第265話 おそロシア

 捕虜に仕事をさせるのは是か非か。君はどう思う?


 オレは是であり、非道とは思わない。そもそも論としてオレは戦争を否定してない。戦争は人間の性であり弱肉強食の理だと思っているからだ。


 もちろん、損をする戦争は反対だし、無意味なジェノサイドは恥ずべき行為だ。いや、頭の悪いバカがするただの我が儘行為だと思っている。


 戦争を仕掛けるなら勝つ場合のみ。利になるときのみだ。追い込まれてからの戦争は愚行でしかない。さらに言うなら自国を守れない国はさっさと潰れたほうが人類社会のためだと思っているくらいだ。


 生き物がいる限り、戦争がなくなることはない。必ず起こる人の営みである。否定するヤツのほうが間違っているのだ。


 唾棄すべきは戦争反対と口にするだけの「自主規制」だ。お前らの掲げる平和などクソなんだよ。理想は大事だが、理想論で戦争は回避できないんだよ。


 と、話が脱線してしまったが、捕虜を食わすのも金がかかるのだから、自分の食いぶちは自分で稼げ、と言うことである。


「初めまして。捕虜諸君。リンはウェルヴィーア教の使徒。信仰を教えにきた」


 捕虜を集めてもらい自己紹介したら冷たい視線が返ってきました。


 うん、まあ、無理はない。聖王国に信じる神がいて、生まれたときから信じ込まされる。教えを変えろと言われてはいそうですかとはいかないだろうよ。


 だが、お前らの信仰など知ったこっちゃない。今のお前らに人権などないんだからな。


「今ここでウェルヴィーア教に改める者は神の祝福を与え、人権を認めよう。だが、改めぬ者は人としては扱わない。聖王国がザイフルグ王国の民を奴隷として扱ったのと同じことをする」


 お前らに選ばせてやるだけウェルヴィーア教は慈悲深いと思うがよい。


「……改める者はいないか?」


 一分待っても声をだす者はなし。理解しているとは言え、信仰とは本当におそロシア。


「さらに恐ろしいのはリンだけどね」


 オレは信仰の自由を与えて、無理強いではなく選ばせてやった。敵国の兵士に、な。それで無慈悲と言われたら聖王国もおそロシアだわ。


「改める気はないと理解した」


 オレは君らの決断を尊重しよう。


「一月前、ザイフルグ王国は聖王国に攻め込んだ。王都を襲撃し、ザイフルグ王王国の民を解放し、今も戦っている、このまま戦いが続けばどちらも被害が大きくなり、休戦、捕虜交換も行われるだろう。それまで生き残れるようがんばって」


 捕虜の足輪に洗脳──ではなく労働したくなる魔法を放つ。 


「ウェルヴィーア教はお前たちを人だとは認めない。だが、奴隷として扱うことはしない。労働捕虜。それがお前たちの立場だ。ザイフルグ王国のために働け」


 十二時間労働で朝昼晩とヘルシーな食事を与えてやる。


「労働捕虜たちよ。もし、ウェルヴィーア教に改教したいなら声を上げよ。ウェルヴィーア教はいつでも迎える用意はできている」


 ただし、故郷に帰れなくなるかもしれないけど、それはウェルヴィーア教を選んだ結果。素直に受け入れてくださいませ。


 労働捕虜を快適に動かせるために番号を与え、管理しやすいようにパソコンに登録。万能偵察ポッドと連結──するだけで六日もかかってしまったが、効率よく働かせるようにできた。


 だが、それで終わりではない。労働捕虜を管理する者を教育しなくちゃならない。どちらかと言えばザイフルグ王国の者に教え込むほうが一苦労だろうよ。


 ガイオーグも混ぜて人を選び出して教育をする──だけで一月は費やした。


「面倒なものだな」


 そんなこと言ってるから聖王国に攻められるんだよ。


「国を富ませたければ教育を施せ。戦争にならない知恵と知識を身につけろ。戦争になるのならなる前に力を蓄えておけ。獣扱いされたくないのなら」


 敵を倒すより味方を育てるほうが大変なんだから胃が痛いよ。


「リン様はブレないな」


「逃げても幸せにはならない。勝ち取れ。さすれば幸福を与えよう」


 逃げた先に安らぎはあっても幸福はない。幸福は勝ち取って得るしかないんだよ。


「フフ。ウェルヴィーア教は厳しいな。だが、信じるに値する」


「残酷な世界で信じれば救われるなんて宗教は信ずるに値しない。幸せになりたいのなら神に祈る前に自ら動け。怠惰な者に神は救いの手は差し伸べない」


 がんばってる者によけいな手出しもするがな!


「ザイフルグ王国再建のために労働捕虜を効率よく働かせる」


「了解だ」


 戦闘に不向きな者をさらに集めて労働管理局を組織し、教育してたらあっと言う間に二ヶ月が過ぎ、季節は春になっていた。


 イビスに二ヶ月と言ったのに、三ヶ月も任せてしまった。


 まあ、あちらもあちらでザイフルグ王国の民を救いながら食料集めに苦労しているようだがな。


「ガイオーグ。聖王国軍は?」


 ルジュに任せっきりだったから報告を聞いてなかったんだよ。


「とっくに壊滅させてるよ」


 そうか。ルジュもこの世界に馴染んできてるようでなによりだ。


「山脈越えの準備は?」


「できている」


 オレがやらなくてもできている。苦労したことが実ってるって、なんか涙が溢れてくるぜ……。


「なら、夏になる前に聖王国に橋頭堡を築く」


 本格的に聖王国へ攻め込むぞ。

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