第4話: オフライン
特に用事もなかったのでモカと会うことになり、モカが希望した渋谷で待つ。いつ来ても人が多く、果たしてすぐに見つけられるのだろうか。服装の特徴は伝えたものの、周囲には似たような服装の男性が多い。
携帯をチェックしながらモカを待っていると、声がかかる。
「レオさんですか?」
正面を見れば、男性というよりは少年と呼んだ方がいい人物が立っていた。
「モカ?」
「おーいえす! 本物!」
緩くパーマのかかった明るい茶色のショートヘアに、くりっとした大きな瞳、身長は160cm前後かという小柄な容姿で、声も高めだ。
「本当に成人してる?」
「ひどいっすー。免許見るっすか?」
「いや、大丈夫」
そして、性別と声こそ違うもののゲーム内の容姿と特徴は似ている。
「レオさんもキャラメイク、スキャンからやったんすか? わりとゲームまんまっすね」
「そうそう」
このゲームには自分の顔をスキャンして、そこからカスタマイズできる機能が搭載されていたので、それを使用したのだ。ゲームに取り込んだ時点である程度調整されてゲーム的な表現にされ、さらにそこから性別操作や年齢操作もできるし、髪型も気軽に変えられるので個人的には面白かった。なお女性にカスタマイズしたら、母親に似てしまったので見なかったことにした。
「リアルのボクも可愛いでしょ」
「あー、うん。可愛い」
「雑ぅ」
「で、どこいく?」
「お腹すいちゃったからラーメン食べたいっす」
「いいよ。俺も昼食べてないし」
モカが食べたいと言うこってり系のラーメン屋の暖簾をくぐると、出汁のいい匂いが漂ってきて食欲が湧いてくる。
「ボクは、唐揚げ定食に餃子で。麺はこってりかためでお願いしまーす」
「俺は餃子定食で。麺とスープは普通で」
つられてこってりにしそうになったが、加減がわからないので無難に頼む。
「始めて会った気がしないっすね」
「そうだなー。フレ登録して三年くらいか?」
性別と声こそ違うものの、喋り方やテンションはいつものモカそのものだ。
「始めた頃は高校行ってたから、そんなもんすかね?」
「若いなぁ」
「レオさん、よく自分のことおっさんとか言ってたけど、そんなことないじゃないっすか」
「いや29だし。お前が眩しい」
「ダメっすダメっす。言葉に引っ張られることもあるんすよ。レオさんは、まだまだお兄さんっす」
少し照れくさいが言われて悪い気もしない。
「じゃあ、ここはお兄さんが奢っちゃおうかな」
「やったー! ごちそうさまっす!」
運ばれてきたラーメンを美味しそうにモカが頬張る。
小柄で細いわりにモカはよく食べるようで、見ていて気持ちのいい食べっぷりだ。
しかし、頼んだラーメンは俺には油が多く感じ、見た目以上に胃に来たため冒険しなくてよかった。と、目を閉じる。
「いやー。食べたっすね。あっ、デザートどうっすか?」
ラーメン屋を出てすぐ、クレープ屋を指さしてのモカの発言である。
「今はいいかな……」
「そっかー。でも、どこか落ち着けるとこ行きたいっすね」
「あそこに喫茶店があるけど……、しばらくは入れなさそうだな」
入口に結構並んでいるのが見えて他に視線を移すが、どこも人は多そうだ。
「カラオケの中とかどうっすかね。個室だし、話はしやすそう」
「そうだな。ひとまず入ってみるか」
カラオケの受付に行くと、タイミングがよかったのか五分ほど待った程度で部屋に通された。
「飲み物何にします? ボクは、メロンソーダ!」
「俺はコーヒーで」
「じゃ、注文しちゃうっす~」
モカがカラオケの端末を操作して、手慣れた様子で注文していく。
「さんきゅー。しかし、なんかこう……キャラ名で呼ぶのって恥ずかしいよな」
「そうっすか? ボクはSNSで知り合った人とか、イベントとかでよく会うから、よほど変な名前じゃなきゃいいかなーって感じっす」
「イベント?」
「あっ、えーっと……コスプレとか」
「へー。コスプレするのか。モカなから女装でも似合いそうだよな」
「えへへ……」
俺の言葉にモカが視線を逸らして、曖昧な返事をする。
なんだろうか、その微妙な反応は。もしかしたら、すでにやっていたのだろうか。
「レオさんは、そういうの興味ないんっすか?」
「うーん、漫画とかアニメはみるけど、それ以上どうこうとかはあんまり」
「そっかー。ゲームやってても意外と皆そういうのには興味ないっすよね」
「そういえば、マリンさんも昨日イベントとか言ってたから、マリンさんと話してみればいいんじゃないか?」
「そうっすねー」
