第66話 弱者は知恵で強者を食らう
第二回、グランディール傭兵団会議を始めるよ~。
「これは絶好の機会」
オレの言葉に集結した者らが?の花を頭に咲かせた。
「カイヘンベルクに入っていいのはグランディール傭兵団だけ。つまり、カイヘンベルクにあるものはグランディール傭兵団が好きにしていいってこと」
奪い放題取り放題。こんなボーナスステージがあってよいものか。いや、いいとオレは叫ぶ。
「で、でも、中に入って誰も戻って来ないって……」
「それは抵抗力がないから」
そう。これは冬に起こった邪神の呪い──ウイルスが関係している。
あの風邪に似たウイルスは人を死霊にするウイルスだと思う。よくある病状に似せて徐々に人々に浸透させる、なんとも気の長い侵略攻撃だ。
だが、医療が遅れた時代で、社会体制が未熟なら有効だとオレは思う。見抜けるヤツなんていないだろうし、見抜いたとしても対抗策を用意するのは至難だろうならな。
……死霊が出たら焼く、なんてことが伝わるくらいなんだからな……。
「グランディール傭兵団にはリンが作った薬でウイ──呪いに抵抗力がついている」
完璧、とまではいかないまでも中度までは確実に防げると断言できるし、対策はしてある。恐れることはなにもない。だからって油断はしませんよ。安全第一がモットーのグランディール傭兵団ですからね。
「それに、誰も入らないのなら情報操作ができる」
と言っても誰も理解できないか……。
「戦奴だけを突入させる状況に持っていくように情報を渡すことができる」
理解できたの半分、理解できないのが半分ってところか。
「……それは、可能なんでしょうか……?」
ジェスは理解できたようだ。
「弱者は知恵で強者を食らう」
知恵だけでは無理だが、力ならここにある。力に優れた獣人。魔に優れたエルフ。術に優れたドワーフ。使い方次第で人にも勝る軍勢となるのだ。
「しかも、今回は愚か者も食らうことができる。美味しくいただこうよ」
フフって笑ってみせる。
けど、誰も笑い返してくれないこの寂しさよ。誰か冗談の一つも言って和ませてよ。
「……リン。その笑いは恐いから止めなさい……」
なんてねーちゃんからの心ない窘め。寂しいわ~。
「詳しい作戦はカイヘンベルクに入ってから」
「わかりました。皆、いいな?」
ジェスの確認に全員が頷いた。
「あと、与えられた武器は使わないこと。アレは災害竜で使う。今回はこれを使う」
と、水鉄砲を出す。
「これは聖水銃。呪いを薄める武器」
引き金を引いて水──ではなく聖水を撃った。
「薄める? 消すことはできないの?」
ハリュシュの疑問はごもっとも。
「できる。けど、消したら他の者が入って来るから薄めるだけ。いただける時間は長いほうがいい」
ボーナスステージは長ければ長いほどいいでしょうが。
「でも、金を奪ったらなにか言われるんじゃないの?」
お、ねーちゃんがそんなことまで頭が回るようになってるとは。人の成長は素晴らしいものだ。
「火事って恐いよね」
木造建築の町で火の魔法を使っちゃイケないよ。
「……恐いのはあんただよ……」
ヤダ。姉からの非難の眼差し。悲しいわ~。
「お金がいっぱいあるところでは火の扱いには充分に気をつけて」
もちろん、ちゃんと灰になるよう燃やすってことだからね。ちゃんと察してよ。
聖水入りの水鉄砲と予備の聖水ボトルも各自のアイテムボックスに送る。カイヘンベルクに入ったら出してね。
「雇い主を騙すために半分はここに残って。入った半分が帰らぬ人となるから」
さすがに全滅は怪しまれるから半分でいいでしょう。あと、お宝回収に勤しんでもらいたいし。
「各自のアイテムボックスを大きくした。欲しいものがあるなら取り残しのないように気をつけて」
個人で回収したものは個人のもの。好きにすればよろしい。オレ、太っ腹~。
「今日はこれで終わり。明日のためにもゆっくり休むこと。以上」
見張りと明日の人選はジェスにお任せ。オレとリリーは明日の準備のために下がらしてもらいます。
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