第2話: ようこそ少人数(廃人)狩りギルドへ

 マリンと狩りをした翌日、会社から帰って食事と風呂の後、少しわくわくとした気分でゲームにログインをする。

 ギルド加入の件を断られたら寂しいなとは思いつつも、新しい環境になるのは楽しみだ。

 ログインすると、すぐにマリンから個人チャットが飛んでくる。


「許可出たから誘うねー!」

 目の前に、ギルド勧誘のウィンドウが表示されるので、承認ボタンを押す。

「よろしくお願いします」

 ひとまず挨拶をすると、マリンと他のギルドメンバー二人から挨拶がくる。

「よろです~」

「よろしくお願いします」


 久々にギルドチャットのタブに会話が流れることに少し感動を覚えつつ、名前とクラスを照らし合わせると、先に発言したのがドワーフのエンチャンターであるバルテル。もう一人は、ヴァンピールのアタッカーでセーレ。こちらは、知っている名前だ。

バルテルのレベルは91、セーレのレベルは93。93……? おかしくないか? というのもそのはずで、前ギルドでも何度か話題になったトップクラスの廃人だ。

やばいところに入ってしまったのでは。と思っていると、もう一人ログインしていたメンバーから挨拶がある。

「レオンハルト様、よろしくお願いいたします」

「レオでいいですよ」

「では、レオ様」

 様をつける主義なのだろうか。礼儀正しいプレイヤーの種族はモッフルという獣人のサマナーで、名前はクッキー。こちらもレベルは91。


 ギルドのリストを見ると、もう数名名前はあったがレベルはあまり高くないので、休止者か引退者だろう。アクティブなのは、挨拶があったメンバーだけのようだ。少人数だが、軒並みレベルが高い。マリンがギルドマスターで、バルテルがサブマスターとなっている。

「モカちゃんは、まだログインしてないみたいだからログインしたら誘うね~」

 そういえばモカは週に数回、バイトの予定を夜にいれているようだったので、それで遅いのだろう。

「たぶん、あと三十分くらいしたらくると思います」

「了解。ギルドハウスは、カーリスだよ~」


 カーリスと言えばゲーム中で一番繁栄している都市で、ギルドハウスのほとんどは大ギルドに抑えられて、一般にはそうそう出回らない物件のはずだが、そこを拠点としているとなると、やはりやばいギルドだ。

「モカちゃん加入したら、せっかくだし新しいダンジョン行こうと思うけど、レオくんは時間大丈夫?」

 さんづけで呼ばれることの方が多いので、このマリンの呼び方は新鮮だ。

「はい、明日は休みですし、遅くなっても大丈夫です!」

「あまり遅くなると、老体には堪えますぞ」

「バル爺には意見聞いてないでしょ」

 バルテルは、どうやらドワーフの爺キャラのロールプレイをしているようだ。

「わたくし、製作放置をしておりますので、反応がない場合はお手数ですが、個別でメンションお願いいたします」

 先ほどと同じくやたら丁寧な発言のプレイヤーはクッキー。

「ダンジョンって、何か用意していった方がいいものありますか?」

「うーん、アイテムとかは特にいらないと思うけど……」

「反射セットしておいた方がいいですよ」

「了解です」


 セーレの言葉に、スキルウィンドウを見直す。言われたスキルはリフレクトシールド。受けたダメージの一定割合を相手に返すスキルで、これが生きるとなると敵の攻撃が痛いか、数が多いかだ。一時期、対人で猛威を振るっていたが、自分が取得した頃には調整されてしまってあまり出番のなくなった悲しいスキルである。

 手持ちのアイテムを整理してからギルドハウスに移動すると、ギルドハウスの内装は白い壁に茶色や赤の暖色系でまとめられた統一感のある家具配置になっている。以前所属していたギルドは、戦利品が適当に並べられていてなかなかカオスだった。それと比べると、まるでモデルハウスのようである。

