第6話 村へ復讐2

「そ、そんな……馬鹿な……」


「お、俺たちが……こんな、一方的に……」


「あ、あいつ……魔法なしじゃ……」


 多くの店を焼き尽くした後、そこにやってきたとある野次馬を蹴散らしてローが向かった先は、村長の家だった。そしてそこには……


「きっ来やがったな、ロー!」


「よう、村長にして親戚のおじさん、もはやじいさんかな?」


 村長は父の兄にあたる人で、ローの叔父だった。そして、この男からローの悪夢は始まったと言っていいものだった。なにしろ、親戚の身でありながら、最初にローの敵になったのだから。


「おじさんは俺に冷たかったな。俺が魔法なしと呼ばれるよりも前にさ」


「ちっ、だから何だというのだ!」


「俺はあんたに何もしていない、つまり俺の両親に対抗意識かなんかがあったんだ。両親が死んだからあんたは村長になれたんだからな」


「だっ黙れ! 兄であるワシよりも強い魔法をあの二人は持っていやがったんだ! 少し嫉妬したぐらいで何が悪い!」


「それで息子の俺に当てつけか、少し嫉妬したぐらいで魔法なしをいいことに村全体で嫌がらせを行うのか、幼稚かつみじめだな(笑)」


「きっ貴様! ガキの分際で!」


 この男は、ローの両親に対して強いコンプレックスを抱いていた。その両親の死をいいことに、ローを八つ当たりの対象にしていたのだ。村全体で行う手口からかなり悪質だ。


「貴様も同じだ! 魔法なしかと思えば強い魔法を持ってきた! 門番共だけでなく、元軍人の親方にまで勝っただとふざけるな!」


「へえ、耳が早いな。さすが臆病者、尊敬するよ」


「くそ! どこまでもなめやがって!」


(まだか! まだ来ないのか!?)


 この男は焦っていた。持っている魔法が決して戦闘向けではないからだ。そこそこ高齢ハゲになる身では逃げ切れるとは思えかった彼は、村の冒険者たちを待っていた。村で騒ぎを起こすローを捕まえるよう依頼していたのだ。


(早く来てくれ! そしてこいつを……)


「冒険者なら来ないぞ」


「なっ何!?」


「店を潰しまわったらやってきたからな。あいつらにもひどい目にあったから復讐はしたんだ。だから来ないよ」


「そんな…馬鹿な…」


「あいつら、村長の依頼で俺を捕まえるとか言ってたけど、少してこずった程度だったよ」


 その通りだ。商人の店を焼き尽くした後に冒険者(野次馬)見つかり、そこで戦ったが、最後にローが勝ったのだ。逃げ出した者もいたが、追い付かれて叩きのめされたのだ。




数時間前。


「見つけたぞ! ロー・ライト!」


「村長の命令でお前を捕らえる! 生死はいとわない!」


「どんな魔道具を使ったか知らねえが、魔法なしは大人しくしてりゃいいんだ!」


「……村長はよく伝えてないのか? 【念話魔法】の持ちぐされだな」


 彼らは冒険者の身でありながら、ローには野次馬のようだと評される程度だった。勝敗はローの圧勝。




そして現在。


「……ということがあったんだ」


「くっそおおおおおおおおおお! やくたたずがああああああああああああ!」


「残念だったな」


「待て、待ってくれロー! お前にはワシの財産をやる! だから……」


「いらないよ? 馬鹿じゃないの? えい」


ビッビリビリビリビリビリビリビリビリビリビリビリビリ!!


「ひっ! ひえぎゅああああああああああああああああああああああああああ!」


 村長にもローの魔法がぶつけられる。自業自得だった。



「いいザマだな、村長さんよ」


「…………」


 黒焦げになった村長(一応生きてる)に用は済んだローは、そのまま村長の家で旅の準備に取り掛かった。自分の家よりもこの家の方が物資が豊富だと思ったからだ(つまり略奪)。実際、村長の家だけあって、旅に必要なものは揃っていた。少し身分がいいだけのことはある。というよりも贅沢だ。


