第20話:製作タイム
「戻りましたー」
色即是空のギルドハウスに戻ると、大部屋にトルソーがいっぱい並んでいた。
「遅かったっすね。なんかレイドをペアで倒してたって聞いたっすけど……」
「はい。その後は、二人で鍛錬していました」
「セーレさんは、まぁいいとしてレオさんも実は戦闘バカだったっす?」
「俺はただの付き合い。ところで、何してるの?」
ギルドにいたメンバーは裁縫道具や金槌のようなものを持っていて、皆の周囲にはポンポンと製作のエフェクトが浮かんでいる。
「オリジナルの衣装作りです」
「自作のレシピで装備とか家具作れるみたいなんで、遊んでるっす。二人もやるっすか?」
「俺裁縫は苦手だなぁ。とれたボタンつけてもすぐ取れるくらいだし……」
「私もあまり得意じゃないけど、スキルだから簡単にできるよー」
「へーっ。じゃあ、やってみようかな」
「オレはパスで。シャワー浴びてきます」
と、セーレは奥に消えていった。特に汗をかくこともない状況だが、外から帰ってきたからだろう。なんとなくわかる行動だ。
「で、何を作れば……?」
「ふっふー。今こういう服作ってる途中で、そうっすねぇ。レオさんにはヘッドドレスお願いするっす」
ボードに描かれたロリータ衣装の完成予想図をモカが提示する。
「へっど……? この頭の飾り?」
フリルと花がついたヘアバンドのようなものが描かれている。
「うん、それそれ」
「いや、無理だろ!? こんなのどうやって作るんだよ」
「これをレシピ登録っす」
「登録ってインベントリにないけど、どう……?」
「これ触りながら、インストールってすればできるっす」
「ソフトかよ。インストール」
ブーっと音が鳴る。
「ブーッって言われたんだけど……」
「あ、スキルレベル足りなかったっすね。裁縫スキルいくつっすか?」
「D」
鍛冶スキルはそれなりに上げてあるが、裁縫は基本的にローブ用のスキルなので上げていない。
「んー。じゃ、下級素材の加工で。いくつかできたらシオンさんに渡してくださいっす」
レシピは、仕様に沿って絵や情報を記入すればできるらしく、必要なスキルレベルや素材数は登録後に自動で算出されるらしい。
結局、元から存在している加工作業をすることになったが、雑談しながらなので苦にはならない。いい気分転換にもなる。
「えへへ。私スキルレベル結構あがっちゃったー。経験値も増えるし楽しいな」
シオンがニコニコと嬉しそうにしている。
ゲーム内では時間がかかってだるい作業に感じることもあるが、シオンには新鮮なのだろう。
「レオさん、なんか作りたい衣装あるっすか? 作りたいのあったらデザイン画描くっすよ」
「えーっ。そうだなぁ、Tシャツとジーンズがほしいな。ハーフパンツでもいいけど」
「なんでまた……」
「リラックスできそうな衣装だから……」
「夢がないっすねぇ。着物とかアイドル衣装とかないんっすか」
「アイドル衣装ってなんだ。着物は正月スキンあるからいいかな」
「じゃー、女子の服で好みなのとかないんっすか?」
「うーん……。パンツスタイルの制服とか……、あーあれ好き。アオザイ? 丈長い民族衣装」
「ふーん。そういう趣味なんすね」
「文句あるのかよ」
「いや、ボクは膝丈くらいのスカートが好きってだけだから深い意味はないっすよ」
言われてみれば、モカの装備は昔からそれくらいの丈のものばかりで、納得する。
モカから文句は言われたものの、俺の希望のものもあとで作ってもらえることになった。
「モカちゃーん、これでこっち終わり。はいどうぞ」
「おっ。じゃ、これでこの衣装は完成っすね。ぽちっ」
少しの間があってモカの衣装が白とブラウンのロリータ衣装に変わる。
「わー、可愛い」
シオンがパチパチと手を叩く。
「えへへー。強さは……うーん、微妙っすけど可愛いからいっか。シオンさんも着てみるっすか?」
「え、えっと、まぁゲームだからいっかなぁ。着ます~」
モカがいつもの衣装に戻って、今度はシオンがロリータ服になる。二人とも小柄な少女タイプのキャラメイクなので、どちらが着ても可愛らしい。
「シオンさんも可愛いっすよ~」
「レオさんも着ますか~?」
「どう考えても似合わないでしょ。セーレにでも着せて」
「セーレさんかぁ……。ボクまだ死にたくないっす~」
「どうせなら、ロングドレスの方が似合いそうだよね」
「じゃー、着せる着せないは置いておいてドレス作るっすか? そっちにレシピあるっすよ」
製作は、作り始めれば楽しくて気づけばもりもり服ができていた。俺はいつの間にかどこぞの国の警官の衣装にされていて、モカは先ほど作ったロリータ衣装。シオンは黒に紫色の薔薇がついたゴスロリ衣装になっている。
「失礼します。アンネさんいません?」
セーレが顔を出す。
「アンネさんギルド長会議でいないよ~」
色即是空のメンバーが答える。
「ギルド長会議?」
「あー、タケさん行方不明だから代理って形だけど。でかい規模のギルド集まって、情報交換とか色々やってるみたい。掲示板作るってなったのもその会議だったかなぁ」
「そうですか。ありがとうございます。それでは」
「あーっ、セーレさん待つっす」
「何か用ですか?」
「作った服着てみないっすか?」
セーレが皆の顔と服をちらちらと見て、興味が出たのか寄ってくる。
「どの服ですか?」
「こ……」
「こ?」
「シオンさんパス」
「えっ、えー!?」
モカからトレードで渡されたらしいシオンがわたわたする。
「ううう、これ着てくれませんか?」
「ドレスですか……?」
その言葉に、色即是空のメンバーが一斉にセーレの方を向く。
「だ、ダメですかぁ? レアスキルついてますよぉ」
「えーっと……。ああ、これは試してみたいスキルですね」
シオンの言葉につられて、セーレがトレードで服を受け取ったようだ。
おい、それでいいのか。
そして、ばさりとセーレの衣装が変わって、ショールのついた黒いロング丈のドレスになる。全体的にタイトなデザインだが袖と裾は広がりがあり、丈の長い裾は花のように足元に広がっている。ちょうど肩や腕のラインが隠れて、黙っていれば男だと気づかれないようなシルエットだ。綺麗な顔立ちなのもあって喋らなければあまり違和感がない。
セーレがスキル名を言って、しばらく後に魔法のエフェクトが身体にかかる。
「うーん、前衛だと発動遅くて使えないかな。戦闘前に使うのはありかもしれませんが、効果時間短いし……」
セーレは、ドレスを着たまま腕組みをして、しばらく考え込んでいる。
「ありがとうございました。お返ししますね」
そう言って、セーレは見た目を元に戻して、シオンに服を返す。
「では、オレはこれで」
「やっぱ、セーレさんはセーレさんっすね……」
「レアスキルさんありがとうございました……」
二人がしみじみと言う。
「似合ってたね」
「メイクしたら楽しそー」
とその場にいた色即是空のメンバーも話している。
「俺は、セーレのことが少し心配だよ」
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