 いくつかある部屋をのぞいてみても、多少色数は変わるものの、統一感があっておしゃれだ。

 キッチンの施設がある部屋では、先ほど放置宣言をしていたクッキーが料理をしている。

 クッキーの容姿は、犬のコーギーによく似ていて、首元に赤いマフラーを巻いて白い割烹着姿だ。この種族は大まかに犬猫兎でベースが分かれていて、いずれも身長はデフォルトで百センチ前後と愛らしい。

 料理は、バフや回復アイテムとして使えるものの必須というわけでもないスキルで、趣味要素が強い。

 背伸びして料理をしている愛らしいクッキーの仕草を眺めているとモカがログインして、ほどなくして、ギルドにもモカが加入する。


「よろしくお願いしまーす」

「いらっしゃいませ~」

「よろ~」

「よろしくお願いします」

 先ほどと同じような感じで、バルテルとセーレが挨拶をする。クッキーは放置中なので反応はない。

 ピコンっと、個人通話のサウンドが鳴る。もちろんモカだ。


「ちょ、ちょっとレオさぁあああん」

「おかえり。どうした?」

「ただいまっす! あの、あのセーレって」

「うん?」

「有名な超廃人じゃないっすか……」

「あー、やっぱそうだよね。見たことあるな~って思ってた」

「激ヤバじゃないっすか」

「そんなにやばいの?」

 やばいやばいとは聞いたものの、詳しくは知らない。

「あーあー。そういえば、レオさんまとめとかSNSとかあんま見ないっすもんね……」

 確かに、ゲームをしていない時は、ニュース記事を読んだり動画配信サイトを見ているのでその手のものはほぼ見ない。

「ギルド名なんか見たことあると思ったら、それっすよ~~。レイドソロで討伐したりとか、PKギルド一人で壊滅させたりとかやばい人っすよ~!」

「へぇ……。まぁ、こっちに危害なければいいんじゃ……」

「下手な動きしたら、なんか言われないっすかね!?」

「うーん、その時はその時」

「えーん、怖いよ~~」


◇◇◇


 準備を終えて訪れたダンジョンのエリアに足を踏み込むと、文字が浮かび上がる。

 ウィシュトスの塔。

 その名の通り、森の奥に背の高い建物が立っている。塔の前に、ギルドメンバーが集合していて、マリンが皆に声をかける。

「パーティー組むねー。フルじゃないけどなんとかなるっしょ」

 本来のフルパーティーは七人で、一般的な構成は、盾、ヒーラー、バッファー、残りはアタッカーということが多く、難易度の低い狩場では悲しいかな、しばしば盾やヒーラーはハブられてしまう。それでなくとも枠が少ないので、通常の狩りではよくあぶれるのだ。

 推奨レベルは92からと、どこかで見た気がするがダメージディーラーが強力なのでなんとかなるのかもしれない。


「えーっと、説明は……セーレよろしく~」

「オレ? まぁいいけど……」

 セーレの外見は、色白の肌に鋭い赤い瞳、尖った耳に銀髪のショートのヴァンピールだ。黒い軽鎧に身を包み、禍々しいオーラを放つ巨大な大剣を背に背負っている。男の俺から見てもなかなか美青年なキャラメイクだ。デフォルトでは男キャラのヴァンピールは、もうちょっといかつく渋みのある種族のはずなので、だいぶイメージが違う。

 そのセーレの横で、いかにもドワーフという雰囲気のバルテルが踊るモーションで踊っている。腹の出たふくよかな体型に、真っ白な髪と同じく真っ白で立派な髭、武骨な重鎧と両手持ちのいかついオーラが出たハンマーを持っている。このギルド怖い。と思ったが、バルテルの横にいるクッキーの武器は、あまり強化されていないようで逆に安心する。まぁ、サマナーはあまり武器に攻撃力が依存しないので見えない部分に投資している可能性は十分あるが。

