第211話 長い夜

 二人への奉仕が終わった。


「……疲れた……」


 体力オバケの二人に付き合うのがこんなに疲れるとは思わなかったよ。


 二日ほどゆっくりしたいが、神はオレに安息を与えてくれない。ジェスのほうがきな臭くなって来たのだ。


「聖王国か。こりゃ宗教戦争になるな」


 イビスもあちらの事情を見て事態の深刻さがわかるようだ。


「少佐。部隊はできてる?」


 ワンマンアーミーなイビスだけど、獣人の子を中心に特殊部隊を創らせていたのです。


「元の世界の兵士並みには働けるよ」


 ちなみに教育は万能偵察ポッドを通してやっていました。これが本当の通信教育ってね。ブッフ! オレ、おもしろいこと言った!


「ボスはなにを笑っているんだ?」


「下らないことによ。気にするのも時間の無駄よ」


 失敬な。聞いたら爆笑ものだぞ。まあ、リンのイメージを守るために口にしないけど。


「明日から出発準備をする」


「了解。ルジュもいくんだよな?」


「もちろん。レベルアップさせる前に変身できる数を増やす」


 レベルアップしたら変身もできなくなる。ルジュ(デミニオ)は裏方をやってもらわなくちゃならんのだからな。


「……ルジュが泣いてる未来が見えるよ……」


「リンは女の子を泣かしたりしない」


「うん。ルジュは男な。肉体は、だけど」


 心と体が一致しないってめんどいな~。まあ、オレの優しい魔法の前では泣くこともできないがな!


 教会の部屋で休んでいたら暴れん坊どもが寝巻き姿でやって来た。ま、まさか……?


「リンねー一緒に寝よう!」


「ねーね一緒に寝よう!」


 や、やはり、か。素直にライジングスターに戻ったから安心してたのに……。


 逃げようとしたが、ローブを脱いで久しぶりにパジャマになっていたのですぐに捕獲されてしまった。


 ……万能偵察ポッドを配置してたから油断してたよ……。


「ボス、本当に弱いな」


 これでもゴブリンならワンパンでミンチにできる肉体はしているが、そんな肉体で生活なんてできるわけもない。だから、パジャマを拘束具としているのだ。


 今のオレは年齢通りの力しか出せません。防御力はミサイルを食らっても傷つかないけどな。


「子どもじゃないんだから一人で寝る」


「うん。二人は子どもな。ついでに言うならボスも子どもに分類されるから」


 そこ! 突っ込みはいいんだよ! 助けろや!


「わたしは別のところで寝るよ」


 オレとは普通にベッドで寝るイビスだが、誰かがいると絶対にどこかへといってしまう。それがグラマーなオネーサンでもだ。


「リンねーと寝るの楽しみにしてたんだ!」


「ねーね一緒に寝るの楽しみ~!」


 寝るのがなにが楽しいのかわからん。別にアレやコレやをするわけじゃないのに。


「リンねーとパジャマパーティーするの!」


「パジャマパーティーパーティー」


 それを教えたのはルジュだな。まったく余計なことを。つーか、パジャマパーティーってなにすんだよ? 前世男のオレには想像もつかんわ。


 二人に両腕をロックされたままベッドへダイブされ、いいようにじゃれられる。


 防御力があるパジャマなので衝撃は緩和され、空中に放り投げられようと三半規管は守られるが、オレ、いいように扱われてんな。オレ、二人から慕われてんだよね?


 散々弄ばれ、顔を擦りつけて来る二人。大型犬にじゃれつかれてる気分である。


 もう好きにしろとされるがままにされる二時間。やっと二人が眠りへとついてくれた。


「愛されてるわね」


「こんな激しい愛などいらんわ」


 オレは放置してくれる愛を所望します。


「……抜けられん……」


 抱き枕化されて身動きができん。


「リリー。外してくれ。このままだと漏らしてしまう」


「漏らしても大丈夫なパンツ穿いてるじゃない」


 それは緊急時のためで、いつもはトイレでしてるの知ってるだろうが。


「その緊急時じゃない」


 こんな緊急時望んじゃいないんだよ。


 と言ってもまさに発射五秒前。カウントダウンは止まらない。


「……おねしょした気分だよ……」


「しゃべらなきゃ誰もわからないんだから黙っておきなさいよ。それとも大きなお友達へのサービス?」


「違うわ!」


 ありがとう。なんて言うヤツがいたらオレがぶっ殺してやるわ!


「クソ。散々な日だったぜ」


 もういい。今日は寝る。夢の中だけがオレのパラダイスだ。


「そうね。また明日から艱難辛苦が始まるんだからね」


 うっせーよ! お前が言うと洒落になんねーんだよ! そうだったとしても黙ってろや!


「リンねー好き~」


「ちょっ、ジュア! 耳を噛むな!」


「ねーね好き~」


「ミューツも止めろ!」


 痛くはないがヨダレまでは防げなかった。つーか、防水まで考えてなかったわ。


「……もういや……」


 その日の夜はとっても長かった……。

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