「さて、用意はできた。行くとするか、この村を出る前にな」


 ローはこの村の連中を痛い目に合わせたが、まだ復讐は終わっていない。この村を出た5人の幼馴染が残っている。彼らを追うために旅に出るのだ。


 だが、この村で復讐の他にやり残したことがある。迷宮に入る前の目的だ。


「父さんと母さんの墓参り。最後になるな、もう帰ってこないし」


 ローは最後の墓参りに行くことにした。




墓所。


「………」


 両親の墓の前に立つローは、過去を振り返っていた。


 両親と共に生き、死に別れ、魔法なしと呼ばれ周りから蔑まれ、挙句に迷宮に迷い込んだ。そして迷宮を攻略し、今ここにいる。心を変えて。


「ロー・ライト、最後の墓参りに来ました。父さん、母さん。俺は故郷を出ていきます。どうか天国で俺の旅を見守ってください」


 ローは両親の墓に花を添えて、感謝を込めて手を合わせた。



数分後。


「……って言っても、今の俺はもうこれまでの『ロー・ライト』じゃないんだけどな」


 その通りだ。ただの『ロー・ライト』のままなら、最後に命を奪うまでが復讐になるが、ローは最終的に誰一人殺すことは無かった。


「まあ、あのまま『ロー・ライト』だけだったら、頭のイカれた殺人鬼になっていたからな。ていうか人間って極限状態になるとあそこまで狂えるのか。いや、その前に村の馬鹿共の苛めがヤバすぎなんだな。こういうのはアニメや漫画だけだと思ったのに」


 その通り。今の彼は『前世の自分』、『ナイトウ・ログ』が混じっているのだ。その影響は彼の復讐をも変えた。『ナイトウ・ログ』の部分が、狂気に染まった『ロー・ライト』をまともな方に戻したのだ。


「復讐をする時点でまともとは呼べないが、『ナイトウ・ログ』は変人だったしな研究一筋の。魔法の研究をしてる時に研究所が崩壊するなんて、なんかの実験の失敗か? もう確かめようがないからどうでもいいけどな。それ以上に気になることがあるし……」


 『ナイトウ・ログ』は魔法の研究者だった。あらゆる魔法の研究・実験・調査に携わっていたため、魔法の知識は豊富だった。その知識を生かして、村の復讐を成功されたのだ。それは、残りの復讐にも役立つのだろうが、『ナイトウ・ログ』の部分が復讐以上の目的を持ってしまった。


「それにしても……、どうして世界はこんな風に退化したんだ?」


 それは、『ナイトウ・ログ』の部分が興味深く感じた疑問だった。


 ローの前世の世界。つまり、『ナイトウ・ログ』の生きていた世界は、魔法と科学が存在し、その両方が両立していた。魔法が科学を支え、科学が魔法を支える。『ロー・ライト』の生きる世界と比べると、はるかに発展していた。


 しかし、『ロー・ライト』の生きる今の世界は、『ナイトウ・ログ』の生きていた世界の未来の姿、つまり退化してしまった世界だったのだ。


 なぜそんなことが分かったかというと、


(俺が攻略した迷宮は、『ナイトウ・ログ』の時代に作られたものだ。いや、そもそも、あの迷宮の制作者は『ナイトウ・ログ』! つまり俺本人じゃないか!)


 本来迷宮は、軍人や傭兵といった戦闘のプロなどを鍛えたり育てたりするために作られたものだった。中に強力な合成生物(魔物)がいたり、攻略者に特典があるのもそのためだ。


 そんなものが古びた形で今の世界にあるということは、両者の世界は同じ世界で、今は大幅に退化してしまっていることを意味する。


 どうしてそんなことになってしまったのかはローでも分からない。前世では研究所の崩壊に巻き込まれて死亡したのだから。


「……はあ、何をどうすればこんな世界になるんだ?」


(天変地異? 異常気象? 巨大隕石? まさか戦争じゃないだろうな? 魔法関連の……)


 様々な原因を考えたが、手掛かりが一切ないため、答えが出ない。だが、一番高い可能性があるとすれば……。


「やっぱり戦争だよな。魔法が発展したせいで犯罪が多発したし、そのせいで国同士の関係が悪かったしな。となると『ナイトウ・ログ』おれにも責任があるわけか」


『ナイトウ・ログ』にも責任があるというのは、『ナイトウ・ログ』は魔法の研究者として、数々の魔法の発展に貢献してきたのだ。特に危険な魔法や戦闘向けの魔法の発見についてだ。それが国際問題になったこともある(戦争が始まったり、テロ組織ができるほどに)。つまり、もし戦争が原因なら、責任が無くもないとも言える。