「ダンジョンの説明ですが……。まず、エリアは全十三階でタイムアタックになっています。制限時間は一階から十二階までで一時間。十三階はボス部屋でここに入った時点で制限時間がリセットされて、新しく三十分になります。今いるところは一階で、五階までは敵を規定数倒せば進むことが可能です。六階は走るだけ。七階から十二階まではそれぞれ特殊なギミックがあるので、その時に説明します」

 マリンに説明をするように言われて、面倒くさそうにしていたセーレだったが説明は丁寧だ。


「質問あったら都度聞いてください」

「うんうん、遠慮すると逆に失敗に繋がったりするから、ちゃんと聞いてね」

「マリンさんたちは、クリアしたことあるんですか?」

「フレとクリアはしたよ~。ギルドだと四階だったかで全滅しちゃったかな」

「ほっほっほっ、あの時は三人じゃったからのぅ。ちなみに、わしとクーさんはクリアしたことはないぞい。というか、クーさんは初めてじゃな」

 クッキーが怯えるエモーションをして、耳がしゅんと垂れる。

「クーちゃん、マイクオフになってない?」

「……失礼しました。はい。わたくしは、製作メインですので。新狩場とは恐ろしい……」

 そのわりにレベルがしっかり上がっているのは、他のメンバーに連れまわされたからだろうか。

「うわー、クッキーさん可愛いっすね!」

 言いながら、モカがクッキーに抱き着く。

「恐縮です」

 モカは少々図々しかったり、礼儀がなっていなかったりするところはあるものの憎めない性格で、すぐに人と仲良くなっていくところは正直羨ましい。


「それじゃ、バフは入場してからね。入るよ~」

 パーティーリーダーのマリンが、入り口のNPCに話しかける。

 入場するとムービーがが始まり、塔の内部が映し出される。

ひんやりとした空気が伝わってきそうな黒い石造りの建物の一階は吹き抜けで天井が高く、軽く五階分はあるのではないかというスケールだ。大きなステンドグラスの窓からはぼんやりと光が差し込んで、霧とも長年放置された埃ともしれないものが煌めき、荘厳なパイプオルガンの音楽がゆっくりと流れ始める。


 ムービーが終わると、バルテルがバフをかけていく。

「ほい、オッケー」

「ゴーゴー!」

 言われて、手近な敵に攻撃をしかける。一階ということもあってか、まだそれほど攻撃は痛くない。敵のHPもすぐに削れていくので、倒し終わる前に次の敵を遠距離スキルを使ってこちらに引き寄せておく。

 敵は、魔道人形とカテゴリーされている。石や木でできていて、手足はあったりなかったりする所謂ゴーレムのようなものだ。散り際には、崩れる音やエネルギーが切れたような音を残して消えていく。

 パーティーメンバーの動きには特に問題はない。後衛の位置取りも危なげがなく、基本的には目の前の敵に集中していればよさそうだ。

 ある程度敵を倒し終わるとフロアから敵が消えて、台座が現れる。それに触れると二階へと転送された。二階も危なげなく殲滅していく。


「三階からは自爆する敵が出るので気を付けてください」

「宙に浮いてる黒い球体で、結構範囲広いから気を付けてね。モカちゃんとクーちゃんは即死かも」

「お、おっす!」

「承知しました」

 脅されながらも三階に移動すると、入った瞬間に敵がわらわらと大量に押し寄せてきて、モカに向かっていく。

「ぎゃー!」

 モカが叫び声を上げつつも、大幅には移動せずに俺の周りをぐるぐると逃げているので、範囲スキルでそのターゲットを引き受ける。

 さすがに俺のHPがごりごりと減っていくところへ、モカのヒールとクッキーの補助ヒールが飛んでくる。

「うんうん、いい感じ」

 問題の黒い球体は、数体が部屋の中を不規則に移動していて、一体が近づいてくる。

 それを見た後衛陣は、そそくさと移動していく。俺も後衛とかぶらない位置に敵を引き連れながら移動する。距離は取りつつも、自爆を喰らったらどれくらい減るのかはちょっと気になってしまう。


