第三章 魔の真髄ここにあり
第37話 早く、そして久しい再会
再び竜の背中に乗ってトゥーリの街へと帰り、女神様があろうことか俺たちをプレイヤーの前に晒したり、そのまま教会関連NPCに連れられ女神と共にトゥーリの教会に放り込まれたり色々あったがなんとか解放された。
なんだかんだとしているうちにデスペナルティは解除されているし、大注目を浴びたが教会周りは人払いされたために今はNPCさえいない有様だ。
鵺さんと顔を見合わせる。
「まあ、とりあえずおつかれさまということで」
「そう、ですね」
「そろそろいい時間だし俺は落ちて飯だなぁ。鵺さんはこのあとは?」
「私もそろそろ晩ご飯の時間ですね」
それだともしかしたらもう会う事がなくなるかもしれない。
MMOは一期一会。会ったその時を大事にして、そして今後の関係も作っておく。とくに事情があってレベルが下がっているとはいえ、おそらくは本来レベルは99の上限まで到達しているであろうプレイヤーと繋がりを持つのは悪くない。
「「あの」」
お互いの声が重なった。
「あ、鵺さんからどうぞ」
「い、いえ、アリーさんから……」
「あー、じゃあフレンド申請、いいかな」
「あ、はい!大丈夫です!私もその話がしたかったので」
「お、ありがとう」
何が彼女のお眼鏡にかなったのかは分からないが、俺も認められたらしい。見た目が可愛い、そしておそらくは中身も女性であろうプレイヤーにフレンド申請を送るのはなんだかアレなプレイヤーという気もするが、そういう邪な感情はないので許してほしい。
そのアバターの向こうには人が居るのだ。ゲームにそんなものを持ち込むのは、悪いとは言わないが俺はしない主義だ。
お互いのフレンドリストに名前が載ったことを確認し、俺は教会から離れることにする。街中ならどこでもログアウトができるようなので、再ログインした時になるべく人に見つからない所に行きたい。
手を振る鵺さんが見えたので、手を振り返して教会から離れ裏路地に向かう。
教会からほど近い路地ではあるが、トゥーリという港湾都市は教会のある中心ほど上下にも入り組んでおり、立体交差も三層、四層にわたっている場所もある。複雑な迷路になっているのですぐにここまで捜索の手が伸びる事はないだろう。
どこまで人が居ないのかわからないが、とりあえずこの辺りは見かけない。意識して入らなければ用事もないだろうここでログアウトすることにする。
暗転した視界が戻った白いメニュー画面ではヤマダDEEPからのメッセージが来ており、それが可視化された手紙となってテーブルの上に置かれている。
「いや、凝ってんな『Newvision』……」
感心しながらその手紙を手に取り内容を確認する。
ふんふん、ほぅ……。これは……。
飯と風呂の後に合流することを返信し、俺は『Newvision』からもログアウトした。
飯を食い、湯船でふやけながら色々調べた内容の一つに、このゲームのシナリオライター兼プロデューサー兼etc…とにかくいろんな役職のついた男、
「物語が終わる?それは努力が足りないからだよ。君がその物語が終わらないように続かせてあげればいい。続きの物語を作ればいい。たとえ本の最後のページが来ようと君の頭の中にはまだ書き込めるページがあるだろう?僕はそう思うけどね」
あまりにも突飛というかふざけた話だが、こうして星人の話なりなんなりに触れた今は、それこそ
他の発言も見るに、どうにも変人の臭いがプンプンしている。こいつはそれこそ誰かの手によって終わらせられることさえ物語の一幕として楽しみ、そして楽しめと俺たちに言って来るだろう。
「狂ってやがるな……」
膨大な自由度と選択肢、その中でどんな物語を俺たちが紡ぐのか。それを楽しみにニヤニヤと見ている男の姿を幻視して少しイラッときたが、それはそれ。ゲームが楽しいことに変わりはなく、楽しむことは俺の中で決まっている。
ゲームなんてものはそれこそ誰かの作り物の世界を借りて遊んでいるのだ。自由度を嫌う者も居るが、俺はそうではない。こんな場所を提供してくれたことに感謝をしなければ。
