第61話 情報交換
リオルはローグの胸ぐらを掴んで叫ぶ。
「どういうことだ! 何でトウガラシなんて辛すぎるだけの食べ物を舐めさせた! 見ろ! サーラはあんなにも……」
「意識をはっきりさせて悶絶してるだろ? さっきとは打って変わってな」
「なっ!? まさかそのために……!?」
ローグの意図になんとなく気づいたのか、リオルはローグを乱暴に放してサーラの傍に寄り添った。そのまま声を掛ける。
「サーラ! サーラ! しっかりしろ! 私だ、リオルだ、分かるか?」
「うううう~、辛い、辛いですう~……」
「そ、そうか、辛いか。今、水をやるからな」
リオルは腰に掛けていた小さな水筒の蓋を外してサーラに水を飲ませようとする。サーラは水に気が付くと、夢中で飲み続けた。水筒が空っぽにして、やっとまともにしゃべれるようになった。
「うう~、辛かったです~……」
「サーラ大丈夫か?」
「うう、あれ? 姉さま? どうしたのですか? そもそも、私は一体……?」
「サーラ! 正気に戻ったんだな! よかった、本当に良かった!」
サーラの変化を見る限り、彼女は正気を取り戻したようだった。虚ろな瞳に光が宿っている。リオルは笑顔でサーラを抱きしめた。リオルの笑顔はローグとミーラが出会って始めて見る顔だった。
「……どうやら、上手くいったようだな」
「良かったあ、リオさん」
「え、え? 姉さま?」
「すまんなサーラ、大変な思いをさせて……!」
(本当にうまくいった。魔法に関わらない催眠術・洗脳の類でなかったら、こうも上手くはいかなかったな)
ローグがサーラに行ったのはショック療法だ。魔法に関わらない催眠術・洗脳ならば魔法を使わずとも身体的ショックを受ければ十分だと判断し、味覚を強く刺激する方法を選んだのだ。あらかじめサーラの好き嫌いをリオルに聞いたのもこのためだ(単純にローグが好奇心でやってみたいということもある)。
少しして落ち着いたリオルとサーラは情報交換を行い、互いの状況を確認し合った。その結果、両者とも驚くべきことが分かった。
「そんな……! お父様が病気になって、お兄様が威張り散らすようになったのは覚えてますが、お姉さまが追われる身になっていただなんて!」
「まさか、知らされていないのか? 私がそんなことになれば大ごとだぞ、嫌でも耳に入ってくるはずなのに……」
サーラが驚いたのは今のリオルの状況、リオルが驚いたのはサーラが何も知らないことだった。二人の立場からすれば考えられないことだ。
「あの、知らされていないというよりも……」
サーラは少し考えて、ちょっと言いにくそうに言葉を切り出す。
「私……何か、記憶があいまいな感じがするんです。所々、途切れてるって感じがして……」
「記憶があいまいだと?」
「精神感傷を受けた影響だな。覚えてることが途切れてるのも、定期的に影響力が強まった時があるってことなんだろうな」
「……サーラ、覚えてることだけでいい。お前の身に何があったか教えてくれ」
「私の身、ですか……」
サーラは必死に思い出して、覚えていることを口にする。
「お父様が倒れた後でしょうか? お兄様がウルクスって人と話し込んでいるのを見ました。その話の内容だと、次の皇帝がお兄様になるのは間違いないとか……」
「兄上とウルクスがそんなことを? しかも次期皇帝についてだと? 確かか?」
「はい。確かにそういう話でした」
リオルは険しい顔になる。皇帝である父親が病気で倒れた直後に家臣から次期皇帝の話を持ってくるなど、リオルとしては不愉快な気がするようだ。まだ、死ぬと決まったわけではないのに、死ぬことを前提にした話をするなどいい気がしないらしい。
「他にどんな様子だった?」
「そういえば……お兄様はなんだか目が虚ろで……話の途中で私の存在に気付いたウルクスが……あっ!」
「どうした?」
「そこからです! 記憶があいまいなのは!」
「「「っ!」」」
どうやら、クロズクが黒幕だという決定的な証言を得られるようだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます