゃ?」

「俺はコーヒーで」

「ボクはリンゴジュース」

「オレは紅茶がいいです」

 ソファに座るとシャノワールが飲み物とお茶請けを並べて、自らの前にもコーヒーを出す。

「他の方はいないんですか?」

 人数の多いギルドなのに、他のギルドメンバーが見当たらないことを不思議に思って、首を傾げる。

「昼間はだいたい劇場か、個人の家かカラオケにいるメンバーが多いですにゃ。ここで楽器を練習すると煩くなってしまいますので」

「なるほど」

「セーレさん、昨日はありがとうございました」

「こちらこそ。宣伝の場をいただいて」

「あのオリヴィエさんが絶賛するだけはありましたにゃ~。リサイタルしてみてはいかがですかにゃ?」

 オリヴィエとは、確かセーレのバイオリンの先生の名前だ。

「遠慮しておきます」

「えーっ、やってほしいっす貴公子ぃ~」

「その呼び方やめてください。もう、シャノさんが変な呼び方するから……」

「ステージは、言葉で盛り上げるのも大切ですにゃ」

 シャノワールの言葉にセーレがため息をつく。

「あっ、そういえば」

 シャノワールがカップを持った手を止める。

「こちらあると便利かと思いますので、どうぞですにゃ」

 シャノワールからトレードで、耳にかけるタイプのマイクが送られてくる。

「あれ、こんな形のあったんだ」

「最近作りましたにゃー。手が塞がると不便なこともございますので。演説等にご利用くださいにゃ」

「あー。指揮の時にあると便利かも。もうちょっと数あったらいただけませんか? お金払いますので」

「お代は結構ですにゃ。どうぞ」

 シャノワールから追加でマイクが十個渡される。

「ありがとうございます」

「他にご入用な物がございましたらお声掛けくださいにゃ。我々も来週の公演が終わったら、カーリスに向かう予定ですにゃ」

「すみません、狩り主体のギルドではないのに」

「いえいえ、他のプレイヤーさんがいてこそのギルドですので、お手伝いはさせてくださいにゃ。それに、我々もリアルでも演奏したいですしにゃ」

 今日のところは、黒猫のギルドハウスでお茶を楽しんでから、せっかくの機会なのでシャノワールと一緒にカラオケに行った。シャノワールはセーレと音楽の趣味が合うらしく、それで盛り上がっていた。



 翌日、雨が上がったのでウィンダイムの姿を探す。

「この辺で待つように言ってたはずだけど……。どこだろう」

 森の付近を探すが見当たらない。一日放置してしまったから、暇になってどこか行ったのかもしれない。

「ウィンちゃーん」

 呼びかけるが返事がない。

 セーレがバイオリンを取り出して弾き始めるとしばらくして、ウィンダイムが森の中からぴょこんと頭を出す。

「あっ、いたいた」

 ウィンダイムはふわりと飛び上がってから俺たちの前に着地をして欠伸をする。

「寝てたの?」

「うん。やることない時はだいたい寝てるよ」

「暇させちゃったかな」

「うーん、寝てれば暇じゃないよ?」

 独特な感性だ。

「……うん。そうだ、今度からこれ鳴らしたら来てくれないかな」

 ホイッスルを取り出して鳴らすと、音が辺りに響き渡る。

「いいよー」

 どれくらいの距離まで届くかはわからないが、声よりは遠くまで通りそうな気はする。

「今日はコルド?」

「うん。お願い」

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