第43話 外国で決闘2

約三週間前。


「ここだけの話なんだが、お二人が距離を置くようになってしまったのは皇帝陛下の病気のことなんだそうだ」

「どういうことだ?」

「実は、リオル様と他のお二方は髪の色と瞳の色が異なるんだ。アゼル…様とサーラ様は皇帝陛下と同じで金髪に青い瞳なのに対し、リオル様だけが白髪に赤い瞳なんだ」


 門番は尊敬していない第一皇子にも一応、様付けしている(嫌そう)。こういうところはしっかりするようだ。


「それが二人とどう関係してるんだ?」

「皇帝陛下が体調を崩したときに、第一皇子がこんなことを言ったそうだ。『父上の病気は母親が違うリオルの髪と目の色が災いしたんだ』ってな」

「なによそれ、そんなひどいことを?」

「……最低な皇子だな」


 帝国の家庭は複雑だった。第一皇子アゼルと第二皇女サーラは皇帝と第一王妃の間に生まれたが、第一皇女リオルだけは皇帝と第二王妃との間に生まれたのだ。母が違うためにアゼルとリオルの仲は悪かったが、リオルとサーラの仲はそれほど悪くはなかった。リオルはサーラの政治的手腕を評価しており、サーラも戦場に進んで立つリオルのことを尊敬していた。彼女たちの父が病気になるまでは。


「その言葉を真に受けたのか、リオル様とサーラ様の関係も良くなくなってしまったようなんだ」

「そんな……仲のいい姉妹だったのにですか?」

「逆に皇子のほうはどうなったんだ?」

「ああ、皇子はな……」






現在。


 ローグは門番の情報と帝都の情報をまとめる。第一皇女リオルは白髪で赤い瞳、自分から戦場に立つほど戦闘能力が高く、現在は反逆者として指名手配されている。


(それに対して、目の前の女は……もしかして!)

 

 目の前の女性も白髪で赤い瞳、戦闘能力が高い。フードで髪と顔を隠しているが、目元まで隠している理由が訳があって隠しているのだとすれば……!


「何をジロジロ見ている! 今は戦闘中だ!」

「っ!」


 女性が切り込んできた。ローグは今度は【昇華魔法】を使って身体能力を強化する。


「【昇華魔法】『身体昇華・全』!」


 全身の身体能力が強化されたローグは斬られる寸前で剣をかわす。一瞬驚いた女性は更に剣で切りかかるがかわされ続けてしまう。


「……いきなり動きは早くなったな。それも貴様の魔法か?」

「そうだな。だがこれだけじゃないぞ」

「だろうな。どうやら、ただものではなかったようだ。これは何としてでも捕まえるか殺してしまったほうがよさそうだな」

「俺はそんなつもりはない。すぐに決着をつけよう」

「ちっ、やってみろ!」


 女性の動きが更に早くなった。これに対してローグも対応する。

 女性の動きが更に早くなった。これに対してローグも対応する。


「はああああああああ!」

「ローグ!」

「【昇華魔法】『身体昇華・極』!」

「きええええええええ!」

「ひっ!」

「くっ! うお!?」


 【昇華魔法】での肉体の身体強化を最大まで上げるが、それでやっとギリギリかわせるというところだった。


(すぐに決着をつけようって言ったが、これじゃあ隙が無いな。【外道魔法】を放つすきを突かれて俺がやられる危険がある。どうにかして隙を作らないと。そうだ!)


「とおっ!」

「むう!?」

「え!?」


 何かを思いついたローグは、足に魔力を集中して思いっきり飛び上がった。それを見た女性は一瞬驚いたが、すぐに行動に出た。


「逃がしはしない! はあっ!」

「ええ!?」


 なんと女性も飛び上がってローグに迫ってきたのだ。しかも、ローグにすぐに追いついてしまった。ローグの見立てでは、女性は身体能力のために魔法も魔術も使ってはいない。


(戦闘系魔法なしにこれほどとは……。化け物かよ。だが、好都合だ。地に足がついていない状況では、今は、俺が有利だ!)


「【外道魔法・憤怒】『理不尽の拡散』!」


バリバリバリバリバリバリバリバリ!!


「うおわああああああああ!?」


 女性はローグに遅れて飛び上がった。その時間差が隙となった。その隙に魔法を放ったのだ。一度目の二倍以上の威力をもって。


ドンッ! ドサッ!


 ローグは無事に地に足をつけたが、女性は地に崩れ落ちるように着地した。今度は相当効いたようだ。服が黒ずんだ女性は今度こそ倒れてしまった。


「ローグ! やったね!」

「ああ。勝ったよ」


 ローグの勝利を確信したミーラはローグの元に駆け寄ってくる。ローグも笑みを浮かべてミーラの抱擁を受け入れた。不謹慎にもローグはこんなことを思い浮かべる。


(これが漫画やラノベだったら、こんな時は相手の正体が女騎士で敗北を悟ったら『くっ、殺せ!』とか『私は決して屈しない!』とか言うんだろうが。彼女はどうなんだろうな?)


 前世の趣味がオタク寄りのローグだからこそ、こんな第三者が聞いたら呆れるような共感できるような考えが思い浮かぶのだ。しかし、それは所詮は趣味の世界だ。


「ま、まだだー!」


ガバッ


「「っ!?」」

「まだ、終わってないぞー!」


 女性が起き上がったのだ。服装が乱れ、満身創痍にさえ見える状態にもかかわらず、女性は立ち上がった。フードが外れ、白くて長い髪と素顔が分かってしまったが、今の女性は気にも留めていない。そんなことを気にする余裕さえないのだろう。


「いいや、終わりだろう」

「何い!?」

「もうご自分でもわかっているはずだ。今のあんたには戦いを続けるだけの体力が残っていないことが」

「っ!? くっ……」

「それに対して俺のほうはまだ体力もあるし魔法も使える。この状況ではどっちが勝つか分かるはずだ」

「…………!」


 女性は口を詰まらせた。実際、ローグの言っていることは事実なのだ。その様子を見てローグは先ほど思い浮かんだ状況になったために、この後の展開に少し期待した。


(さあ、なんて言うんだ? 『くっ、殺せ!』という名言が出るのか!?)


「ハアハア……! それでも、もう一度だ……」

「え?」

「もう一度勝負しろ! 魔法抜きで正々堂々とな!」

「……ええ~」


 女性の口から出てきたのは全く予想しなかったセリフだった。ローグは期待した者とは違ったセリフが出てきたので露骨にがっかりしてしまった。


「な、何をがっかりしたような態度を取るのだ!? ぶ、無礼だぞ! 私にも、この勝負にも!」

「い、いや、その……期待した展開にならなかったもので……この状況で今更魔法抜きで正々堂々って……」

「へ?」

「はあ!? 何を言ってるのだ貴様は!? この勝負で貴様が優位に立てたのは魔法のおかげだが私には魔法が無い! 不公平であろう! 戦場ならともかく、一対一の勝負なら正々堂々としなければならんだろうが!」

「うええ~……」


(ヤバいよこの人、熱血で面倒なタイプだ。俺の苦手とする性格の人だ~)


 魔法抜きで再戦を望む姿勢を見せる女性に、ローグは関わるのが嫌になってきた。だが、この女性は見過ごすわけにはいかなかった。何故なら、この女性こそがローグが利用しようとしている人物なのだから。

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