「よーし、そろそろ四階かな」

 ある程度敵を倒したところで、マリンが言う。

「四階も似たようなものですが、盾を無視して動く敵がいるので注意してください」

「悲しい」

 思わずつぶやく。そういう敵が出てくると盾職としては悲しくなるものだ。

 そうこう言っているうちに四階に到着し、最初は三階と同じく敵が押し寄せてきて、そのうちの一部はモカに向かって一直線に向かっていく。その敵にマリンの矢が刺さり、セーレの大剣での重い一撃が加わる。脅した割には、しっかりとフォローを入れてくれるのはありがたい。

 三人で来た時は四階で全滅したと言っていたが、むしろ盾もヒーラーもなしで三階を抜けられたというのも首を傾げるところである。

「五階はどんな感じですか?」

「敵はここと変わりありませんが、自爆が増えますね。モカさん、MP少なくなってるからPOTで回復しておいた方がいいですよ」

「は、はいぃ!」

 事前に怖いと言っていた相手であるセーレの発言に、モカの声が上ずる。

 俺も少し引く数を減らしたいところだが、なかなかそうもいかない敵の出現速度だ。


 そして訪れた五階。

「あ」

 開幕に押し寄せた敵と、自爆複数が重なり死んだ。巻き添えを受けたバルテルも一緒に倒れている。俺に群がっていた敵が一斉にセーレに向かっていくのが見えたが、セーレはそのまま敵を殴り倒し続けている。セーレのHPの減りは緩やかで、どうなってるんだ廃人。と、思ってしまう。

「リザレクション!」

 その言葉とともに視界が元の高さに戻るが、バフが消えてしまっているので動こうにも動けない。

「バルテルさんは少し待っててくださいっす」

「あいよー。起きたらバフ更新するよ」

 リザレクションのスキルのディレイは他スキルと比べて長く、未強化だと一分ほどあったような気がする。ディレイを待ちながらモカがセーレにヒールをしている。

「オレはHP三割あればいいですよ」

「は、はい」

「ちょっとセーレ、難しいこと言わないのー。HP減ると火力上がるスキルがあるってことなんだけど。セーレのHPは、とりあえず半分くらい目安で大丈夫。セーレ火力馬鹿だから、ごめんね」

 マリンとセーレは、だいぶ親しい仲なのだろう。言葉に遠慮がない。

「お待たせ」

 そう言って、モカがバルテルを復活させてバフがかけなおされていく。

 バフが終わった頃には、第一陣で押し寄せた敵はもうほとんどいなかった。

「よーし、六階は道なりに走っていくだけ。敵もでないよ」

 単純なところはマリンが説明してくれるようだ。


 六階、というよりは巨大な螺旋階段があって、それを駆け上っていく。

「目が回りそうです~」

 クッキーが小さい歩幅で、といっても移動速度は他の皆と変わりない速度で走っている。

 確かに、ぐるぐるしていると目が回りそうになる。

「そういえば、昔灯台を上った時は螺旋階段で目を回したのう」

 バルテルが呑気に言う。

「へーっ。灯台って中入れるんっすか?」

 敵が出現しないとあってか雑談が続く。

「七階はどうするんですか?」

 聞くと、マリンが答える。

「扉開けるスイッチがあるんだけど、それは私がやっちゃうね。他の人は敵倒しててくれれば大丈夫。扉空いたら移動していいよ。八、九は敵が鍵持ってて、拾った人が扉開ける感じ。十階は、えっーと……」

「十階は、各々が別々の小部屋に飛ばされます。小部屋には鍵がかかっていて、他プレイヤーに外から開けてもらうか、部屋の中にいる敵を倒せば鍵を得られます。オレとマリンで開けに行くので、他の人は動かずに待っていてください」

「そうそう。それで……あ、もう次の階かな」

 階段は終わって、目の前には巨大な扉があった。


 その後は危なげなく進み、十二階。制限時間は残りニ十分は残っている。

「レオさんは、敵引き連れてマラソンしていてください」

「はい」

 少しの寂しさを感じながらも部屋の敵を連れて走る。敵の数が多いのでうっかり止まったり、進行方向をミスったりすればそのまま袋叩きにされてしまうので、地味に見えてもそれなりに面倒だ。他のメンバーは部屋のギミックを解いていて、たまにモカからヒールが飛んでくる。

