第28話:疑念
「ごめん、私たちのせいでこんなことになってしまって...。大丈夫。あなたは、きっと大丈夫だから...。」
...?誰かの声がする。この声は...ま..し...ろちゃん?
ああ、ダメだ。目が開かない。この声の主を確かめたいのにどうしても目を開けることができない。
意識がぼんやりする。まるで夢を見ているような感覚だ。
でもとても暖かく気持ちが良い。
なんだか、昔お母さんに抱きしめられたかのような暖かさを感じる。
心地よい。
とても眠くて仕方ない。また、意識が遠くなっていく...。
────────────────────
「ん...」
まだ意識がはっきりと覚醒しない。私は一体...。
ぼーっとしながらもうっすらと目を開けることができた。
目を開けた先に見えるのは真っ白な天井。ここはどこなんだろう。私なんで眠ってたんだっけ...?
横に目をやると点滴の管が私の腕にまで伸びている。点滴は既に半分以上減っている。
どうやらここは病院で間違いがないらしい。
ベッドの横の机にはお見舞いのものと思われる花が飾ってあった。
「雫!?目を覚ましたのか!?」
この声は...。私の中にどこか安心感を与えるこの声はきっと彼のものだ。
「あ...ら......た?」
私は必死に首を声のする方へ向ける。そこには彼がこちらを目を見開けながら見ていた。
そして私が眠っているベッドに近づきゆっくりと私を抱きしめた。
「ど...したの?痛いよ...新.....」
「っ!ごめん...。でも、よかった...」
新は私をゆっくりと離すと安心したような表情を見せている。
そして目尻には涙が溜まっている。私のために泣いてくれていたのだろうか。
私はなんだかその様子が嬉しく思い、思わず笑ってしまった。
「な、何笑ってんだよ?心配したんだからな?」
「ううん、ごめん...。なんでも....ないよ。私....なんで病院にいるんだっけ?」
まだ完全とは言えないが、段々呂律も回って来るようになってきた。ようやく意識がはっきりとしてきたということだろう。
「覚えてないのか...?まあそれは、後で説明するよ。とりあえず今は先生呼ばなくちゃ。」
まだ私がなんで病院にいるのか、なんでこんなことになっているのかは疑問が残り気になって仕方なかったのだが、新はその説明よりまず先にナースコールを押した。
◆
あの後、私はナースコールを受け、やってきた先生から問診を受けた。
先生の説明では私は、体中に打撲を負い脱水の症状も見られた状態で運ばれてきたそうだ。
そして丸1日眠っていたらしいのだが、丸一日眠っていたにしてはやけに元気とのことだ。
更には全身の打撲を負っているはずにも関わらず、私が思ったより自由に動けていることに先生は驚きを隠せない様子でいた。
通常ならありえないと。そのこともあり、再度精密に検査を行うこととなったのだが、その結果は先生をもう一度驚かせるだけの結果になった。
私が負っていたはずの全身打撲はほぼ治っていたのだ。
まだ少しの痛みがあるが通常通り生活しても支障のないレベルと判断された。
若いため、自然治癒も早いのだろうか。そう思ったが、先生には「そんなことありえない」と即否定されてしまった。
しかし、ほぼ完治したと言える状態であるため、明日にはもう退院できるそうだ。
とはいえ、こんなケース中々見られないのでしばらくは通院して様子を見るとのこと。
それにしても不思議なこともあるもんだなあと私は病室の天井の見つめながら考えていた。
そう言えば、お見舞いには新の他には両親、篠山君、雅ちゃんが来てくれたそうだ。真白ちゃんもお見舞いには来てくれたみたいなのだが、いつ来ていつ帰ったのかは誰も分からないと看護師さんは言っていた。名簿には記録が残っているのにと気味悪がっていた。
そういえば、真白ちゃんが何か話している夢を見た気がする。
あれは、お見舞いに来てくれていた時のことだったのかな?でも結局何を話していたのかは全然思い出せなかった。
それにしても新からは説明を受けたが私が運ばれた状況になんだか納得できずにそのことを思い出していた。
「雫がなんで運ばれたかって?本当に全く覚えてないの?」
全ての検査が終わって、面会時間もギリギリというところ、どうしても気になった私は、事の顛末を新に伺った。
すると新は真剣な目をしてこちらにそう問うてきた。
新がこんな真剣な顔つきをするのを久しぶりみて少しドキッとしてしまった。
「えっと、何にも覚えてなくて...。新におぶわれたのはなんとくだけど覚えてる気がするんだけど....」
「...」
どうしたのかな?真剣な顔で何かを考えている?言いづらいことなのかな?と思った矢先、新は口を開いて説明し始めた。
「いや、ええと。雫は肝試し中にみんなと逸れたみたいでさ。俗に言う遭難ってやつ?それで先生たちが探していても全然見つからなくって、俺も心配で黙って探しに行ったんだ。そしたら山頂付近の森でがけ崩れが起きているところがあってな。そこに雫が倒れていたんだ」
「そうなの?私、崖から落ちちゃったんだ...」
「ああ。暗かったからな。足元もしっかり見えなかったんだと思う。それで崖から落ちた時に全身打撲を負ったみたいだ」
「そっか...。みんなに心配かけちゃったんだね。後で謝らなくっちゃ」
なんとなくは理解できたけど、納得はできていなかった。
なんでそもそもみんなと逸れたんだろうか。それで逸れたにしても山頂の方なんて登るかな?そもそも逸れたなら携帯で連絡取れなかっただろうか。あ、でも山だったから圏外だったのかな。
「なんでこんなに覚えてないんだろ...」
「そ、それは。きっと崖から落ちた時に頭とかも打ったからだと思うよ。それで記憶が抜け落ちてるみたいだ」
しどろもどろになりながら、新は答える。
色々と疑問が残る。新の言う崖から落ちた時に頭も打ったからということは確かに筋が通っているようにも思うが、なんだか怪しい。
ここまでそれ以前の記憶がすっぽり抜け落ちているのは違和感しかない。
新はもしかして嘘をついている?なんのために?
新を疑ってしまいたくなる気持ちが芽生えたが、助けてくれたのは新だ。
新に対してそんなこと考えるなんて自分が嫌になってしまった。
「そっか。分かった。ありがとう....それと私のことも助けてくれて嬉しかった」
自己嫌悪を誤魔化すように私は、新に感謝の意を述べた。
「ああ、約束したからな。じゃあ、そろそろ面会の時間も終わるし、俺帰るよ。また、明日病院に迎えに行くから!」
「明日って、月曜日でしょ?学校は?それにお父さんとお母さんが来てくれるからいいよ。ちゃんと学校に行きなさい!」
「いや、でも...」
「私は大丈夫だから、それの気持ちだけ嬉しいよ。ありがとう」
「分かったよ。でも家帰ったら絶対お前ん家いくからな!」
これだけ心配してくれるのが嬉しかった。
ああ、やっぱり好きだな。心の中でその言葉が反響した。
「うっ」
新が帰る際までのことを思い返してなんだか顔が赤くなってしまった。
今日はもう寝ることにしよう。
そしてまた明日、新に元気な姿を見せれることを楽しみにしておこう。
おやすみ、新。心でそう呟き、目を閉じた。
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