第166話 スズ

 改革案を話すと、沈黙が返って来た。


 まあ、無理もなかろう。伝道巡回からオレが外れて旅に出ようと言うんだからな。


「……し、しかし、リン様が抜けるとなると、伝道巡回の意味がないのでは……?」


 艱難辛苦を乗り越えて来ただけはあり、真っ先にじーちゃんが口を開いた。


「代役を立てる」


 所詮、オレは御輿。すべての段取りはじーちゃんがしてくれる。代役を立てれば伝道巡回は事足りる。


「代役と言ってもリン様の代わりなどできるものではないじゃろう」


「交渉のときはリンが代わる。事前準備をお願い」


「ハァ~。リン様が決めたのなら反対するだけ無駄じゃな」


 よき理解者がいるって幸せだよね。


「そりゃ一番被害にあってる人だしね。主も喜びになっているわ」


「……リリー様……」


 まるで女神にでも会ったかのように感激するじーちゃん。あんた、オレの味方じゃないのかよ!


「リンの代役はジュアに任せる」


 獣人は発育がよろしいらしく、二歳下ながらジュアとオレの背丈は同じ。スタイルは負けてるけど!


「将来、ジュアに伝道巡回を任せ、シスターを纏める地位に立たせる」


 今から教育してウェルヴィーア教を支える一人としたい。幹部育成は早目に行動しないとな。


「まあ、ウェルヴィーア教の弱点は組織力のなさじゃからのぉ」


「じーちゃんに任せたいけど、シスターはリンがやるしかない」


 ハピネスのほうでもシスター教育はしているけど、他に出す余裕はない。それどころかこちらに出せと言われそうである。


「そうじゃの。教義を作れと言われても困るだけじゃよ」


 ウェルヴィーア教の教義はそんなに難しくはしない。心地好い言葉で騙す宗教にはしたくないからな。


「心地好い言葉で騙してるリンが言っちゃダメなやつ」


 お黙り。オレは背中で語るタイプです。


「シスター教育をしてからリンは別行動に出る」


「護衛はどうするんじゃ?」


「ジェスに任せる。別行動にはジェスも連れていくから」


 あの女騎士に対抗できるのはねーちゃん、イビス、ジェスだけだ。オレから離すワケがなかろうが。


「ジェス。レンに引き継ぎお願い」


「はい。わかりました」


 ジェスには下を育てるように言ってあるし、基本、護衛隊は伝道巡回を守るためのもの。町中ではシスターズがオレの護衛だ。


「このことはこの部屋の者とジュア、ミューツだけに止める。他言無用で」


 しゃべったら破門やで。


「わかりました。リン様の御心のままに」


 代表してジェスが答え、全員が承諾の頷きをした。


「サリーナ。ジュアとミューツを呼んで来て。ジアルは教会の建設の続きをお願い」


「あいよ」


 ジアルは寡黙な男だが、腕は確かだし信用もできる。ハピネスのところに送るか迷ったくらいだ。


「レン。いくぞ」


「ああ」


 ジェスとレンもジアルのあとに続いて部屋を出ていった。


「では、わしも仕事をして来るよ」


「事務できる人がいたら雇って。信者名簿を作りたいし、資産管理とかもやらせたい」


「了解した。伝を当たろう」


 万事お任せ。じーちゃんの好きにしちゃって~。


「ターリー。リンの世話役から何人か選んでメイドにつけて仕事を覚えさせて。服は真似なくていいから」


 メイドにしたいワケじゃない。メイドの仕事を覚えさせたいのだ。


「わかりました。若い子を選びます」


 万事お任せ。ターリーの好きにしちゃって~。


 しばらくしてサリーナがジュアとミューツを連れて来た。


「座って」


 二人を席に座らせ、先ほどのことを話す。


「リンねー様、わたしがですか?」


 しゃべり方にまだ幼さが残るが、シスター教育(優しい魔法でな)してるお陰で背筋や態度はしっかりしている。


「そう。リンが邪神と戦うためにリンの代わりをしてもらう」


 まだ七歳の少女にさせるには惨いとは思うが、生きるとはそう言うこと。恨むならこんな世界にした神と邪神を恨みなさい。オレと一緒に、な。


「ミューツ。ジュアを支えて」


「はい! 任せてください、ねー様!」


 五歳の子にはまだ理解できないだろうが、任されたことが嬉しいのか、凄く喜んでいることが救いだな。


「ジュア。こちらに来て」


 オレの側へと呼び、ローブを脱いでジュアに羽織らせる。


「リンのローブをジュアにあげる」


「え? あ、で、でもこれ、リンねー様の大切なものでは……」


「だからジュアにあげる。リンの代わりをやるのだからリンの力も与える」


 もちろん、手のひらの創造魔法は与えられないが、これまで創った魔法や機能、アイテムボックス、万能偵察ポッド、等々は使えるようにしてある。


「それを羽織っていればリンといつでも会話ができる」


 ジュアの頭に手を置き、優しい魔法をかけてローブの使い方を教える。どや?


「……す、凄い。神の奇跡なの……?」


 いいえ。オレの苦労の結晶です。


「これよりジュアはシスターリンとなる。リンの代わりに伝道巡回をお願いね」


 ここで優しい笑顔をジュアに見せる。


 そう。ここぞと言うときのために無表情キャラを演じて来た。あなただけに見せる笑顔。好感度、爆上げ間違いなしである。


「はい! リンねー様!」


 うんうん。新たなシスターリンの伝説を築いてちょうだいな。


 あ、リリーをつけるの忘れたと、肩にいるリリーをつかもうとして空振り。


「わたしはリンの守護天使なの。離れるワケないでしょうが」


 マジか! いや、そりゃそうか。しょうがないとリリー型偵察ポッドを創り出してジュアの左肩に設置した。


「なにかあればリリーに意識を移すから」


「はい。リンねー様と思って大事にします!」


「……できることならジュアの守護天使になりたかったわ……」


 恨み節なら神に言ってください。オレに言われても困ります。


 新たなローブ、魔法教義会が使用している黒いローブを創り出し、身に纏い、ピンクの髪を青に変え、黒ぶちメガネをかけた。


 今からオレはスズ。冒険者になる!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る