第252話 シフォン菓子

 宝物庫から飛び出し、二丁のスコーピオンを乱射しながら外へと駆け出す。


「先いくよ!」


 レベル的には1だけ上だが、筋力は何倍も離れているのか、ミューリーを背負ったねーちゃんが前へと出ておニューな剣で兵士たちを真っ二つにしている。


 スコーピオンの出番がなくなったので手榴弾をばら蒔きながらねーちゃんのあとを追った。


 外に出ると、どこから援軍が来たようで、たくさんの兵士で埋まっていた。が、ねーちゃんが通ったところだけ道ができていた。


「まるで竜巻だな」 


 ちょっと見ない間にまた腕を上げたこと。ってか、殺せばレベルアップする体にしたっけな。なら、殺せば殺すほど強くなるか。


「それじゃ、またね~」


 と、TNT爆破薬的なものを起爆させ、目からビームで抉られた溝を飛び越えた──瞬間に爆発が起こる。


 またスコーピオンを両袖から出して乱射祭り。城門を潜り、街と言うか野次馬の中へと飛び込んだ。


 パニックになる野次馬どのに紛れて路地裏へ飛び込み、シティーガールにマジカルチェンジ。そのまま繁華街と思われるほうへと素知らぬ顔で歩き出した。


 城から一キロも離れたら戦いの喧騒から街の喧騒へと変わり、騒ぎなど知らない人たちがいつもの生活を送っていた。


「さて。買い物でもしましょうかね」


 シティーガールはこれからショッピングと洒落込みましょうかね~。


「……図太い神経なんだから……」


 指人形は黙ってろや。あと、目立つから腕につかまってろ。ダッコちゃん人形のようにな。いや、ダッコちゃん人形って言葉は知ってるけど、どんなものは知らんのだけどな!


「お、いい感じの布屋さん発見。金貨を解かしておこうっと」


 金貨を使える場所はかなり限られてくる。銀貨とか銅貨に両替しておくとしようかね。


「こんにちは~」


 笑顔満点でお邪魔しま~す。


「いらっしゃいませ」


 店主な感じのふくよかななご婦人に迎え入れられた。


「服を作りたいので布を見せてくださいな」


 聖都グランディールに人が増えすぎて服の需要も増えてしまい、何日も着ているとハピネスの報告にあった。ここで足りることはないが、足しにはなるはず。布が買えて両替ができる。一石二鳥だ。


 金貨一枚と半分くらいの布を買い、おつりを銀貨と銅貨にしてもらった。


「量が量ですし、運ぶのが大変ですし、お家に送りましょうか?」


「あ、大丈夫です。わたし、力持ちですから」


 大量買いしたオレとこれからご贔屓にと思ったのか、店主さんの言葉をかけてきたが、バッサリ断って店から出た。


 すぐにアイテムボックスに放り込み、隣の裁縫道具屋に突入した。


 ここでも銀貨半分くらい買い、銅貨でおつりをもらった。


 さらにさらにと店を回っておつりをゲット。結構なりになりました~!


「疲れたし、ちょっとお茶にするか」


 シティーガールにお似合いなシャレオツなカフェテリアはありませんかね?


「バブル時代か」


 天使がなんでバブル時代を知ってんだよ! いやオレ、バブル世代ではないけど!


 ……前世でよくしてもらった人がバブル世代の人で、聞いてるうちに自分も使うようになっただけですから……。


「あそこでいいか」


 シャレオツなカフェテリアはなかったが、小綺麗な料理屋はあったので、そこでお茶することにした。ヘイ、親父! 茶くれや!


「カフェでいいか?」


 カフェあんのかーい!


「は、はい。あと、甘いものがあればいただけますか?」


「なら、妻が焼いたシフォン菓子を出すよ」


 シフォンって、シフォンケーキのことか? と疑問に思ってたらシフォンケーキだった。うぉいっ! 


 邪神の使徒か神の使徒かは知らんが、美味しいものを広めてくれてありがとう。先達者に感謝です。


 なかなか美味しいシフォンを食べながらカフェを飲む。なんて素敵“な”ジャパネクス。いや、ジャパネクスって感じじゃないけど。


「すみませーん! 持ち帰り用でシフォン菓子、お願いしま~す!」


 ねーちゃんたちにお土産に持ってってやろう。きっと喜ぶぞ。


「お菓子が好きなら隣の店で買ってくれ。妻が菓子屋をやってるから」


 なぬ? 菓子屋だと? 


 金を払って隣にいくと、シフォンケーキやクッキーなどが売っていた。


「すみませ~ん! シフォン菓子くださいな~!」


「ありがとうございます」


 細身のご婦人と娘らしき女の子とやっているようで品数は少ないが、クッキーを試食させてもらったらメチャ美味しかった。


 ヤベーな、この母娘。聖都グランディールに拉致したくなったわ。


「ここで商売をして長いんですか?」


「ええ。菓子屋は数年前からですけどね。お客様は外から?」


「あ、わかります?」


 服は聖王国風にしたつもりなんだがな。


「ええ。髪の色がここら辺では見ませんからね」


 あ、ピンクの髪って珍しいんだ。そこまで気が回らなかったわ。


「はい。アイカワ帝国からお父様のお仕事で来ました」


 アイカワ帝国にピンクの髪をした者がいるかは知らんが、自由貿易都市群リビランから来たとは言えん。ここはアイカワ帝国と言ってたほうが無難だろう。


「まあ、そうなの。遠くからいらっしゃったのね」


 信じてくれてありがとう~。


「シフォン菓子、とっても美味しかったです。また買いに来ます」


 万能偵察ポッドに見張らせ、王都が混乱したときは聖都グランディールに引っ張っていこうっと。


 そう決意してねーちゃんたちのところへと向かった。

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