「音ゲーみたいですねぇ」

 クッキーの発言に、ちらりとメンバーがいる方向を見る。

 扉の前に置かれた石板の文字が不規則に光って、対応した水晶をタッチするというミニゲームのようなものだ。ただし、音ゲーほどシビアではなく時間制限は緩めで、一応一人でもクリアできるそうなのだが水晶から水晶の距離があるので、三人でやるのが楽らしい。二人はフリーになるはずだから、誰かこっちに来てくれても……と思わないでもないが、このフロアの敵は倒してもあまり美味くないらしく、放置して攻略する流れが多いらしい。

 ガシャンという音がして、扉が開くと追いかけてきていた敵が消え、上の階にテレポートする。


 最上階の十三階。天井と壁には大きなステンドグラス。空に近いその場所は他の階より明るく、神聖さすら感じる。

部屋の中央にはこのダンジョンのボスであるウィシュトスという名の敵がいた。ローブを纏った魔道人形で、石膏でできた女性の顔に、背中には白い翼が生えている。手には、杖と魔導書を持っていて魔導書からは光が漏れ出ている。

「ボス中心の範囲攻撃と、プレイヤー中心の範囲攻撃があるので前兆が見えたら避けてください。石化のデバフがありますが、効果時間が短く頻度が高いので緊急時でなければ放置して問題ありません」

 石化は行動不能になるが、敵から殴られてもダメージを受けない状態だ。

「それから途中でボスが消えて、一体の本体と四体の分身が出現します。見た目で見分ける方法はありません。分身は本体のHPを一定まで減らすか、分身を攻撃していればしばらくすれば消えます。普段は全部まとめて狩っていますが……。範囲が重なると事故が起きやすいので、今回は一体ずつにしましょうか」

 セーレの判断は正しい。交戦し始めたところボス一体だけでもなかなか攻撃が痛い。レベル補正でダメージを受けやすいのもあるのだろうが一撃は重い方だ。これをまとめて狩ったら床とお友だちになってしまう。セーレは普段、一体どんな面子と狩りをしているのだろうか。


「あーっ、またヒールが石化に吸われたぁ……」

「バフ飛んだのあったら報告してちょ」

 石化状態になると回復やバフを受け付けずに弾いてしまう。

 石化はターゲット関係なくランダムな対象に付与され、ヒーラーのモカが連続で石化してしまうとヒヤヒヤする。サマナーのクッキーもヒールを使えるが威力は低くすぐにはHPを戻せず、回復POTを併用してギリギリなこともある。セーレとバルテルはほとんど石化を受けていないのはレベル差に加えてレア装備を使用しているからだろう。


「そろそろ」

 ボスのHPが半分を切りそうなところで、マリンが注意を促す。

 そして、半分を切ったところでボスが光に包まれ、五体に分裂して現れる。ひとまず後衛に重なって出現したボスをターゲットして引き寄せる。ある程度近づかなければ襲ってこないらしいので、少し離れたところに誘導して殴り始める。

