第332話 果報は寝て待て

 あ~。このまま南国スローライフで一生を終えた~い。


「自分でも無理だと思うことは言わないほうがいいわよ」


 わかってるよ! 願望くらい言わせてよ! 現実逃避してんだからよ! ったく。バカンスしてんだから水を差すようなこと言うなや。


 綺麗な海にフロートマットを浮かべ、潮風に吹かれていると、ミカンが視界に入ってきた。


「連絡を遮断して自分だけバカンス?」


「人を囮にして先に進んだのそっちだろう」


「それをやったのはナナリでわたしじゃないわ」


「止めもしなかったんだから同罪だろう」


 お前の命令優先権、オレだよ? なんでねーちゃんの命令聞いてんだよ? 人工知能の反乱か? 人類解放の戦線か?


「リンからの命令が途絶えたらナナリに委譲するよう設定したの誰よ?」


 ハ~イ、オレでした~。すみませしぇ~ん。


「それで、どうしたのよ?」


「ナナリとミューリーが捕まったわ」


 はぁ? 捕まった? なんでよ?


「おそらく使徒だと思う。わたしの鑑定を受付けなかったわ」


 使徒? まだいたのか? もう逃げたと思ってたのに。


「……神の使徒よ。いえ、正確には使徒だった人物ね。新たな使徒により剥奪されたのでしょう」


「前の使徒、負けたんじゃなかったのか?」


「負けはしたけど全滅したわけじゃないわ。何人かは生き残った者はいるわ」


 そう言う重要なことは先に言っとけや! 邪神の使徒だけでも苦労してんのに、前の使徒まで相手するとかふざけんな!


「剥奪されても能力は残るのか?」


「主のご加護がなくなった分、弱くはなると思うけど、能力自体はなくならないわ。その体に与えられた能力だからね」


 やはりオレらに与えられた能力は体につけられたものか。オレの予想した通りだったよ。


「前の戦いっていつ?」


「約百年前ね」


 一勝負百年ってか? 神らしい気の遠くなる戦いだ。


「百年も生きられるものなのか?」


「やりようによっては何百年も生きてる者はいるわね。リンだって同じでしょう」


 つまり、厄介なヤツが生き残ったってわけか。まったく、止めてくれよ、だぜ……。


「ミカン。ねーちゃんとミューリーはどうやって捕まった?」


「映像を送るわ」


 ミカンと思考が繋がり、ねーちゃんたちが捕まったときの映像が再生された。


 ………………。


 …………。


 ……。


 なるほど。一つの能力を極めたタイプか。


「どんな能力かわかる?」


「予想はつくが、対峙してみないとわからんな」


 ルジュだって予想はできても完全に見抜いたわけじゃない。いくつもの予想を立ててイビスの力を借りて屈服させたようなもの。今だってルジュの能力を完全に把握してるわけじゃないし。


「ハァ~。また使徒と対峙しなくちゃならんのか。嫌だ嫌だ」


 とは言え、ねーちゃんとミューリーが捕まって放っておくわけにはいかない。あんなんでもオレの家族だ。見捨てるような外道にはなりたくない。


「もう手遅れでしょう」


 オレの心は天使のよう……うん。守護対象を殴る天使だもんな。外道扱いされても仕方がないか。まあ、外道にも五分の魂がある。家族を見捨てるなんてしないんだよ。


「ねーちゃんたちは生きてるな」


 護衛の万能偵察ポッドに意識を飛ばすと、牢屋みたいなところに閉じ込められていた。


「万能偵察ポッドを阻害することはできないか」


 ミカンが戻ってきたことからそうじゃないかと思ったが、無機物や思考に関与する能力じゃなく、人か生き物に関与できる能力と見ていいだろう。


「オレの存在はバレてる感じ?」


「ナナリがしゃべっちゃったわ」


 自白もさせられる能力か。それなら戦闘にも転用できるようにしてるだろうな。さすが百年も戦ってきた先輩。見習いたいものだ。


 フロートマットを陸地に移動させ、ローナに食事の用意をお願いした。焼き魚でよろしくね。


「助けにいかないの?」


「なんの用意もせず飛び込めって? それはバカのすることだ」


 オレのことを知ったのなら相手も備えているはずだ。もしかすると邪神の使徒とも戦った経験があるかもしれない。全力で挑まないとやられるのはこちらだ。勝つ準備をしてからじゃないと助けにいけんわ。


「まあ、オレがいくまでねーちゃんたちに危害を加えたりしないさ。もし殺したらオレに遠慮する必要はなくなるんだからな」


 隕石落としてハイ、終了だ。そんなことしないためにもねーちゃんたちを使う手段を使うに決まってる。


「果報は寝て待てさ」


「なるほど。リンも長生きしそうね」


 オレは老衰で死ぬと決めてんだ、こんなところで死んでられんわ。

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