第42話:神子

光輝は2回連続で神器の解放を行なったことにより、かなり疲弊していた。


「はあ...はあ...はあ...。まさか相良さんが教団の関係者だったなんて......。ふう、みんなもう大丈夫だ。相良さんは倒した」


「いのり、大丈夫?」


「ましろさぁん。恐かったですぅ」


いのりはその顔を涙でぐしゃぐしゃにし、真白に抱きついた。


「よしよし、よく頑張ったね!もう大丈夫だよ」


まるで自分の子供をあやすようにいのりを慰めた。


「ぐふっ」


「こうちゃん!!」


しかし突如として聞こえた悲鳴。そして降り注いだ血。それにより、いのりを抱きしめていた真白はゆっくりと振り返った。


「そんな......」


そこには腹の中心が腕で貫かれた光輝がいた。

そしてその腹を貫いているのは、先ほど光輝が倒したはずの相良であった。


「だいぶ調子に乗りましたねえ?ですが、私には些か物足りなかったようです」


「あ、あああ。こうちゃん......」


深春が光輝の元へ近寄る。普通であればそんなことさせてくれる敵ではないのだが、なぜか相良は彼女が駆け寄ってくるのを許した。


「み、みはる......」


弱々しく呟く光輝。そこには光輝から流れでた血で形成された池ができていた。


「美しい友情ですねえ。しかしこれは友情というよりは恋慕ですかね。まあ何にせよ。あなた達は殺さないでおいてあげますよ」


なぜ急に意見が変わったのか真白たちは理解することができなかった。

それは明らかな嘘だ。目の前の光輝の惨状からそんなことはありえない。


「ふふ、それはですねえ。あなた達は一人残らず、我々教団の実験の礎になってもらうことにしたからですよおおお!!!みなさんはオウムとの融合実験や薬品投与など様々な実験に付き合ってもらいますよお!これは、これは楽しみですねえええ!!」


殺すことよりも惨い。相良は絶望する真白達の顔を見て心底楽しそうに、そして実験を行えるという狂気により興奮したのか口調も激しいものに変わっていた。


「さあ、まずはある程度痛めつけて逆らえないようにしとかなくてはねえ」


「お前えええええ!!!!」


涙を流しながらも深春は光輝がやられたショックから、今は怒りに全てを燃やし相良に斧を振りかぶる。

しかし、斧が捉えるよりも早く、動いた相良は背後からかかと落としを繰り出し、深春を戦闘不能に追いやった。


「残りは3人ですねえ。みなさん気絶したらちゃんと運んであげますから安心してくださいよおお!」


「くそ!第3群ノ......」


凛が魔術を唱えようとした時、相良の姿がぶれる。


「な!?どこへ......あああああああ」


凛の腕は普段、肘が決して曲がらないはずの方向に折れ曲がっていた。

その場には腕を抑えながら倒れこむ凛。痛みでどうにかなってしまいそうだった。


「ああああ、堪りませんねえ。その顔。さて次はあなた達ですよ?」


狂気の瞳が真白といのりの方を向く。


「い、いのり。逃げて!私が時間を稼ぐから逃げて!!」


「む、無理ですよぉ.....」


「いいから早く!言うことを聞いて!お願い!」


震え、瞳に涙を滲ませるいのりを真白は叱責し、背中を押した。そして時間を稼ぐための魔力を振り絞る。


「第4群ノ7......え!?どこ!?」


「きゃあああああ」


しかしまたもや、真白の魔術はその姿を捉えることができなかった。目の前に向かってきていた相良が消えた思ったら、先ほどいのりを逃した後方から悲鳴が聞こえた。


「いのり!?」


慌てて振り返るとそこには横たわる、いのりの姿があった。


「あ、あああ。あああ......」


「ふふふ、あなたで最後ですねえ?」


真白は絶望してた。目の前の男にはどうやっても勝つことができないと。

何より、光輝の神器の力を受けて無事でいることが信じられなかった。

6人いて、手も足も出なかった。自分一人ではもうどうすることもできない。


「いけないですねえ。そんな顔諦めた顔をしているのは。そんなあなたを痛ぶっても楽しくありませんよ。ほら立ちなさい」


相良は絶望してへたり込んでいた、真白の胸ぐらを掴み無理やり立たせる。


失意の中で真白は頭に一人の少年がよぎった。

結局、生きて帰れそうにないな。ああ、彼にちゃんと謝りたかった。

ちゃんと謝って、話したい。彼といっぱい、いろんな話がしたい。


今、真白の中を埋め尽くしているのは間違い無く、新だった。

1年の頃から同じクラスで、そんなに深く関わることはなかったけど、彼は優しく困ったことがあれば何度も助けてくれた。最近は雫とも仲良くなったことにより、ようやく以前より話すようになった。

