第334話 ラン
「……こ、ここは……?」
「オレが創り出した特殊空間だよ」
正確に言うならローブの中に創り出したアイテムボックスの中だな。
もちろん、一般的な物を入れておく空間ではなく、なにか危険なものを入れるために創っておいたところだ。
「ここならば外からの干渉は受けないし、神や邪神の力で見られることもない」
神の鑑定が効かないなら、邪神の鑑定だって効かないはずだ。仮にできたらそれは邪神側の力が強いと言うこと。この戦いは不平等なものだと宣言してるものだ。
……鍛えれば鑑定できるってんなら、とっくにできるヤツが現れてるはずだ……。
「オレって、あなた男なの?」
「前世が男だったが、女としてこの世に生み出されたんだよ。あんたは、どっちだ? 元男の今女?」
「元も女で今も女よ」
「そういうパターンもあるんだ」
能力を受け継がせないために男女逆転させてるわけじゃないのか? それとも前回はしなかっただけか?
「おそらく、能力の危険さだと思うわ。わたしたちの代でも性別逆転させた事例がいくつかあったから」
それはつまり、使徒同士出会う事例はよくあったってことか。まあ、一人の能力でどうこうできないのはすぐわかる。徒党を組むのは自然の流れだろうよ。
「前回の戦いは何年前?」
「大小様々な戦いはあったから何年前とは言えないけど、わたしが捕まって呪いを受けたのは五十年以上前よ」
「五十年以上、邪神の使徒といたと?」
「この呪いがある限り、わたしに自由はないわ……」
「別に責めてるわけじゃない。オレからしたら邪神の使徒の内部事情と前回の事情を知ってるのだからよく生き残ってくれたと感謝したいくらいさ。もっとも、サリーがこちら側にくるなら、だけど」
「……わたしには、この呪いがあるのよ……」
五十年以上、その呪いに苦しめられたら希望も持てんわな。
「オレが神からもらった能力は、手のひらの創造魔法。魔力次第でどんなことも可能にする。仮にその呪いが神の力が通じないと言うなら新しい体を創り出し、サリーの魂を移せばいい。まあ、神から授かった能力は体に宿るものだから能力は消えてしまうがな」
さすがに神の能力を弄られても能力を生み出すとなればとんでもない魔力を消費するだろう。だが、こちらには野望がある。ハピネスを生み出した実績がある。戦争が終わって数ヶ月だが、必要な魔力はプールしてある。
「新しい自分に生まれ変わるならオレの手を握りな。もういいってんなら殺してあげる。また邪神の使徒の奴隷となりたいならご勝手に、だ」
一人の人間として自分の未来を決めさせてやる。
「わたしはまた、戦わなくちゃならないの?」
「ううん。戦わなくていいよ。後ろを守ってくれればね」
安心させるよう天使の笑みを見せてあげた。ニコニコリ~ン。
「止めておきなさい。前線で戦うほうがマシだと思うくらい仕事を押しつけられるわよ! 一人、死ぬよりマシな目に合ってるんだから」
「ふふ。嫌だな~。オレは約束を守ってるだけじゃない」
ルジュを前線には出してないし、守りたい人を守り、生活の保証を与えている。オレはなに一つウソはついてない。
「オレは人との約束は生きている限り遵守する」
死んだら守れないのだから生きている間限定だ。
「……わたしはもう戦いたくないわ……」
「前線で戦わないようにしてあげることはできるけど、自分の居場所は自分で築いてもらうよ。こちらも無駄に養う余力はないからな。それでいいのなら、サリーとの約束は守ろう」
ただ、庇護するだけの存在などいらない。オレが欲しいのは後方支援をしてくれる存在だ。それなら約束を守る価値はある。
意を決したサリーが差し出したままの右手をつかんだ。
「約束は結ばれた」
違う空間から以前、オレをコピーした魂のないオレを呼びよせ、サリーの魂を移した。
凄まじいまでの魔力が消えていったが、無事、十歳の体にサリーの魂を移せた。
「サリーの名は捨てて、これからはランと名乗るといい」
使徒サリーはここで死んで、ランとして新しい人生を始めるのだ。
「……ラン。新しいわたし……」
「そう。あなたはもうランと言う存在。さあ、新しい人生を始めようか」
オレのために、な。ククッ。
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