それ以降も色々なことを調べているうちにヤマダと約束した時間が近づいてきた。
やってやろうじゃないかと改めて決意して俺はネバエンへとログインする。
「よし、誰も居ないな……」
とりあえず周囲を見回して安堵する。
名前被りもあるだろうし、そこまで目立った格好をしているわけでもないのでいきなり特定されることはないだろうが、あそこまで大々的に晒されたので用心するに越した事はない。
ギルドの掲示板では話題になっているだろうし、実際に外部サイトでは既に俺や鵺さんと女神様が並ぶスクリーンショットが貼られていた。手の早いことで。
「とりあえず待つか」
既にこの場所はヤマダには送信済みだ。
迷路になっている上、頼みごともしたために時間はかかるだろうが、正確に場所は伝えているはずだ。
そうこうしているうちにカツカツとヒールの足音が聞こえてくる。俺はひとまず物陰に身を隠した。
ヒールを装備しているという事は女キャラクターの可能性が高いが、ヤマダとは限らない。それにNPCの可能性もある。
そっと様子を窺っていると、ついに姿を見せたのはローブを身に纏ったプレイヤーだ。名前はヤマダDEEP。
「……つけられてないだろうな?」
物陰に隠れたまま、ヤマダにはギリギリ聞こえるような声を出す。ヤマダがそれに気づき、表情を変えずに立ち止まる。
「フッ、この私を誰だと思っているの?霞のヤマダよ?ぬかりないわ」
「普通に男声でそれやられるとなんかキツい」
「失礼な……乗ってやったんだぞ感謝しろよ」
俺は物陰から出てお互い笑いながら顔を見合わせる。ここまで濃密な時間を過ごしていたがために、かなり久しぶりにこいつの姿を見たような気がする。
「なんか、めっちゃ久しぶりだな。昨日教室で顔合わせたってのに」
「こっちはたった一日ぶりだわ。人が補修でヒーヒー言ってる間に面白いイベントに巻き込まれてたみたいじゃないか」
「しょうがないだろ俺はこの街に用があったんだから。どっちにしてもお前とは別ルードだったろ」
「それでフラグ踏み抜いてたら世話ねえよ」
「うるせーやい。こちとらそのせいでレベル上限な上に経験値無駄にしてんだぞ」
「そりゃご愁傷さま」
ケラケラと笑いながらヤマダが俺の肩をたたいた。でも、とヤマダが付け足す。
「悲しむのはまだ早いな。その経験値無駄にはならんぞ。レベル上限解放したら余剰だった経験値がそのまま入る」
「なに?」
それは初耳だ。
どうやら調べた範囲から漏れていたらしい。俺のリサーチ力はゴミだったようだ。こんな穴だらけの調べた方ではいずれどこかでヤバいミスを犯しかねないな。気をつけよう。
「まあ、それはともかくほらよ」
「お、サンキュー助かる」
メニューを操作していたヤマダからトレード申請が届き、受理してトレードアイテムとして
受け取ったのはトゥーリの港湾警備員の装備だ。今の牛猪革装備は顔が丸々見えているうえにお世辞にも性能が良いとは言えない。
港湾警備員装備も性能自体はそれほど変わらない。革のベストに、身体や腕など要所を何かの鱗で作られた軽いプロテクターで覆われているのみだ。だが、性能で求めたわけではない。頭装備が顔の下半分を覆うスカーフと帽子であり、これで顔を隠すことができるのだ。
晒された時の姿は牛猪革装備だったので、これに着替えれば多少は誤魔化せるだろう。自分で買いに行くわけにはいかなかったので、ここにくる前にヤマダに買ってきてもらったのだ。
「なんか釣り人みたいだな。剣が絶妙にアンバランス」
「言うな。俺も港で見た時は釣り人も剣持つんだなとか思ってたんだから」
見た目への指摘は受け付けない。装備なんてまた変えればいいのだ。
「まあいいや、とりあえず付き合ってくれるんだろ?」
ヤマダが確認するように俺に問いかける。俺は頷いた。
「おう、とりあえずピャーチに向かうんだよな」
「ああ、詳しい話は行きがけに話すわ」
「よし、なら行くか」
とりあえずは路地裏から脱出する所からだな。
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