絶対不死世界エリュシオン

高森エニシ

第一章 白のエリュシオン

第1話: 出会い

『火の山の王、焔竜フレイリッグ。討伐の暁には汝らの願いを叶えよう』


NPCの語る夢物語。

その時は、まさか本当に願いが叶えられるとは、思いもしなかった。


◇◇◇


「つっても、ボクたちみたいなライト層には関係ないっすけどね~」

 肩に届くくらいのふわふわの淡いピンク色の髪に紫の瞳、フリルの沢山ついたローブを着た可愛らしい小柄な少女は、見た目に似つかわしくない言葉を口にする。

「まぁまぁ、モカ。討伐方法が確立されれば、そのうち参加できるんじゃないかな」

「そのうちって、コネなきゃ竜討伐なんて無理っすよ。一般だとぐだるし、レオさんコネあるんすか?」

 俺の名前はフルネームではレオンハルトという。鎧を着こんだ自分のキャラクターは両手を開き、その手を肩まで上げて首を振る。容姿は短めの赤髪に、瞳は琥珀色。鎧は暗褐色に所々赤いラインの入ったフルプレートアーマーだ。

「いや、全く」

「ですよねー」


 これは、『白のエリュシオン』というVRMMOのゲームの中でのやりとりだ。

大型アップデートにより、討伐すれば願いを叶えるという謳い文句の火の竜が新しく実装されたのだが、先ほどまでの会話の通りだ。これまでに、風・土・水の竜が実装されていたが討伐に参加したのは数える程度で、それも初回討伐からはかなり遅れてのことだった。


「とりあえず、ギルド探さないとっすかねぇ……」

「そうだな……」

 本来、今の時期ならワイワイとギルドで盛り上がりながらあちこち探索できたであろうに、アップデート直前で所属ギルドが解散してしまったのだ。中堅どころで、それなりに大きいところだったが、ギルドマスターの海外転勤が決まってギルドは解散。惰性で続けていた何名かはつられてそのままフェードアウトしていった。モカとは一緒のギルドで、よくパーティーからあぶれて一緒に狩りをしていたので、その流れで一緒に活動している。


「モカは、次入るならどんなところがいいの?」

「ボクはレオさんいればどこでもいいっすよ」

 モカがくるりとその場で一回転して、可愛らしく言うが彼女の中身は大学生男子で、俺はもうすぐ三十路の社会人男性である。まぁ、モカのことは弟か近所の子どもみたいで可愛いなとは思わなくもないが、それだけだ。なお、モカの声は高性能ボイスチェンジャーにより、女の子の声ではある。この辺は使う人間と使わない人間がいて、俺は性別通りなので使っていない。

「あー、はいはい」


 適当にあしらって、マップを見ながら進む。

「つれないっすね~。まぁ、時間合うとこがいいっすね。苔桃さんとこ誘われたけど、あそこ主婦の人多くて昼メインだし、ヒーラーめっちゃ多いし……。あーあと、今度は攻城戦やらないとこがいいっすね」

「俺もそこは賛成。半端なレベルで出ても微妙だからな~。攻城戦出てるとレベリング遅れるし、結局前回もアプデまでにレベルカンストできなかったし……」

 アップデート前までのレベルキャップは90だったのに対して、結局二人とも86で終わって、今回のアップデートでさらにレベルキャップが99に上昇して、どうにもコンテンツを楽しみきれていない。

「おっ、新狩場見えてきたっすー!」

 モカが言った通り周囲の風景が、よくある森の風景から色数の多い風景へと変わっていく。

 色とりどりの木の葉がついた大きな木がまばらに生えて、その周囲には草原が広がり、蝶の羽のような透き通ったオブジェが点在している。幻想的な風景のその場所はエールリッグの庭園と呼ばれていて、動物や植物のモンスターがちらほら見える。

「ボクたちでも受けれるクエあるっすかね」

 新狩場の中でも難易度が低めだという情報の狩場だ。多少はあると期待して、モンスターではない妖精のNPCに話しかける。

『たいへん、たいへん。大事な宝石を七色鳥さんに持っていかれちゃったの。冒険者さん、取り返してくれないかな?』

 手のひらに乗りそうなサイズの小さな妖精は羽をパタパタしながら懇願してくる。

「これやってみる?」

「うっす」

 二人でクエストを受注して、周囲を見渡す。

 すでにパーティーがいくつか狩りをしているが、クエスト対象の敵がいるあたりは、まだ空きはありそうだ。

「じゃあ、俺が一体ずつ引いてくるから待ってて」

「あいさ」


 敵は格上ではあるがクエが受けられるレベルだ。狩れないことはないだろう。クエスト対象の敵にスキルを発動して、モカが待っている近くまで引いてくる。

 そして、二人でぺちぺちと殴り始める。

「いやー。攻撃はあまり痛くないっすけど、敵のHPも減らないっすね……」

 俺はナイトでモカはヒーラーで、どちらも火力はない。死にはしないがとにかく火力がない。

「アタッカー募集する?」

「うーん。今日は観光できればいいっす」

 雑談しながら数分かけて一体を倒す。クエストアイテムは複数必要なので、まだ何体か狩らなければならない。次の対象にターゲット定めてスキルを使った瞬間に、バシュンと対象に矢が刺さって、ごりっと敵のHPが減る。


