第168話 異世界デビュー
晴れてオレは魔法使いとなりましたとさ。めでたしめでたし──で終われない我が人生。オレたちの戦いは続くのでした。はぁ~。
まあ、落ち込んでいてもしかたがない。オレの未来はこれから。幸せになるために頑張りましょう、だ。
「ジェス。そっちが終わったら連絡して。リン──ではなく、ボクに連絡して。一緒に冒険者組合にいこう」
冒険者も登録しなくちゃならん。九歳の女の子が一人でいくにはハードすぎるぜ。
「わかりました。えーと、リン様でなければなんと呼べばいいんでしょうか?」
あ、言ってなかったね。メンゴメンゴ。
「ボクはスズ。魔法使いの女の子! 冒険者になって大魔法使いになるんだ!」
「わかりました。スズ様ですね。では、あとで──」
なんてあっさりと流された。ひどっ!
「……ジェス、君の真面目さが憎い……」
「非常識は一人で充分よ」
「イビスはアブノーマルだけど、常識人だろう?」
まあ、戦争の人が常識人か? と言われたらなんも返せないけどよ。
「……そうね。問うのも今さらね……」
なにかを悟ったようなリリーさん。なんなのよ、いったい?
「イビス。どこ?」
守護天使のことはどうでもいい。イビスに連絡しないと。
「ん? スラムを散歩してるけど?」
声だけの通信だが、なんか呻き声が入ってるんですけど、なにやってんのよ?
「ボク、伝道巡回から抜けて冒険者として各地を回るから。イビスはどうする?」
「すまん。ボスがなにを言っているかわからないのだが?」
「だから伝道巡回から抜けて冒険者として各地を回るって言ってるの! あ、ジェスも連れていくから」
「……リリー。詳しい説明をしてくれ……」
「リンと合流して本人から聞いて。わたしには手に負えないわ」
「……碌でもないことはわかった。合流するよ……」
そう言って通信が切れてしまった。面倒臭くなくて助かる。
「リンになにを言っても無駄だからよ」
さいですか。と言うか、リンじゃなくてスズな。って、リリーの姿も変えなくちゃな。なにがいい?
「なんでもいいわよ。よほどのものじゃなければね」
ん~。そう言われてもすぐには思いつかんな~。指人形、しっくりしてたからさ~。
「まあ、帽子の中に入っててよ」
魔法使いと言ったらつばの広い三角帽子でしょ──と、創り出して被った。
「せっかくだから寛ぎ空間にしてよ」
なにがせっかくなのかわからんが、ガジェット化には興味がある。
「いや、わたしには寛ぎ空間にしてもらえればいいんだけど」
大丈夫大丈夫。ちゃんと寛ぎ空間も創るから。わたしめにお任せあれ!
「不安でしかないのだけれど……」
オレが創るものは安心安全なものだぜっ!
「使用法を間違えたらダメなものがほとんどだけどね」
それは言っちゃいけないサンクチュアリ。注意事項を守れば安全且つ安心に使える、はず。
「……不安心不安全と言ってるようなものよね……」
そこまで言われたらその通りにするしかないじゃない。世界を七日間で滅ぼしそうなのを出しちゃう? 薙ぎ払っちゃう?
「ビーム系は止めて。燃えやすい素材でできてるんだから」
それもそうか。頭から何万度の熱が発射されるのもおっかねーわ。
フム。ここは頭の使いどころだな。
………………。
…………。
……。
ピキーン! と、グッドでナイスな名案が閃いた。
「碌でもないことがね」
なにをおっしゃるウサギさん。世界を七日間で滅ぼしそうなのより安全で安心なものやろ。リリーが使うんだから。
「……わたしにも戦えと言うのね……」
「戦えなんて言わないよ。ただ、守って欲しいだけさ」
守護天使らしい役目だろう? 魔法使いっぽくもあるしよ。
「皆、腰を抜かすほどびっくりするわね」
見た目は大事。敵の戦意を奪うのも戦いである。
まあ、さすがにここで御披露目はできないので旅に出てからご紹介いたしましょう。そんな場面があるかどうかわからないけどな。
市役所を出てまずは市場へと向かってみる。町は経験したが、都市は初めて。都市の空気に慣れてこの世界に馴染むとしよう。オレ、世間知らずだし。
「さあ、異世界デビューだぜ!」
おっと。今さらとか言っちゃいかんぜよ。これからスズとして生きていくのだから出だしくらいノリと勢いでいきまっしょー!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます