第264話 勝った者が正義

「あとは任せます。弱き者を支え、仲間たちに寄り添い、解放の日まで堪えてください」


 と、巫女たちに告げてフラワーキングに跨がってザイフルグ王国へと帰った。


 ちなみにねーちゃんたちにも残ってもらいました。聖王国にいるザイフルグ王国の民を救ってもらうようお願いしたのだ。ねーちゃん、獣人には男嫌いを発動しないのがわかったからだ。


 フラワーキングで聖王国軍の上空を旋回しながら眺める。


 この一月で二度の衝突があり、聖王国軍は半分くらいまで減っていた。


 もう壊滅の域だと思うのだが、聖王国軍が撤退する行動は見て取れない。玉砕覚悟かと思うくらいだ。


「……退くに退けないんだろうな……」


 どんなヤツが指揮してるかわからんが、退かないところを見ると、失敗は死か転落のどちらかなんだろうよ。


 捕虜の数も三千人近くになり、手に負えなくなっている。反乱も起きて数百人は見せしめのために殺しているそうだ。


「得にもならない戦争は本当に嫌になるぜ」


「散々奪っておいてよく言うわね」


 苦労に見合ってないんだから得にはなってねーんだよ。


「補給も限界だな」


 同情はしないが、聖王国軍はよく堪えていると思う。


 ザイフルグ王国と聖王国の間にある山脈のせいで補給もままならないし、自分たちが荒らしたせいで現地調達もできない。しかも今は冬。雪は積もってないものの食べれる植物も自生してない。暴発するのも時間の問題だな。


 もう見るのもないのでフラワーキングを城へと向けさせ。


 帰ることは伝えてあるので城の庭にはルジュやガイオーグたちがいて、帰還したオレを迎えてくれた。


 ちなみに今のオレは魔法少女スズ。使徒リンは城にいることになっているのです。


「お帰りなさい。派手に暴れ回ったみたいね」


 ルジュには毎日報告しているが、報告することが多くて軽口を叩ける時間はなかったのだ。


「利益はそんなになかったけどね」


「国家予算に匹敵する金銀財宝を奪っておいて謙虚ね」


「あんなの一年で使い切る金額だよ。とても誇れるものじゃないさ」


 自由貿易都市群リビランから食料を買うだけで消えてしまう。来年の予算をどうしようかって状況だわ。


 作戦室へと移動し、戦況を詳しく説明してもらう。


「聖王国軍、かなり下がってたんだ」


 ワイバーンだとひとっ飛びだから距離感が狂ってたわ。


「こちらには銃があるからな。平地では防げないと悟ったのだろう」


 森林地帯に陣を張り、こちらを誘い込む作戦を取っている感じか。まあ、人より身体能力が長けた獣人相手に成功はしてないようだがな。


「いっきに攻めたりしないのか?」


「前にも言ったでしょ。この戦いはザイフルグ王国の誇りを取り戻す戦いだって。一度崩れた誇りは一回や二回で復活はしない。一つ一つ勝利を重ねて誇りを取り戻していくほうがいいんだよ」


 これは驕らせないためでもある。与えられた勝利ではなく、自らつかみ取った勝利が真の誇りと自信になるんだからな。


「戦争は勝つことが大事。だけど、意味のある勝利じゃないと意味はない。ザイフルグ王国は列強国となるんだからね」


 もちろん、ウェルヴィーア教がザイフルグ王国の国教となり、オレを守る盾になってもらうんだがな!


「聖王国軍の兵士はなるべく生け捕ること。ザイフルグ王国を復興させる労働力にするんだから」


 口を酸っぱく言わないと守らないからな、獣人って生き物はよ。


「王都の様子はどう?」


「落ち着いているわ。自由貿易都市群リビランから隊商がきたからね」


 もうきたのか。春になってからと思ってたんだがな。


「じーちゃんががんばってくれたか」


 伝道巡回中なのによくやってくれてる。さすが元上議員だ。


「ガイオーグ。捕虜を使って自由貿易都市群リビランまでの道を整備して。隊商が命綱なんだから」


 今のザイフルグ王国に特筆すべきものはないが、自由貿易都市群リビランとの道が繋がれば商売が盛り上がるはずだ。その途中にある聖都グランディールも潤うしな。


「なにか問題は出てる?」


「捕虜を使い切れてないことかしらね。ザイフルグ王国の者は使い慣れてないからね」


 まあ、使い慣れた王国だったら利用してない。奴隷制度がある国は扱いずらいからな。


「捕虜はボクがなんとかする。ルジュはこのまま指揮をお願い。ガイオーグは聖王国軍の生け捕り。もし、逃げ出したら攻撃を仕掛けていいよ。夏には山を越えて聖王国に橋頭堡を築くからさ」


 春は種蒔きの季節であり、羊を放牧するために南の平原を回復させなくちゃならない。と言うか、聖王国から羊を運んでくるの忘れてたわ。


「ハァ~。わかったわ」


「了解した」


 作戦室を出ると、ジェスと仲間たちがいた。


「ご苦労様」


「そう苦労はしてない。邪神の揺り籠は生まれなかったしな」


 聖王国軍が追い詰められたら邪神の揺り籠を生み出すかと思ったが、どうやら予想が外れたようだ。


「何人か山脈を越させて羊を集めてくれる? 春の終わりにはボクらも越えるからさ」


 オレがいくよりジェスたちのほうが適任だろう。


「平和的にか?」


「敵地なんだから暴力的にでいいよ」


 戦争中に強奪しても戦いが終われば徴収になる。そう、戦争は勝った者が正義なんだからな。


「了解」


 ニヤリと笑うジェスに任せ、捕虜のところへと向かった。

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