「あっ、消えた」

 しばらく殴れば消えてしまったので本体ではないらしい。すぐに、次のターゲットを引き寄せるが、タイミング悪くターゲットが移動して近くにいたもう一体も反応してしまう。

「げっ、すみません」

「あるある~。わしもよくやるもん」

 バルテルが発言した次の瞬間、敵の範囲と範囲が重なってバルテルが倒れる。同じ範囲にいたセーレは避けずにそのまま殴っていたが、HPはあまり減ってはいない。

「おっと、歳じゃから反射神経が鈍くてのう。すまんの」 

「バル爺は話してて、集中してないからでしょー」

「ほっほっ」

 バルテルはきっとムードメーカーなのだろう。失敗しても軽く流される空気はとてもありがたい。しばらく二体を相手にしていると一体が消えていく。

「あっ、こっち本体かなぁ?」

 マリンが言った通りHPをさらに削っても消えずに残っていて、離れたところにいた分身がしばらくして消えていく。


「あとは、範囲攻撃の頻度が少し増えるだけだから、このままゴーゴー」

 後半はバルテルも範囲攻撃の予兆があればそそくさと回避していた。

「そういえば、ドロップは基本ランダムで、レアだけディールなんで、ランダム品で欲しいのあったら個人で交渉してね」

 ディールとは、ドロップ品が欲しいと思った人がそれにサイコロを振って、一番出目が大きい人が獲得するというようなシステムだ。実際にはサイコロではなく三桁の数字が表示されるだけであるが。

「ここ、何が落ちるんすか?」

「レベル92からの防具とアクセ、あとは家具だったかな」

「きゅうじゅうに……」

 モカのつぶやきに、俺も遠い目をする。

 所々危ないところはありつつも、ボスのHPは残りわずか。制限時間も十分ほど残していて余裕だ。余裕なのはだいたい他のメンバーのおかげではあるが。


 ボスを倒した瞬間、眩い光に包まれる。

「あっ」

 レベルアップの光だということに、一瞬気付かずに驚く。どうやらボスの経験値がかなり多いようだった。道中でも結構増えていたのかもしれない。

「二人ともレベルアップおめ~」

 二人? と思って確認するとモカもレベルアップしていた。

「ありがとー! 経験値多いんすねぇ」

「ありがとうございます」

「リセットされたら、また来ようね」

「あー。ここ、週二回制限なんすか?」

「そそ、水曜と土曜リセット。って、ディール放置してたね」

 防具とアクセサリーがそれぞれドロップしたようで、まずはアクセサリーのディールのウィンドウが出ている。セーレとバルテルはすでにパスしている。恐らく、すでに揃っているか、レアアクセサリーで揃えているのだろう。

 しかし、まだ当分レベルが上がらないし、と俺もパスする。モカもそう思ったのかパスしていく。

「ちょっとー、皆ディールしなさいよねー!」

 マリンとクッキーの一騎打ちになり、クッキーが勝った。

「ありがとうございます」

 次は、防具の盾だ。

 ものすごい速さでパスされ、残りが俺しかいない状態になる。

「え?」

 と、周りを見渡すが、そういえば俺以外のメンバーは盾を持っていなかった。盾を持てる職業の者もいるにはいるが、基本的に皆両手持ちの武器を愛用しているようだった。

「あ、ありがとうございます」

 ボタンをポチっとすれば確定して、インベントリに盾のアイコンが追加される。

「おめでと~」

 残りはレア素材が一つ残っていたが、それには一瞬で皆が群がって、セーレが勝利していた。



「いやー……なんていうか」

 ダンジョンから出てパーティー解散後に、モカと二人で通話を開始する。

「強かったっすね……。皆が」

「ああ」

「あと、セーレさん思ったより紳士だったっすね。マリンさんの扱いは雑ですけど」

「そうだなぁ。愛想はあんまりなさそうだけど、上から目線とかでもなく説明丁寧だったし、結構いい人そうだよな。スペックはやばいけど……。でも、俺このパーティーにいる必要ある? って思ったな」

「それを言うならヒーラーも……。セーレさん、あれは装備に吸収つけてるっすよ」

「ああ、それでHP減らなかったのか」

 装備にスキルを付与できる強化システムがあるのだが、狙ったものを付けるのには相当な投資が必要で、俺は早々に諦めたので、ステータスが微増して終わっているだけである。

「まぁでも、皆さん雰囲気は悪くなかったし、しばらくはお邪魔したいっすねぇ」

「ああ。ただ、足はひっぱってるから野良行きつつレベルあげないとな」

「うんうん。それじゃー、ボクはちょっとお使いクエしたら落ちるっすー」

「俺も。おやすみー」

「おやすみっす!」

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