第34話 過去との邂逅
遅ればせながら、
というのは理由のひとつで、本心は夏休みの宿題に手をつけなかった
場所は毎度おなじみ
本日は土曜日なので銭湯はお休み。
そして
風呂掃除をするなら自由に入っていいとの事だったので宿題が終わったら皆で入ろう。
「デコ様、ここなんですが……」
「誰がデコ様かちゃ!」
「ハデス様、こちらは……」
「誰がハデス様かちゃ!」
ギャル子ちゃんは相変わらず語尾が可愛いちゃ!
やべっ! めっちゃ睨まれた。
不屈と善士がデコ神様……もといギャル子ちゃんに教わっている間、俺とはがねはドヤ顔でふんぞり返る。何を隠そう毎日彼女と宿題という名のお家デートをしていたので宿題とはおさらばしたのだ。
珍しく俺が教える立場に回った。
「ソウジ……ここって」
「それ5番だぜ」
致からの問に
バシンッ
「こらソウジ! 答えだけ教えたらダメやんか! ちゃんと解き方も教えないけんよ?」
「……はい。ごめんなさい」
「「「「「あはははははっ」」」」」
はがねちゃんは雷様のように俺を
「ふぅ……そろそろお昼か」
「出前取るんやろ? なんにするー?」
お昼のいい時間になったので休憩を挟む事に。今回のお昼はみんなでお金を出し合って出前を取ることにした。ちなみに夕飯は藤江さんが作り置きしてくれたのでそれを温めるだけ。
「う〜ん……ラーメンかラーメンかラーメンか」
テーブルに広げたチラシを見ながら呟くと周りから総ツッコミを喰らう。
「「「「「なんでラーメンなんだよ!」」」」」
「……今日は作れんけん。また明日ねソウジ」
「おう!」
ツッコミはスルーして真面目に考えよう。
「ピザ!」
「カツ丼!」
「パエリア!」
「ナポリタン!」
「お蕎麦!」
みんなバラバラな注文だ。
「んじゃ、風呂掃除早く終わらせた人の意見採用って事で!」
「「「「「「おー!!」」」」」」
食事前の運動と風呂掃除を兼ねて一石二鳥だぜ!
ごしごしキュキュキュ
掃除の結果ギャル子ちゃんのピザが採用されました。
お昼ご飯を食べた後はボードゲームをしたり宿題を片付けたりしていたら夕日が差し込んできた。
今現在、俺とはがねの解放されしコンビはキッチンの前に立っている。
「ソウジって料理できるん?」
「いや全然!」
「威張って言うなし」
キッチンに立って何をしてるのかというと電子レンジと睨めっこ。さっきも触れたが本日は藤江さん不在なで作り置きを温めるだけ。
他にやる事と言えば炊飯器のスイッチを押すだけでほとんど仕事は終わったと言っていいだろう。
この設備ではラーメンは難しいのでやる事がないはがねちゃんは椅子に座りワンピースから覗く桃色の
「ねぇソウジ……結婚するんやったらさ……」
「
「料理できた方が……って、は? なんて?」
「え? 何が?」
アレ? 何の話だっけ?
「しんぜんしきってなん?」
「俺そんな事言った?」
「うん、めっちゃ言いよった。なんならウキウキした声やった」
「マジか」
無意識の内にはがねの
確かあれは……小さい時に両親が……
「ソウジ?」
「俺の……父親はさ」
ターンテーブルを眺めていると何故か過去の風景が蘇る。
少し前に見たアニメで、電子レンジを使って過去に遡る物語があった。主人公は辛い事や苦しい事を
そのアニメの影響なのか、俺は電子レンジの前で
ジィィィィという電子音が映写機のように頭に入り俺の記憶の底を辿る。
あれはまだ父親と母親がいた頃の記憶。
「父さんと母さんは……確か大学の同期だって言ってた。同じ医学部だったらしい」
「…………」
白衣を着た両親は俺の目から見てもかっこよく映っていた。
「長期休暇の時は……海の見える街でよく遊んでもらった……うぅっ」
「ソウジ!」
記憶が鮮明になるにつれて頭痛が酷くなる。一体どうしてしまったというのだ。
「無理せんでよかよ?」
「いや……もう少しで……何か大切な事を思い出しそうなんだ」
支えてくれるはがねの手を握り記憶の深淵を覗く。だけど次に見えてきたのは俺が知ってる父親だった。
「……母さんが死んでからは無気力に過ごしていた。だけどある時、同じように海の見える街に居たんだ……だけど」
大勢の声が聞こえる。しかしそれは嬉しさの声というよりは……悲鳴に近かった。
「ふぅ……それから……父親、
「ソウジ、もうよか……もうよかけんっ」
泣き出しそうになる彼女に触れて大丈夫と頷く。だって俺は……この泣き顔を前に見た事があるのだから。
「時定は、各地で色んな人に会っていた。よくわかんねぇ女や偉そうなオヤジ……子どもの俺は独りになる事が多かった」
街中で女と会っている姿を見た時は絶望した。母親が亡くなってすぐに違う女といい仲になっているのが許せなかった。
「それから……俺と時定は、あまり会話をしなくなった」
「…………」
ズキリとした痛みが増して更に記憶が進む。
「ふぅ、ふぅ……」
「……ソウジ」
「ソウジ君」
「傍にいるよ」
「無理すんな」
「大丈夫だからね」
いつの間にか親友達も俺の傍に集まっていた。
一体いつから……という言葉は今更な気がしたのでそのまま続ける。
「俺がここに来る事になったのは……捨てられたからなんだと……思う」
イマイチ記憶が定かではないが、藤江さんに手を引かれて去っていく俺を見るアイツの顔は覚えている。
憑き物が落ちたような顔。
「俺は時定にとって……父親にとって……邪魔な存在だったのかな……」
思い出さなければよかった……思い出してしまった。あの時の感情。
「そんな事なかっ!!」
「っ!! ……は、がね?」
聞いた事がない彼女の怒りの声。周りに座る友人達も肩を跳ねさせる。
「
ギャル子ちゃんが珍しくはがねを
「ソウジのお父さんがそんな事思うわけなかっ!!」
ギュと握られた手は今まで感じた事のない震えに襲われている。
「それって……どういう」
彼女は何を知っているのか?
しかし俺が言葉を発する前にキッチンへ続く扉が開かれる。
……ガラガラ
「……藤江……さん」
ゆっくり入ってきた俺のおばあちゃん。しかしその顔もまた、見た事がないような真剣な表情。
「帰ってきたん…………っ!」
言葉が最後まで続かない。
藤江さんが入ってきた扉からもうひとり現れたのだから。
……カラカラ
「なんで……アンタが……ここに」
その人はさっきまで話題に出ていた……俺の父親。
「……とき……さだ」
「……
何も良くねぇよ……
「うっ、うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
その瞬間今まで感じた事のない頭痛に襲われ、俺の意識は深い闇の中へと沈んでいった。
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