第8話 村のその後
ローが村全体に魔術をかける直後。
村は大混乱になった。村全体が光を放つ状況に誰もが冷静になれなかったのだ。
「な、何だこの光は!?」
「周りが、村全体が光っているってのか!?」
「ひいいいいいいいいい!?」
「くそ、何なんだよ!? ローのこととか一体何が起こってんだ!?」
この状況で、負傷していながらも他とは違った思考をする者がいた。
「これは……大規模魔術か……この村を対象にした魔術を……まずい!」
それは親方だった。彼は元は#帝国__・__#の軍人だっただけあって、この状況に察しがついたようだ。
「みんな! 早くここから、うぐっ!?」
「「「親方!?」」」
親方は急に倒れてしまった。周囲の者たちが心配になって駆け寄ってきたが……
「うっ、なんだ? 力が抜け……」
「お、俺も……」
「……………」
周囲の者たちが意識を失って倒れる中で、親方は薄れゆく意識の中で考えていた。
(まさか……ローがやってるのか……いやそんなはずはない。……奴は……確かに強力な魔法を……使えるようになった……が、こんな魔術を……いきなり使えるはずが……ない。……誰か……糸を……引いて………)
思考の途中で、親方の意識は残念ながら途切れてしまった。
魔術が終わった後。
「う、うん?」
「う、う~ん、な、何が?」
「た、確か、村が光って……」
「みんな! 大丈夫か!? 体に異常はないか!?」
村の者たちが目覚め始める中で親方が安否確認を急いでいた。あんなことがあって無事だとは思えないのだ。
「お前たちは回復系統の魔法が使えたな、みんなの治療をしてくれ! 何かあるはずだ!」
「はい! では親方から治療を……あれ?」
「……おい、どうした? 何か気付いたのか?」
親方に治療を頼まれた青年は、不思議そうに自身の手を見ていた。治療のつもりで魔法をかけようとして何も起こらなかったからだ。青年はあることに気付いて震えながら親方に答えた。
「……お、親方……お、俺の魔法が……使えなくなってます……」
「な、何だとお!?」
青年の言葉に驚いた親方は自分の魔法を確認してみたが、親方も魔法が使えなくなっていることが分かった。さらに、あちこちで魔法が使えないという話が聞こえてきた。
「どうなってやがる!? 何で魔法が使えないんだ!?」
「怪我人がこんなにいるのに回復魔法もダメだって!?」
「私や子供たちまで! 仕事にも必要なのに! 」
「これからどうして生きていけばいいんだ!?」
「くっくそ! ちくしょう!」
(な、なんてことだ!? これが、あの大魔術の効果か!?)
魔法が使えなくなる。辺境とはいえ、この王国で暮らしていくには魔法は欠かせないものだ。魔法が使えないということは、村全体で蔑んできた『魔法なし』と同じだ。それが何を意味するかは、彼らが良く知っている。
「なあ! これって、ローの仕業じゃないのか!? 俺たちに恨みがあってこんなことを!」
「そうだよ! あいつ、得体のしれない力を持ってたじゃないか!」
「だとしたらなんてことをしてくれたんだ! ふざけやがって!」
「絶対に許さねえ! 捕まえて元に戻させるんだ!」
村人たちはさっそく、ローを疑い始めた。村全体に恨みを持つ者と言えば、ロー・ライトしか当てはまらない。魔法なしだったくせに、突然、謎の魔法を持って戻ってきたのだから。
「…魔道具で…王都に…連絡しろ…」
「「「「「村長!」」」」」
「奴を…野放しに…するな…あの5人にも…伝えるんだ」
ボロボロの村長が村の中心にやってきた。【念話魔法】の使い手だった村長がわざわざやってくるということは、村長も魔法を使えなくなったのだ。
「そうだ! 王都に連絡して指名手配してもらうんだ! 逃げられないようにな! 」
「奴の似顔絵や特徴を細かく伝えろ! 青い瞳で、赤い髪に少し黒が混ざった頭髪なんて分かりやすい奴はそんなにいない!」
「あの5人は優秀だ! きっと力を合わせて奴を倒してくれるはずだ!」
「連絡用魔道具はどこだ! 早く伝えろ!」
村人たちはすぐに村中の連絡用魔道具を求めた。しかし、
「大変です! 全ての魔道具が機能しません!」
「こっちもだ! 魔道具が動かないぞ!」
「なんだと!? くそお! 直接王都に伝えていくしかないのか!」
(王都に直接だと? 無理に決まってんだろ……)
連絡用魔道具の故障はローにとっても思ってもみなかった誤算だったが、村からすればかなり致命的だった。魔法が無ければ、王都に向かう途中で出くわす魔物に対処できないからだ。つまり、村から王都に連絡する手段は、無くなったのだ。これから彼らは、ずっと魔法なしの人生を歩むことになるだろう。ローが魔法を彼らに返さない限り。
ローが去ってから、村は変わった。誰もが暗い雰囲気になったのだ。例えば、村で最初の犠牲になった門番は、
