第37話:再会の時2

 一夜明けて昼。恐る恐るギルドハウスに戻ると、マリンとシオンが仲良く談笑している。

「こんにちは。いや、ただいま……かな?」

「ただいまっす」

「おかえりー。昨日はごめんね~!」

 マリンが両手でごめんのポーズを顔の前に作る。

「おかえり~」

 部屋にいるのは二人だけで、他の人の姿は見えない。

「他の人は……」

「あー。セーレは……様子見に行ってなくて……。クーちゃんは寝込んじゃった……。バル爺は買い物」

「そっか……」

「ご飯は食べた?」

「昼はまだだけど……」


 その時、廊下からクッキーがセーレに謝っている声が聞こえてきて、その後にクッキーの悲鳴が聞こえてくる。

 皆、戦々恐々として、奥の扉に視線を向けるとクッキーを小脇に抱えたセーレが出てくる。


「お、おはよー……」

 マリンが挨拶をする。

「おはようございます。昨日はご迷惑をおかけました」

 セーレの表情はいつもと変わらないが、内心は伺い知れない。セーレに抱えられているクッキーは耳がしゅんと垂れている。

「では、オレはクッキーさんと狩りに行ってきますね」

 皆おろおろした様子で、扉に向かうセーレを見ている。しかし、セーレが扉に手をかける前に、先に扉が開いてバルテルが姿を現す。

「おや、お出かけ?」

「ええ。狩りに行ってきます」

「狩りより先にやることあるじゃろ」

「なんですか?」

「シオンくんの歓迎会」

 そう言って、バルテルはきらきら光る花のエフェクトを周囲に散らす。花は過去にイベントで配布されたエフェクトが出るだけのアイテムだ。

「ささ。戻って戻って」

 バルテルが有無を言わさずにセーレとクッキーを部屋の中へと戻していく。



 ぎこちない空気のまま全員でテーブルを囲む。シオンがお誕生日席、その左にマリン、セーレ、クッキー。シオンの右側にはバルテル、俺、モカと並び、ちょうど向かいにセーレが座っていて正面を見辛い。

「それじゃ、シオンくんのギルド加入と無事メンバーが揃ったことにかんぱーい」

 バルテルがビールのジョッキを上に突き上げ、皆も各々の飲み物を持ちあげる。

 昼間からアルコールもどうかと思ったが、飲まないと喋れない気がしてアルコールを口の中に注ぎ込む。

「クーさん料理出せる?」

「は、はい。シオン様はどのような料理がお好みでしょうか」

「えーと……お魚と……おつまみ……」

「畏まりました」

 しばらくして、テーブルの上に刺身の盛り合わせや、魚の塩焼き、サラダ、フライドポテト、唐揚げなど居酒屋っぽいメニューが並んでいく。


「シオンくんから少し聞いたけど、道中大変だったようじゃの」

「はい、色々と……。こちらは何か変わったことは?」

「イーリアス中心に大手ギルドがPKギルドを掃討するとかで人集めてるところみたいじゃのう。街の出入り口は少し前からそこらのギルドが見張ってて、被害はないんじゃが物騒じゃね」