これからもっと仲良くなれると思ったのにな。


ああ、なんだまだちゃんと彼への気持ちが残っているじゃないか。

何を諦めているんだ、私は。どうせなら。どうせなら最後まであがいてやる。

あがいて、あがいて、あがいて生き残って。彼にちゃんと謝るんだ。


体内に残った魔力はごくわずか。その魔力を練り上げる時間を稼ぐため、すこしの気力を振り絞り相良に問いかける。


「どうして......こんなことを?」


「ふふ、少しは顔つきが変わりましたね?いいでしょう。特別に教えてあげましょう」


真白はもちろん、現在意識を失っていない凛もその話に耳を傾けていた。


「まずは一つ。実験ですよ。都合よくこの山の封印が解けたのでね。発生したオウムを使っていろんな実験をさせてもらったんですよ」


そして相良は続ける。


「そして二つ目が、これは全くの偶然だったのですが、神子ですよ。神子を見つけたんですよおお」


「み、神子?」


「ふふふ、知りませんか?そうですよねえ。彼女は素晴らしいですよお。彼女を手に入れれば我々教団の悲願が叶うのに一歩近づくというものです。ですので、彼女を手に入れるのに邪魔されては敵わいませんから。まずは確実性を期すためにあなた達を殺すことにしました。まあ、今は実験台になってもらう大事な役割もできましたが。まあ神子はあなたもよく知っている人物ですよ」


神子とは一体なんなのか。なぜ教団はそんな者を求めているのか。

私がよく知っている人。私の周りでそんな特殊な何かを持った女性は知らない。


「おや?やはり誰のことをわからない......と言う顔をしていますね。特別に教えてあげましょう。あなたはきっと絶望するでしょうね。その子は何と言ってもあなたのお友達なんですから」


友達......?誰だ?最近一緒にいるいつもの3人の友達の顔が思い浮かぶ。


「それはねえ。新堂雫さん。彼女なのですよ」


「え......?」


目の前が更なる絶望で染まる。


「彼女が我らが崇拝する神子であり、新たな世界をこれから作り上げていくための礎になるお方です。然るべき準備をした後、ちゃんとお迎えに上がらねばいけませんねえ」


狂乱に満ちた笑顔で彼は、私の大切な友人の名前を呼ぶ。


「し...ずく?」


なんで?なんで?なんで?

かつてない混乱が頭の中を支配する。

しかし、すぐに我に返る。

神子がなんなのかわからないが、このままでは大切な友人が危険に晒されてしまう。何も知らないあの子をこんな頭のおかしい奴らに渡すわけにはいかない!


「そんなこと......そんなこと絶対にさせない!第3群ノ2:爆輪華!」


真白は自分をつかんでいた手を振り払い、魔術を一気に練り上げ放つ。中位魔術とはいえ、至近距離での直撃だ。

私にも熱風の余波が降り注ぎ、軽度の火傷を負うことにはなったが相手も無事では済まないだろう。

爆煙が辺りを包む。


しかし、その煙の中から白く鞭のようにしなる手が伸び、真白を捉える。


「何するんですかあ?痛いじゃないですかああ?」


「あああああっ!」


右腕が折られる。

そしてそのまま首が締め上げられる。

それでも私は諦めない。残った左腕に魔力を込めて殴りつける。


「はあ。もういいです。あなたはいりません。あなただけは殺してしまいましょう」


「よせ、やめろ!真白!!」


残っていた左腕も折られてしまった。

凛さんが遠くから叫ぶ声が聞こえる。目の前には私の心の臓を貫かんとする腕が迫っていた。


雫、ごめんね。

それにもう会えそうにないや。三波君......ごめん。

目から涙がこぼれた。


瞬間。相良のいる位置の右斜め後方から何かが墜落してきた。

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