「……ここでそんなことを考えてもしょうがないな。でも、気になってしまうから手掛かりから探していくか、世界崩壊の謎を解き明かすために」


 それこそが復讐以上の理由だった。この村は王国の中でも辺境に位置すると言われているため、ろくに外の情報が入ってこない。こんな村にいても仕方が無かった。


「そういうわけで父さん、母さん、改めて言うが俺はこれから旅に出ます。ここにはもう来ないので、どうか本当に天国で見守ってください」


 両親の墓を振り返って、ローはその場を後にした。もうここに戻ってくることが無いことに寂しさを覚えながら。




 墓参りを終えたローは最後の仕上げのために村の外に向かう途中、邪魔が入ってしまった。それは……。


「おいおい、なんだこれは……?」


 ローは、あきれた口調でつぶやいた。


 なぜなら、大勢の村人たちが手に剣や斧を持って、震えながら身構えていたのだ。中には復讐の対象としてローに攻撃されて、ボロボロの者もいる。親方たちや冒険者たちだ。


「何のようだ?」


「ひいっ! 来た!」


「ばっ化け物め!」


「悪魔め!」


「こっこれ以上、お前の好きにはさせないぞ!」


「ぶっ殺せ! これだけの数で攻めれば大丈夫だ!」


「…………なるほどねえ」


 どうやら、村全体で立ち上がり、動ける者たちでローを仕留めるつもりのようだ。ローとしては村の外で最後の仕上げをするつもりだったのだが、ここで邪魔をしに来るとは予想外だった。それでも、ローにとっては誤差の範囲でしかないのだが。


「はあ、……雑魚が集まったぐらいで何ができるんだ?」


「舐めるなよ! このクソガキが!」


「お前が強力な【雷魔法】が使えるってのは分ってんだ!」


「こっちはもう対策が出来てんだよ!」


「そうだ! ここでお前を倒してやる!」


「……ほう。これは中々だな」


 武器を持った者たちが鎧に包まれ、白く光りだした。【鉱物魔法】の鎧に別の魔法を組み込み、補助魔法で防御力を高めたようだ。よく見ると武器の形状が変化している。確かに一般的な【雷魔法】の対策はできているようだ。ローは素直に称賛する。


「よくできてるじゃないか。これならただの【雷魔法】は通じない。この短時間でよくこれだけの準備ができたものだ。だが、ざんねんだが相手が悪かったな」


「なんだと?」


「どういうことだ?」


「あんたたちは俺の魔法を見誤った」


「「「何っ!?」」」


 ローの右手から赤紫色の光が発生し、体全体から金色の光が発生した。赤紫色の光は、ローが村人たちに見せた魔法だが、金色の光は初めて見せるものだった。


「何だあれは!?」


「二つの光!? 二つの魔法!?」


「馬鹿な! そんなことありえないぞ!」


「何が起こってんだ!?」


ビッビリビリビリビリビリビリビリ!! キイイイイイイイイイン!!


「あんたらのことは嫌いだったが、これほどの努力を示したのなら、こちらも少しだが本気を見せなきゃ失礼だろ? だから見せてやるよ、今の俺の力を!」


(本当は試し打ちだけど)


 右手の光から、先のとがった大きな螺旋状の槍を形成し、それに金色の光が螺旋に沿って入り込んだ。まるで二つの力が一つになるように。


バリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリ!!


「名付けて! 合体魔法【昇華螺旋槍】!」


「来るぞ! みんな構えろお!」


「ひいい! 神様~!」


「うわああああああああ! 来るなあああああああああ!」


「駄目だね! 喰らえー!」


 ローは『それ』を手にもって、本当の投げ槍のように投げた。それも、とてつもない速さで。まるで、ローの身体能力が大幅に上がったかのように。


バリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリ!! ドッカアアアアアアアアアン!!


「「「「「ぎゃああああああああああああああああああああああああああ!」」」」」


「もう聞こえてないだろうけど、俺の魔法は『ロー・ライト』の【外道魔法】と『ナイトウ・ログ』の【昇華魔法】だよ。悪いね、本当に相手が悪かったな」


 村人たちの悲鳴が聞こえる中でローはそう呟いた。


 今、ローには二つの魔法がある。なぜなら、迷宮で得た『前世の自分』の特典は、前世の記憶を思い出させるだけでなく、前世の魔法も使えるようにするものだったからだ。


 【外道魔法】は、怒りや悲しみなどの負の感情と悪意が強いほど強力で様々な形に変えられる魔法であり、【昇華魔法】は、あらゆるものを強化を超えてより優れたものに変えることができる魔法なのだ。


そんな二つの魔法が組み合わされば、絶大な力になるだろう。ましてや、今のローが使えば当然だ。


「……あ…あう……」


「ぐ……うう、……」


 ローの前に立ちはだかった村人たち全員が再起不能になったことを確認したローは、そのまま村の外に出る。村に対して最後の仕上げをするために。


「これで終わりじゃない。後は生きて苦しんでもらわなきゃな」


 ローは倒れたものを見ながら残酷に笑う。

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