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「もう少し話を聞かせて下さい。夢に出てくるのは、本当に車でしたか? 何か別のもの、ということはなかったですか?」


 もし呪いが成就しているのならば不調が出るのは当然頭や胸の辺りに限られるのが筋というものだ。

 だが、この依頼人は、寝ては全身を痛めつけられ、覚めては不眠に苦しんでいる状況だ。仮に、不眠のほうは人形の頭部の釘打ちの結果だとしても、胸への呪いはどこへ行ったのだろうか。紅色には、話が合致しているようには思えなかった。


「いつも気が付いた時には撥ねられていいるので、車かどうかは分かりませんが、とにかくそれ位大きい物です。すごいスピードで私を撥ねる、大きな何か、ということしか分かりません」


 車のような何か――あやかしが絡むとすれば、これか。


「わかりました。それの正体を突き止めましょう」


 佐咲実久らがかけようとした呪いとは全くの別件ということも考えられるが、延長線上の出来事の可能性が高いと紅色は感じた。


「すでにご承知のことと思いますが、僕らは人間には実力行使ができません。例え愚かなユーチューバーが巫山戯ふざけて呪いの真似事をしたとしても、あくまで我々が対処する相手はヒトではない者です。その点はいいですね?」


「わかってます。前に会った人から聞きましたから。でも、人間に手を出せない上に、手がかりがこれだけしかないのに、どうやって解決するんですか?」


「動画に映っていた神社はどこか、ということは目星がついています。関内さんがお会いしたその方が事前に調べてくれました。少し遠いですが、ここから歩いて向かえる場所です」


「え? あれだけの動画でどこの神社なのかがわかるんですか?」


「我々は『普通』とは言い難い人間ですから」


「気持ち悪いですね」


「短い間のご縁ゆえ、誉め言葉として受け取っておきます。今からその神社に向かい、中を調べようと思います。藁人形を打ち付けるのに使った木は傷が入っているでしょうから、そこから何らかの手がかりを探します。最も、それ以上に鍵となりそうなのは釘で穿たれた藁人形そのものですが、その人達が気持ち悪がって神社のどこかに捨てて帰っていればこちらの手間が省けるのですが……」


「それでしたら心当たりがあります」


「……本当ですか?」


「こっちの動画を見て下さい」


 関内は別の動画を開く。先程の動画の撮影を終えたことへの感想を語った動画のようだ。


『使った藁人形はどうする?』

『どうしよう(笑)。とりあえずあいつの家の近くの、なんか呪いがかかりそうな、それっぽいところに置いておけば効果あるんじゃない?』

 字幕が付いた動画の中で、二人の男女はケラケラと笑っていた。

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