他愛のない話をしていると、飲み物が届いて一息つく。
「マリンさんと言えばギルド。早く強くなりたーい」
「そうだなぁ。追加された装備、今の内から揃え始めようかな」
「何集めるんすか?」
「スヴェルかな。もうPvPしないし」
この前手元に来た盾も、ちょうど同じシリーズだった。
「ああ。そうっすよね」
「セーレさん見てると、もっと装備力入れたいと思ってさ……」
「あの人やばいっすよね。脳筋かと思いきやデバフきっちり入れてるし、MP調整上手いし、周りもしっかり見てるっすよ」
「それは思った。後衛に飛んだのすぐ処理してくれるからありがたいよな」
「やばいといえば、メロンさんとエリシアさんもすごかったっす。ヒーラーとして見習うところがいっぱいあったっけすけど……。でも、とりあえずレベル上げないとスキルの関係でどうしようもなさそうっす……」
「じゃあ、今から帰ってレベル上げするか?」
「もう帰られたら寂しいっすよ~~!!」
「冗談だって。でも、久々にモチベ上がったなー。ギルド解散したあとのアプデってちょっと虚しかったからさ……」
「そうっすねぇ。皆元気してるっすかねぇ」
カラオケで数時間過ごし、カフェでケーキを食べてゲーセンに行って夕飯を食べ、帰宅する頃にはすっかり夜になっていた。
「疲れたけど、楽しかったなぁ」
風呂から出て時計を見ると二十二時。少しでも経験値を稼ぐかとゲームにログインをする。
「こんばんはー」
挨拶をすれば、マリン、セーレ、バルテル、モカから返事がある。まぁ、いつもの面子だ。狩りに行く前に競売で揃えようとしている装備の相場を調べる。
「うわ、たっか……」
手持ちでは一パーツ揃えられるかどうかだ。実装直後だから高いのは当然と言えるが、揃えるのは後にして、資金調達を頑張った方がよさそうだ。
「どなたか、金稼げるクエ知りませんか?」
「ソロなら報酬ランダムじゃけど、カーリスのピザ配達いいよ。戦闘もないから、ちょっとした時間にできるし。パーティーのクエはわしより他二人の方が詳しいけど、ちょっと今は忙しそうじゃからな」
「レイドとかですか?」
「今終わったー! 火竜の下見に行ってたの~」
バルテルの後にマリンが発言する。
「えっ、フレイリッグっすか?」
モカが興味津々と、話に入ってくる。
「うん。まぁ、まだ入れる人少ないから人数足りない状態で行ったんだけど、全然削れなくて撤退だったよ~」
そりゃぁ、今の時期では入れる人も少ないだろう。フレイリッグは入場クエストがレベル92で、最大二百人が参加できる超大型レイドだ。
「ボスのレベルが95みたいで、アタッカーはまずレベル上げないとダメだぁ。あと、地形ダメがあって地味に面倒だし、全体範囲あるしやばい。私、範囲で即死だった」
「マリンさんで即死なんすか……」
「私、魔法防御さぼってるから……。セーレ、あれ魔法攻撃だよね?」
「魔法職は生き残ってる人多かったから、そうだろうね」
「セーレも死んだ?」
「範囲では死ななかったけど、アキさん死んじゃったから本体のタゲ来て死んだ。とりあえず装備変えないとダメだね」
「ねー」
「あっ、マリン。アキさんがヘスガー湧いてるからやろうって」
「はーい。いくいくー」
死んだ死んだと言いつつ二人は楽しそうで、さらに元気だ。廃人は廃人で頑張る目標があるということだ。
俺は、とりあえずバルテルに勧められたピザ配達とやらを始める。時間内にNPCからNPCにピザを届けるクエストのようで、ピザを持つグラフィックまで用意されている。途中で妨害が入って避けたり、回り道をしたりとミニゲームのようなクエストだ。
それを数回繰り返すと、クエストは終わりで報酬がもらえる。
お使いクエストにしては報酬金額が多めで、それにプラスして素材がもらえた。低確率でレアなスクロールも出るようなので、確かに悪くない。デイリークエストなので、ちょっとした時にやるとよさそうだ。
報酬をもらった場所でしばらく立ったままでいると、いつの間にか隣にモカがいた。
「見てみて~」
「ん?」
「製作したっす!」
見ると、うさみみのついたピンク色のケープだったかポンチョだったかをモカが装備している。
「おー、おめでとう」
モカの容姿によく似合う可愛らしい装備だ。一瞬、モカの中身を思い出したが、どっちみち似合いそうだ。
「あと、今日はありがとうっす。また機会があったら遊んでほしいっす!」
「おう。こっちも楽しかったぜ」
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