第54話 新たな襲撃2
※10分前
ローグとミーラが泊まる部屋
「……ん? 何これ?」
夕食を部屋で食べている時のことだった。ミーラがウインナーを口に運ぶ前に、何か感じ取ったのだ。
「どうした、何か感知したのか?」
「う~ん……魔法や魔力って感じじゃないけど、何か嫌な感じがする」
「嫌な感じだと? どんな?」
「何かね、殺意みたいな、敵意みたいな、感じかな? なんだかじりじり近づいてきてる感じ」
「!」
この時、ローグは新たな敵襲が近づいてきたのだと察した。それと同時にミーラが成長してきたことにも気づいた。成長と言っても魔法のことなのだが。
(嬉しいことだ。こいつの【解析魔法】はもともと別のやつの魔法だったが、やっと成長させられる段階に入ったか)
ローグの中では、魔法を使いこなすのと成長させることは別なのだ。魔法を使いこなすこと自体は初歩であり、成長させることはその先のことを指す。例えば【炎魔法】を例に挙げると、攻撃重視なら威力を大きくしたり小さくしたり、応用重視なら煙を出したり熱を調節したり、そんな感じで同じ魔法でも使い手が違うだけで魔法の使い方や変化が起こる。つまり、魔法をどのように進化させるかということが成長ということなのだ。
(それにしても、今日のうちにまた襲撃してくるとは面倒な奴らに狙われたもんだ)
「数は?」
「う~ん、5人……かな?」
「5人か……」
今のミーラは、ローグの拷問まがいの訓練によって比較的早く魔法を使いこなしている。ローグとしては、もうそろそろ成長の段階に入ってもおかしくないと思っていたころだった。
(ただ単に魔力や魔法を感知するんじゃなくて、人の悪意や敵意を感知するか。都合がいい成長をしてくれたものだ)
『奴隷』としてのミーラが成長したことに心の中で喜んだローグは、早速行動を開始した。夕食を中断して装備を整え始める。ミーラに指示を出す。
「ミーラ、そいつらの位置を教えてくれ。静かに終わらせてやる」
「え、うん、分かった」
ローグとミーラは敵を倒すためにこっそり宿を出た。奇襲をかけようとするであろう者達に先に奇襲をかけるために。
宿の裏
ミーラから5人全員の位置を把握したローグは早速行動に出た。一人一人を各個撃破していくためだ。まず、宿の裏の東側から倒していく。
ガバッ!
「っ!? む、むぐ……っ!?」
一人目は、気配を消して近づいて後ろから首に手をまわし口をふさいだ。激しく抵抗される前に気絶あっせる。
「【外道魔法】!」
ビリビリビリビリビリビリビリビリ!
「~~~~~~~~っ!?」
ドサッ
(まず、一人目)
「おい、何だ? さっきの……って!?」
二人目が気付いて驚いて声を上げるが、ローグはすかさず攻撃を繰り出す。気付かれることも想定の範囲内なのだ。
「【昇華魔法】!」
バゴンッ!
「ぐふっ!」
バキッ ドゴッ ゴキッ ドスッ ガスッ
「ぐ! げ! ぶ! ごほっ! ぐは…………」
ガクッ
(これで二人目)
二人目は【昇華魔法】で強化した体で殴り倒した。すると、西側から気配が近づいてきた。
「ローグ、近づいてきてるのは敵よ」
「だろうな」
ミーラが小声で教えた通り、敵が近づいてきたようだ。
「ならば……」
3人目の敵が物音に気付いて様子を見に来た。そこに現れたのは気絶したはずの二人目の男だった。
「さっきの物音は何だ? 何かあったのか?」
「いや、問題はない。そっちはどんな感じだ」
「こっちも特に問題はない。作戦開始まであと5分だ、配置に戻るぞ」
「了解」
3人目の男が戻ろうとした時だった。後ろから二人目の姿に変装したローグに、一人目の男がされたように絞められてそのまま、
「【外道魔法】!」
ビリビリビリビリビリビリビリビリ!
「~~~~~~~~っ!?」
ドサッ
(更に3人目)
この後、4人目も同じ手口で倒したのだが、この時にミーラがあることに気付いた。
「ローグ、5人目の人の気配が遠ざかっていくんだけど」
「!? 気付かれたか!」
5人目の男は駆け出していた。宿から離れるためにだ。
(くそ! 予想以上じゃないか!)
実はこの男は他の4人とは違い、ローグ達の実力を測るための諜報役でしかなかったのだ。他の4人と敵対者の戦いを見て情報を持ち帰ることが使命であり、戦闘のために来たわけではなかったのだ。
そんな5人目の彼が見た限りでは、あっという間に戦いが終わっていた。それどころか戦いですらなっていないともいえるだろう。ローグ・ナイト、この少年はあまりにも強すぎる。下手をすれば自分の位置も把握されてる可能性が高い。一刻も早くここから離脱して情報を持ち帰らなければならない。そう感じて、全力で逃走を図ったのだ。
彼は諜報役というだけあって逃走能力に秀でた男だった。すでに宿が見えないところまで走っている。既に辺りは暗くなっているのだ、絶対に捕まるはずがないと思い込んでいた。たとえ相手が優れた魔法持ちであったとしてもだ。
だが、彼は見誤っていた。敵はローグ・ナイトだけではないのだ。
「(ゾクッ)……!?」
強い悪寒が彼の全身に走った。嫌な予感がしたせいで反射的に後ろを振り返ってしまった。振り返った先には何もなかったが、その時に前から強い衝撃が襲ってきた。
ドンッ
「ぐはっ!? な、何……?」
「よお」
「んな!? お、お前は!?」
彼は前方から殴られたのだ。背中に少女がくっついた状態のローグ・ナイトに殴られた。その事実を理解した時、彼は激しく動揺した。いつの間にか追い抜かれて先回りされていたことになる。もう訳が分からなかった。
「な、何で!? 何でだよ! さっきまで……」
「知る必要は、ない!」
狼狽する5人目をローグは容赦なく殴り倒した。これで5人全員が倒されたのだ。
「よくやったミーラ」
「そ、そんな、えへへへへ……」
珍しくミーラを褒めるローグ。ミーラは褒めてもらって喜んでいる。それもそのはずだ。いくらローグでも、逃走能力に秀でた相手を一人で捕まえられるはずがない。そこでミーラに正確な位置を感知してもらって、都合よく追いついたということだ。ミーラを背負っていたのもそのためだった。
この後二人は、5人目を縛り上げて宿の裏に戻った。ローグは5人組全員をひとまとめにして、ミーラはリオルを呼びに行った。
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