「まだいるんだな……」

「まぁ、この状況で好き好んでプレイヤーと戦いたい人は稀じゃと思うからのう。っと、あまり楽しくない話になってしまったの」

 向かいのセーレは、食欲はあるのか無言で蛸の唐揚げとポテトを食べている。

「旅の途中で、何か面白いことはあったかの?」

「面白いこと……か」

 はい! とモカが元気に手を上げる。

「アンネさんとこで服作ったの楽しかったっす!」

「あー。アンネさんと会ったんだー。元気だった?」

「うん。ギルドハウス泊めてもらったり、親切にしてもらったりしたっす。皆で服着替えて遊んだりして楽しかったっすよ」

「へぇ~。楽しそう。わたしも何か作ってみればよかったな」

「今度一緒に作るっすよ」

「うん!」

 バルテルのフォローで、だんだんと場の雰囲気が和やかになっていく。


「面白かったといえば、この前のトロッコの時のレオさん面白かったよねぇ」

 シオンが傷を抉ってくる。

「あれはヤバかったっすね」

「ええ、あれは面白かったです」

 食事中に初めてセーレが言葉を発して、ふふっと笑う。

「お、お前らなぁ~!」

「えっ、何何? 何あったの?」

「鉱山でトロッコに乗った時にレオさんがね~」

「シオンさんやめて!」

「トロッコがガーッって走るじゃないっすか。その時にめっちゃびびって、叫びながら半泣きでセーレさんに抱き着いてたっす」

「モカー!」

「へー、わたしも見たかったー。ジェットコースターとか作れないのかなー」

「そうじゃのう。建築とかの知識ある人がおったら、行ける可能性はなくはなさそうじゃが……。知り合いに誰かおったかのう?」

「なんで、皆積極的なの!? 俺乗らないよ!?」

「では、オレが引きずっていきますね」

「わたしも手伝う~」

「やめて!」

 最初はぎくしゃくしていたものの、だんだんといつもの調子になっていって、そのままずるずると夜まで飲み食いを続けてる。


「しおんちゃーん、このお酒おいしひよぉ~」

「ええ~のみましゅう」

「ボクもくらさぁいい」

 そして、ダメな大人の図が出来上がっている。

 クッキーは「ゲーム内ならいけるかもしれません」と一杯だけ飲んで含んでそのまま寝てしまった。

 セーレはシオンたちの様子を苦笑しながら見ているが、本人も顔が少し赤い。

 俺もだいぶ酔いが回ってきて、水を飲んでいるとバルテルからハイボールが送られてくる。

「もういいですって」

「飲み会とか久しぶりでのう。クーさん飲めないし、マリンくんも普段はそんなに飲まないからね」

「そういえば、こっちはわりと飲んでたな……」

「ずるい」

「ははは。じゃあ、もう一杯だけもらおうかな」

「しかし、皆無事でよかった。二人とも心配しとったからのう……」

「そういえば、皆ログアウトしてなかったんですね」

「あ~。挨拶はしたけど、インベントリちょっと整理してから~って感じで電源は切ってなかったからね」

「そっか」

「びっくりじゃよね。あれ」

「うんうん」


 バルテルとしばらく話していると、モカが寝てしまっている。マリンも机に突っ伏していて、シオンも眠そうにうとうととしている。

「そろそろお開きにするかの」

「じゃあ、俺はモカを部屋に運んでおくよ」

「オレは二人を……」

 セーレがマリンとシオンを肩に担ぐ。バルテルもクッキーを抱き上げて、ベッドのある部屋に適当に皆を詰め込む。

「わしらの分もベッド出すね」

 バルテルが大きな部屋に、ベッドを三つ出して寝室を作る。

「どうも」

「ありがとうございます」

「そのうち個室作らないとね~。っと、おやすみ」

 バルテルはベッドに横になるやいなや寝てしまって、いびきが聞こえてくる。

「寝れるかな……」

 盛大ないびきを立てているバルテルの方向を見ながら、セーレが右手を顎の下に当てて、首を傾げる。

「結構うるさいよな……。あっ、俺普段うるさくない……?」

「気になったことはないですね。どちらかというと、モカさんの寝言の方が気になります」

「ああ。あいつ寝言多いよな。ついでに寝相悪いし、雑魚寝した時に蹴られたことある」

「そういえば、寝苦しいと思ったら抱き枕にされていたことはありましたね……」

「うちのモカがご迷惑を」

「ふふっ、レオさんはモカさんの保護者なのですか?」

 セーレが笑う。

「前のギルドから一緒にやってたから、なんとなく……。弟みたいな感じかな」

「オレは、兄弟の感覚はよくわかりませんが……モカさんみたいな弟がいたら賑やかでしょうね」


 セーレはモカが作った部屋着に見た目を変更して、ベッドに座る。

「それじゃ、オレもこの辺で……」

「あ。待って」

「なんですか?」

「一回だけ謝らせてくれないかな……」

 セーレが俺を見上げてきて少し困った表情をする。上から見ると睫毛が長いのがよくわかる。

「謝らなくていいですよ。お互い様なところはありますし……」

「でも……」

「これからも、これまで通り接していただければ、オレはその方が嬉しいですよ」

「お、おう……。じゃあ、そうする」

「はい」

 今日、話すまでは若干の不安もあったが、食事の間にそんな考えは吹き飛んでしまった。

 なんだかんだ、セーレはセーレだ。

 俺も部屋着にして、自分のベッドに上がる。

「レオさん」

「うん?」

「……オレ、これの前にやってたゲームでは女キャラ使ってて、一人称も私だったんですよね」

「うん」

「そしたら、なんかめんどくさい男に絡まれて……まぁ、うざかったのでPKしましたけど。……そんな感じです」

「そっか。話してくれてありがとう。それじゃ、おやすみ」

 セーレが物理で解決するのは昔からのようだ。


「おやすみなさい」

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