勇者会議

Fa1(ふぁいち)

勇者会議

 世界を闇で埋め尽くそうと破壊の限りを尽くしてきた最悪の存在、魔王。その魔王を討伐すべく、各国から三人の実力者が集まった。

-火の勇者・・・火を自在に操ることができる

-水の勇者・・・水を自在に操ることができる

-風の勇者・・・風を自在に操ることができる


 魔王決戦の日。三人の勇者は魔王城の最深部、”魔王の間”の前に集っていた。

「いよいよ魔王戦だな。まぁ、俺の火の力があれば、あっという間に倒せるだろうがな。」

「魔王は強敵です。三人の協力が不可欠ですよ。あなたの力だけで倒せるなんて傲慢な考え方です。この戦いでは、私の水の力こそが鍵になるでしょう。」

「うるさい奴らだな。君たちもろとも僕の風の力で一気に全てを吹き飛ばしてしまった方が早く片付きそうだ。」

三人は今日会ったばかりだ。それぞれがそれぞれの方法で魔王軍と戦ってきたのだ。共に苦難を乗り越えたわけでも、友情の盃を交わしたわけでもない。ではなぜそんな三人が集まったのであろうか。それは、それだけ魔王が強敵ということである。かつての英雄達は皆個人で魔王に挑戦し、例外なく敗れている。故に彼らは集まった。そして、この世界では強力な敵を倒せばそれ相応の経験値が手に入る。経験値が手に入れば、より強力な能力を使うことができるようになる。勇者を生業にしている彼らにとって、その膨大な経験値は喉から手が出るほど欲しいものなのだ。

「じゃあ、扉を開けるぞ?」

火の勇者は二人の返答を待たずに、重い扉を力一杯押し開く。

「「「さぁ、魔王!俺と勝負だ!」」」

三人の勇者は一斉に叫ぶ。


 しかしそこに魔王の姿はなく、ただ薄っすらと霧が立ち込めていた。中央に位置している魔王の椅子の前には魔王が身につけていた鎧と大剣だけが落ちていた。そして、落ちている鎧と大剣の下には魔王の”死印”が残っていた。魔族は命を失うと、その身体は消滅し、魔法陣のようなその印のみを残すのだ。

 勇者達はお互いに向き合い言った。


「「「誰が魔王を殺したんだ」」」


 勇者達による現場検証が始まった。まずはこの部屋の中央に位置している椅子に注目した。身長およそ3mといわれている魔王が愛用しているだけに椅子自体も彼らの身長よりも高かった。そして、その椅子は真っ黒に焦げており崩れかけている。それに気づいた水の勇者が火の勇者を問い詰める。

「椅子が焦げているということは、火の勇者が抜け駆けをして魔王を殺害したとしか考えられませんね。仲間達を騙してまで魔王の経験値が欲しいなんて、なんて強欲な人だ。あなたは”悪名高い勇者”として一生名を残せるでしょうね。おめでとうございます。」

「ま、待て、俺ではない。その証拠に俺には経験値が入っていない。ほら、これを見ろ。」

得た経験値は右の鎖骨付近に数字として表記される。魔王の経験値はおよそ30000と言われているが、彼の鎖骨付近には5600という表記しかなかった。この数字は特殊な魔力によって刻まれるため、いかなる方法を以ってしても偽ることはできない。その数字を確認した勇者は下唇を噛み、悔しそうに疑ったことを謝罪する。

 次に風の勇者が、この部屋に立ち込めている霧に注目する。

「この部屋の霧、あきらかに不自然だ。魔王城の部屋は全て見て回ったが、どこにも霧なんてなかった。水の勇者が水の力を使い、その残りが霧となって立ち込めていると考えられないか?」

水の勇者はすぐに反論する。

「そんな!私の水の力は霧なんて残しません。それに私にだって経験値が入っていません。」

水の勇者の鎖骨付近には5000という表記があった。そして、その流れで風の勇者も自分の鎖骨付近を見せる。彼の表記は4800。三人の中の誰にも魔王討伐の経験値は加算されていなかった。しかし、魔王は討伐され死印がしっかりと残されている。


 一体誰が魔王を殺害したのであろうか。


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