「あっ、ごめんなさーい」

 死角にいたエルフの弓職らしき女性が謝ってくる。

「いえいえ」

 ターゲットしたままの敵はそのままごりごりとHPが削れていきあっという間に倒されていく。さすがアタッカーは火力が違う。にしても強い方ではあると思う。そもそもここはソロ狩場ではない。


「うわー、強いっすねぇ」

 モカがポツリと感想を漏らす。

 眺めているとエルフの女性が近づいてきて、会釈をする。腰まで届く艶やかな長い金髪で、頭の両サイドから一部だけを三つ編みにして、後頭部で結んでいる。瞳は澄んだ緑色。その瞳と同じ緑をメインにあしらった装備は、見た目を変更できるシステムであるスキンがついていてよくわからないが、弓からは強化による異様なオーラが出ている。

「そちら、ペアです?」

「はい」

「わたし、ソロなんだけどよかったら一緒にどう?」


 モカにどうするかと聞こうとする間もなく、モカが先に返事をする。

「是非、よろしくお願いするっす!」

 火力に目がくらんだのだろう。とても元気な返事だった。自分としても、一緒に狩りをしてくれるなら有難い。

 パーティーの勧誘を飛ばすと、エルフの女性が加入する。名前はマリン。職業はホークアイ。レベルは92。キャップ解放までにカンストしていれば、すぐに91にはなるとは聞いていたけれど、そこからのレベル上げは、相当マゾく、1レベル上げるのに噂では数か月コースだという話だったはずだが…。キャップが解放されてから、まだ二週間しか経っていない。そもそも今の自分たちのレベルでガッツリ狩りをしても一か月で1レベル上がるかどうか怪しい。

 モカが個人通話で、唸り声を上げる。

「やばいっすね。もしかして廃人」

「ソロしてるくらいだからそうなんだろうな……」

「名前は見たことないっすけど……、あー。サウザンド・カラーズ……? ギルド名はなんか見たことあるような……ないような。英語はあんまり覚えられないっす……」


 ギルド名を確認すると『Thousand Colors』と書かれていた。俺は見たことがない。たぶん、あまり表にでてこない小規模な狩りギルドだろう。


「鳥のクエだよね? あと何個?」

「さっき来たばっかなんで、全然ですね」

「じゃー、どんどんいっちゃおー!」

 アタッカーが増えたなら、隅でこそこそやる必要もないだろうと、普通に突っ込んで狩りを始める。近くに出現した敵を一緒に処理しながらでも、サクサク進む。


「いやー、お姉さん強くてありがたいっす」

「いえいえ、こちらこそー。ソロだとPOT減っちゃうから、盾さんとヒーラーさんいるとありがたいよ~! 会話ないのも寂しいし」

 イメージしていた廃人とはずいぶんと違った印象のプレイヤーで、会話が気持ちよく敵のHPの減りも気持ちいい。

「そういえば、二人はギルド入ってないんだね」

「一緒のギルドだったんですが、アプデ前に解散しちゃって……」

「解散かぁ……。もしかして、フィガロってとこ?」

「そこっす!」

「交流はなかったんだけど、結構人数多いところだったから印象に残ってて。戦争ギルドだよね?」

「そうです、そこです」

「ギルド探してるなら、どこか口聞こうか? 戦争やってるとこ紹介できるよ~」

 会話しながらでもマリンの攻撃の手が止まることはなく、MP管理もそつがない。息を吸うように自然と馴染んだ行動なのかもしれない。

「いや、攻城戦はしばらくいいかなって思ってて……」


「そうなんだ? じゃあ、うちくる?」


「えっ」

 思わず、モカと声がハモる。

「って言っても、うち人数少ないから皆でワイワイって感じじゃないけど……。ギルド施設のグレードは全部最大にしてあるから、バフ目的で次のとこ決まるまでの繋ぎとかでも大丈夫だよ。あっ、一応うちのギルメンに確認してからになるけど」

 ああ、そういえばギルドバフなんてものもあったなぁ、と気づく。HPや攻撃力、移動速度や採集や製作など、諸々の要素に影響するので、あるに越したことはない。ギルドハウスを拠点として使えるのも大きい。

 個人通話でモカに聞く。

「どうする? 悪くないと思うけど」

「うん、お姉さんいい人だし、体験で入ってみてもいいかなぁって。まぁ、ぶっちゃけ積極的に探してなかったし、どこも入ってみないことにはわかんないっすよね」

 モカとの個人通話を終了して、再度マリンとの会話に戻る。

「ご迷惑でなければ、お願いします」

「はーい。今日はもう寝ちゃった人いるから、明日返事するね。とりあえずフレ登録飛ばしておくね」

「はい!」


 その後、マリンにもういくつかクエストを手伝ってもらって、その日は終了した。

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