第65話 世の理

 夜明けとともに出発。そして、オレはお休みなさい。ぐぅ~。


 で、起きたらお昼。着いたの?


 辺りを見回すと、なんかの陣。武装した方々がいました。


「あ、リンが起きたわよ」


 リリーが目の前に現れた。なにがどうなってんのよ?


「アルイン貿易都市所属の陣らしいわよ」


 ってことはカイヘンベルクに着いたのか? 


「ハリュシュは?」


 あと、孫も。


「今は寝かせてます。夜通し駆けたようなので」


 そりゃご苦労様です。頑張ったね。


 途中で合流するかな? と思ったけど、オレが想像したより脚が速いようだ。


「どう言う状況?」


「グリュー殿が会議に出てるので待機してます」


 グリュー? って、孫のことか。ようやく知れたわ。


「そう。なら、今のうちにグランディール傭兵団の陣を築く」


 まあ、陣と言っても炊事場作るだけなんだけどね。


 その場に竈を二つ。水タンクを一つ。テントを二つ設置。あと、椅子の代わりにいい感じの大木を四つ出してハイ、終了。命令が下るまでゆっくりしますか。


「? ねーは?」


 そう言えばいませんね。トイレか? あ、トイレを出すの忘れてた。野にするとかイヤすぎるわ。


「偵察に出ると言ってました」


 また勝手なことを。困ったねーちゃんだよ。


「そう。ジェスも休んで体調を万全にしておいて」


 先が見えないときは、体調を万全にしておくしかない。食べて寝て戦うそのときに備えろ、だ。


 ジェスたちが休んでいる間に竈に火を入れ、いつでも食べれるように料理を作る。初陣なので奮発してビーフシチューにしちゃうぞ。


 じっくりコトコト煮込んでいると、勝手に飛び出した肉食獣が腹を空かせて帰って来た。どうでした?


「……酷いものだった……」


 だろうね。死霊だし。あ、肉にしちゃった。食べられる?


「食べる」


 うん。元気な胃でなによりです。たくさんお食べ。


 匂いに誘われてジェスたちも起きて来て、一緒にビーフシチューを頬張る。


 鍋一つがあっと言う間になくなったので、新たに作っていると、にーちゃん──グリューとじーちゃん、あとその他諸々がやって来た。


「すまんが、わしらにも食べさせてもらえんか?」


「雇い主がいいと言うなら」


 グランディール傭兵団の雇い主様に目を向ける。あなたのサイフから出るもんですしね。


「お前、雇ったのか?」


 おや。話してないんかい? ちゃんと報告しないとアカンよ。ホウレンソウホウレンソウ。あーホウレンソウの和え物食べたくなったわ。


「ええ、まあ。出世払いで……」


「……またとんでもないことをしてくれたな……」 


 失礼な物言いだね。グランディール傭兵団は報酬以上の仕事をさせてもらう良心的な傭兵団なのに!


「まあ、よい。苦労するのはお前だからな」


 ついでにオレの苦労も渡すからよろしくね!


「お前さんも無茶は止めてくれよ。まだ世間知らずなんじゃから」


「過保護。継がせたければ荒事に放り込むべき」


 その結果には責任持たないけど。


「息子はそうするべきだったと後悔しとるよ……」


 なにかあったのかな? まあ、なんでもいい。良いのか悪いのかどっちだい、雇い主様?


「……お願いします……」 


 ハ~イ。雇い主様よりご注文が入りました~。ビーフシチューとパン、夕方になったのでワインもつけるよ~。


 以前からそうだが、喰うべきときはしっかり食うじーちゃんだ。さすが揉まれて来た人は違うね。


 食休みにホットササを出してやり、飲み干したらすぐにお話モードになった。グリューくん、見習えよ。


「お前さんたちは、これだけか?」


「本隊は補給と一緒に来る。明日にはつくと思う」


 荷物を積んで来るから三日、なんか無理しそうだから夜には来そうだな。


「今、出せる数は?」


 二番隊が二十。一番隊から十二。外回りが八。そして、ねーちゃん。合計で四十一。だが、全兵力を投入などあり得ない。半分は残しておくべきだろう。


「十五から二十」


 ちょっと曖昧にしておこう。まだ目的がわからんからな。


「では、その二十名でカイヘンベルクへの偵察を頼みたい」


 じーちゃんの依頼に眉をよせる。


「なぜ?」


「偵察に出したが戻って来ない」


 その言い方にさらに眉がよる。


「戦奴を使ったね」


 出した者、と言わないところがその証拠。だろ?


「……ああ。戦奴を出した……」


 近くにいる者らが殺気だか怒気だかを放つ。まあ、無理もないわな。家族や親しい者が戦奴狩りに遭ってればな。


「それでなんの実績もなく新設のグランディール傭兵団を出す、ってことね」


 政治的と言うか強者の論理と言うか、なかなかナイスなことしてくれるじゃねーか。気に入ったぜ。


「……ああ。そうだ。止められなかった。すまん……」


「いい。雇われたからには命令に従うもの。文句を言ってもしかたがない」


 雇われる身の悲しさよ。悲しくて笑いしか出ねーぜ。ぶひゃひゃひゃひゃ。


「出てくれるのか?」


「雇い主の命令ならば」


 与えられた命令を遂行するのが一流の傭兵団ですから。


「では、グランディール傭兵団にカイヘンベルクの偵察をお願いします」


「喜んでお引き受けします」


 恭しく依頼を受けた。


 フフ。ボーナスステージを譲ってくれるなんてありがたいことだ。あとで酒でも送ってやるか。


「……リン様」


 不安そうな声に捕らぬ狸の皮算用から意識を戻すと、グランディール傭兵団の面々が怒りの顔を見せていた。まったく、感情的なヤツらだよ。


「弱い者が先に死ぬのは世の理。弱いのが罪」


 怒るばかりじゃなにも変えられないんだよ。理性的に頭を働かせろ。


「けど、弱者が強者を食らうって楽しいよね」


 愚か者どもよ。オレが美味しくいただいてやるよ。ムヒヒ。

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