「……今日も何もありませんように……魔物とかが来ませんように……」
「くそ……魔法さえ使えれば魔物なんざ怖くねえのに……」
村に近づく魔物に怯えるようになった。門番の仕事は、村に魔物が寄ってこないように見はったり、退治したりすることだが、魔法が使えなくなった彼らでは困難になった。退屈だった毎日が恐怖に変わったのだ。
村の商店にも変化があった。こちらは商売に悪い影響があった。それは、
「これだけしか売るものが無いのかい?」
「……ああ。店を壊されて商品のほとんどをダメにされたからな……」
壊された店の前で、布を敷いてその上で商売をしている商人と客の女性が話している。この女性はローに家を壊された女性で、商人と同じく暗い顔をしている。
「そんな……。冒険者から買い取ったりは……」
「無理だな。……あいつらも魔法が使えなくなって、魔物を狩るのが難しくなってる。そこから物資を得ることはできないだろうな……」
「……そう……」
女性は暗い顔のまま、何も買わずに立ち去った。商人も暗い顔で自分の売るものを見つめていた。村の冒険者の仕事は、村を守り、村の利益のために魔物を狩ることだったが、商人の言った通り、それが難しくなっているのだ。つまり、村の防衛も利益を得ることもできなくなったのだ。
村の外側の森の方では、親方とその部下たちがにらみ合っている。部下たちは何故か仕事のスコップを武器のように構えている。その原因はローとの戦いにあった。
「お、お前ら、何だその目は……どういうつもりだ?」
「親方、あの時の俺は薄れそうな意識の中で聞いちまったんだよ。あんたが俺達がやられるのを黙って見てたってことをよ」
「な!? そ、それは……」
口を開いたのはローの攻撃に一度目は耐えた男だった。そして、二度目の攻撃で倒れたはずだった。だが倒れた後、意識をすぐに失わず、直前にローと親方の話を聞き、自分たちが捨て駒にされたことを知ったのだ。
「俺達が捨て駒だと? そんな風の扱われるとはな。あんたにとって俺達もローも同じだったってことか」
「ま、待て、落ち着けよ……それは違うぞ。ローを確実に倒すために仕方なく……」
「ふっざけんな! 結局あんたもやられたじゃねえか!」
「くっ……それは……」
親方は言い訳をしようとしたがすぐに否定されてしまった。他の者達も怒りをぶつける。
「何が元帝国の軍人だ! 大したことねえじゃねえか!」
「もともとあんたがローを雇ったせいだ!」
「そうだ! もとはと言えばあんたが悪い!」
「おかげで俺達は魔法なしと同じになっちまった!」
「許さねえ! 今度はあんたがストレス発散させるんだ!」
部下たちは遂に親方に集団で襲い掛かってきた。親方も逃げられないと判断して受けて立つことにした。
「くそ、やむを得ん! うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
これは、親方が戦いに詳しくても分が悪かった。この後、村で仕事が一つなくなった。
村長の家では、数人の村人が集まっていた。何をしているのかというと、
「村長! 出てこい!」
「中にいるんでしょ! 出てきなさいよ!」
「村はこれからどうなるんだよ! 何とかしてくれよ! 村長だろ!?」
「もとはと言えばあんたのせいなんだぞ!」
彼らはこの状況を村長のせいにして、詰め寄ってきたのだ。確かに村長がローをいじめの対象にするように誘導していたのだが、村長だけの責任ではない。そもそも、村長のせいにしたところでどうにもならないはずだ。それが分からない時点で彼らの頭はよくなさそうだ。もっとも、村長はそれ以上のようだった。
「く、くそ……ワシのせいではないじゃないか……お前らだって……それどころか……お前らの方が……」
この村長は、自分でローの苛めを誘導しておきながら、自分のせいではないと思い込んでいた。自業自得なのがそれが分からない、救いようがないほど愚かだったのだ。地下室に隠れる身であるにも関わらずだ。
(ワシは悪くない……悪いのはいつまでたっても魔法が使えなかったローだ……それに、ローが実は魔法を持ってることを知っていた『あいつ』が黙っていたのも悪い……そう、『あいつ』が悪いんだ……馬鹿正直にワシの言いつけを守り続けた『あいつ』が……)
ガッシャーン!
「ひっ! なんだ!?」
「村長! 早く出てこないと家をぶっ壊すぞ!」
「何だと!?」
窓を割るような音が聞こえた後、そんな声が響いてきた。村長は地下室のさらに奥に隠れようとするとあるものが頭に降ってきた。
「うっ、なんだ、畜生……こ、これは!? 壊れていない通信用の……」
それは、数日前に村中で探していたものだった。
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