第87話 魔法式マッサージ

 夏と感じた頃、やっと倦怠感が抜けてくれた。そして、弾込めも終わってくれました。イェーイ!


 単純作業とはなんとも疲れるもんだ。なんの拷問かと思うわ。


「それでも毎日やるボスはクレイジーさ。わたしは四日で幻覚が見えたよ」


「狂ってるんじゃなくて我慢強いの」


 そこんとこ間違えたらアカンよ。


「イビス。そのうちリハビリにいくから用意してて」


 と、リストをイビスに渡した。


 一カ月ちょっと体を動かしてなかった。災害竜退治まで体を万全にしておかんとな。


「……なぜ銃をアホほど出させるんだ……?」


 必要だからに決まってるからやろ。あと、銃を出すのサボってんのわかってんだからな。寝ても覚めても銃を出し続けろ。イビスの武器なんだからよ。


「……悪魔め……」


「あなたと同じ人間です」


 まったく、失礼なお嬢さんだ。オレは悪魔より優しいってーの。


「悪魔と比べてる時点で人として終わってるってことを自覚しなさい」


「……さあ、リハビリに散歩して来よう~っと」


 逃げること風の如しと、スタコラサッサとその場を去った。


 シルバーを連れて久しぶりに町へと出かける。気分転換も兼ねてショッピングと洒落込もうじゃないか。


 ネイリーたちに食料や生活必需品の買い物──って言っていいのかわからんが、娼館を通して必要なものは仕入れてる。


 なので間に合ってはいるとは思うが、市場は日々変化している。こまめにチェックしないとな。


 裏町まで来ると、見張り番としている少年(日替わりでやってるらしいよ)がオレを発見。報告のために娼館へと駆けていった。


「雇用が生まれて羨ましい」


 うちは人が増えてもできる仕事がない。


 戦奴として戦いに出されてたから戦いに役に立つが、それ以外はなにもできない。その家族や同胞も雑用や力仕事に出されていたようで畑仕事すらできないと来た。


 まあ、辛うじて獣人は体力オバケなので男には木を伐らせ、女らには枝払いをさせている。 


 ……急いでもしかたがないとはわかっているが、ないない尽くしでイヤになるぜ……。


「戦いに出たと聞いてたが、もうちょっと町に来なさいよ」


 考えながら歩いてたらマーレねーさんが目の前にいた。


「久しぶり」


 元気にしてた? オレは倦怠感が酷くて参っちゃったよ。


「ハァ~」


 と、なぜかため息をつかれた。なによ?


「……いいわ。こっちいらっしゃい」


 腕をつかまれ、娼館へと連行されました。


 で、豪華な部屋に通されると、ねーさん方が集まってました。なにか、不機嫌なご様子で……。


「な、なに?」


 チョー恐いんですけど。


「肌にいいクリームのことを覚えているかい?」


 代表してばーちゃんが口を開いた。クリーム? 肌にいい? なんだ……あ、あれか。すっかり忘れてました。


「もうないんだよ。売っておくれ」


 ないとは言えないこの状況。どーすっぺ?


「……マッサージ、する?」


 創れないこともないが、ねーさん方のお心を静めるにはクリームだけでは足りない感じがする。


 男を手玉にして生きているねーさんを敵にはしたくないし、娼館との繋がりはまだ続けたいしな、ここは媚を売っておこう。


「マッサージ? ってなんだい?」


「体を揉んで血行や肌を回復させる」


「ほぐしかい?」


 って言うのか、ここでは?


「たぶん違う。リンのは魔法だから」


 マッサージはマッサージでも魔法式だからな。


「やってみたらわかる」


 我こそはと言う者よ、名乗りを上げるがいい。


「それじゃわしで」


 と、ねーさん方の隙間からじーちゃん登場。


「あんたが出てどうすんだい! 引っ込んでな!」


 なんつーか、主なのに扱いが悪いよね。


「いい。男でやるのは初めてだから試したい」


 そんなじーちゃんを労ってやろう。元男としての情けじゃ、天国を見せてやろう。


 じーちゃんをソファーにうつ伏せに寝かせ、背中に跨がる。


「ゆったり体の力を抜いて」


 うなじ辺りに手を当ててぬるま湯程度の熱と微振動を与える。


「うほぉおぉぉっ! なんじゃこりゃ!?」


 腕や背中を這わせて筋肉をほぐし、血の巡りをよくさせ、体の力が抜けたところで魔力を循環させる。


 この世界の者には魔力があり、魔力溜まりや不順があるのだ。


 かーちゃんも昔は魔力溜まりをよく拗らせ、肩凝りや腰痛みたいな痛みを感じてたもんだ。


 じーちゃんの魔力で治癒を施し、血の巡り、細胞の活性化、不調なところをよくする。


 この魔法式マッサージは、小さな魔力で始め、途中から本人の魔力を使うので疲れたりはせず、魔力コントロールの練習になるから二度美味しいのだよね、これは。


「はい、完了」


 じーちゃんから下りる。


「……ジジイ。どうなんだい?」


 ゆっくり起き上がったじーちゃんにばーちゃんが戸惑いながら尋ねた。


「…………」


 茫然とするじーちゃん。かーちゃんに初めてやったときもこんな感じだったっけ。


「……なんだこれは……?」


「魔法式マッサージ。女と違うから体の中をよくした」


 かーちゃんを実験台にいろいろやったからな。その結果、風邪一つ引かない超健康体となりました。


「ジジイ、どうなんだい? 良いのか悪いのかどっちなんだい!」


「良いに決まっとるだろう! いや、それでも足りないくらいじゃ! 十どころか二十は若返った感じじゃわい! これなら三日三晩酒を飲めそうじゃ!」


 まあ、あっちのほうに走らないだけいっか。ジジイのアレなんて迷惑でしかないからな。なにかは勝手に想像してくださいませ。


「それ、ミレンにもやってるやつかい?」


 かーちゃんの友達のフィオねーさんの問いにコクンと頷いた。最近はやってないけどね。体売らなくてよくなったし。


「わたしをやっておくれ!」


「フィオ、ズルい! わたしが先よ!」


「いいえ、わたしよ!」


「静かにしないか! バカたれども! 順番はわたしが決めるよ。文句はなしだ」


 ばーちゃんの一喝で場は静かになる。おっかねー。


「全員にできるのかい?」


「一日四人か五人。悪いと長くなる」


 媚を売るのはやぶさかではないが、二十人以上はさすがにキツい。そのくらいで勘弁してくんなまし。


「わかった」


 と、ばーちゃんの仕切りで魔法式マッサージをすることになった。もちろん、お代はいただきますぜ。フフ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る