第85話 カイヘンベルク編終了

「……戦いはいつも虚しさしか残らない……」


 オレの戦い、ここに完。


 ………………。


 …………。


 ……。


 で、終わったらいいのにな~。マジどーすっぺ?


「町を一つ消滅させといてまだ人の心を残してたのね」


 リリー。どんなときでも人の心をなくしてはいけないんだヨ☆


「ボケが!」


 守護天使からの蹴り、入ました~。


「……ひ、酷い……」


「酷いのはリンでしょうが! 自爆したいならわたしを巻き込まないでよ!」


 そ、それが守護天使の言うことか。自分が犠牲になってもオレを守ることを喜びとしろよ。


「そんなことは喜びの一つでも与えてから言いなさい!」


 あ、ハイ。すみません。以後気をつけますです。


「どうすんのよこれ? 町があったことすらわからないわよ」


 オレは有言実行のガール。言ったことは死んでも守るのよ。


「そのまま死ねばよかったのに」


 酷っ。お前は本当に守護天使か!?


「コピー天使としか思われてないし」


 う、うん。コピーにしか役に立ってないからね。


「リンたちが生き残れたのはわたしが守ったからよ! でなきゃ死んでたわよ!」


 そうなの? コピー能力以外に神パワーがあるなんて聞いてないよ。


「わたしの守護は──いえ、頼られても困るから内緒よ」


 チッ。けちんぼ天使め。守護対象にもっと愛を見せやがれ。


「愛は有料よ」


 それ、守護天使が言っちゃダメなやつ。 


「ってか、ここどこ? ねーちゃんとジェスは?」


 背中にシルバーがいるのはわかるけど。


「カイヘンベルクの周辺じゃない? 二人ならそこで気を失ってるわ」


 リリーが指差す方向を……向けない。体が動かないのはなんでや?


「そりゃ全魔力どころか命まで削ったんだもの、レベルダウンもするわよ」


 レベルダウン? なんやそれ?


「能力開示。うおっ!? レベル4になってる!!」


 レベル11からいきなり4かよ。レベルアップしてなきゃ死んでたよ! マジでヤベーことしちゃったんだな、オレ!!


「……まあ、レベル4でも人並み以上だし、いっか……」


 魔力量が下がるのは痛いが、魔力を持っている者は増えたのだから差し引きゼロよ。と思う。


「しかし、参ったな。オレ、魔力がないとなんもできねーわ」


 予備の予備まで使い切ってるし、他人から魔力をいただく魔力もない。これほど無防備になったのは生まれて以来だぜ。


「シルバー。お前は動けるよな?」


 意識を取り戻してからまったく反応はないが、温もりが生きていることを教えている。


「シルバーも気を失ってるし、シルバーに隠している魔石もないからね」


 マジか!? へそくりまで使い切ったのかよ。ますます無防備だな。生き残ったらイビスから銃をもらおうっと。


「ねーちゃんとジェスもレベルダウンしてるのか?」


「ナナリはそれほどではないわね。魔石や光の指輪の魔力を使ったから。ジェスは半分は減ったかしらね?」


 そっか~。得より損が多い依頼だったな~。


「欲張りね。依頼報酬で取り返すクセに」


 正当な仕事には正当な報酬をいただくのが正しい在り方なのです。まあ、頑張ったのでボーナスもいただきますがね。


「はぁ~。どうしたもんかね……」


 動けんと助けも呼べんぜ。


「万能偵察ポッドを通してハリュシュに連絡したわよ。そろそろ来るんじゃない?」


 そう言うことは早く言ってちょうだい。無駄に心配……いや、来るまで油断はできんな。ローブに……閉じ籠もることもできんか……。


 改善改良することがいっぱいあるな。生き残れたら──いや、死亡フラグになる。気楽にのんびり待つとしよう。


 ……でも、早く来てくれると助かります……。


 いい妄想をしながら待つこと一時間ちょっと。ハリュシュたちがやって来た。助かった~!


「リン様! 大丈夫ですか!?」


「なんとか。皆動けないからリヤカーで運んで」


 根性を総動員すれば動けると思うが、無理する必要がないやら動きません。


 ドワーフ隊が呼ばれ、各自積み込まれてキャンプ地へと戻る。


 ……結構飛ばされたんだな……。


 キャンプ地まで約三十分。軽く二キロは飛ばされたのか。ほぼ、爆心地にいたしな。当然、か?


「……無事じゃったか……」


 キャンプ地に着くと、じーちゃんに雇い主様、グランディール傭兵団員に迎えられた。


「死ぬかと思った」


 まったくそんなことは思わなかったし、今も死ぬ想像はできないけど、この流れではそう言うことにしておこう。


「ケガをしたのか?」


「ううん。議員館に巨大人型のビジューナーがいて全魔力を使い果たす羽目になった」


「町一つ消滅させるほどのものだったのか?」


「抵抗力がある者でも一瞬で死ぬ。今度見つけたら捕まえてじーちゃんに見せてあげる」


 びっくりして心臓止めんなよ。


「止めてくれ。そう言うことにしておく」


 うん。理解あるじーちゃんで助かります。


「完全に呪霊を消滅はさせてないけど、聖水で対処可能。これでグランディール傭兵団が受けた依頼は完了とする。雇い主様。承諾を」


 まだやれと言うなら報酬がえらいことになるぜ。


「あ、ああ。了承する。ご苦労様」


「その言葉によって契約は完了。報酬を払うことにより契約書は消滅する」


 しっかり払っておくれよ、雇い主様。


「……お手柔らかに頼むよ……」


「それはあなたの誠意次第。悲劇が起こらないことを切に願う」


 タダ働きはごめんだからな。


 まあ、それは後々。今は我が家に帰ることに集中しよう。


「グランディール傭兵団諸君。我が家に凱旋だ」


 雄叫びにも近い返事に、ホッと息を吐く。


 災害竜退治まではゆっ──いや、次なる戦いに備えよう。オレに休息はないのだ!


 って言っとけばいいやろ。さあ、我が家に帰ろう。

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