第62話 カイヘンベルク
「ほらね」
はい、すみません。リリー様の言う通り、邪神に向けてフラグを振っていたようです。
ローブを脱いで春の暖かい日差しを身に受けてると、外回りをしていた獣人が一人、オレの元へと駆けて来た。
……オレのバカ。なんでフラグを振ったんだよ……!
「リン様。カイヘンベルクが死霊で溢れました」
知らない単語が二つも出て来ました。
「カイヘンベルク? 死霊? なに?」
「カイヘンベルクは町です。ここから三日ほど歩いたところにあります。死霊は死んだ者に呪いがかかったものです」
町はともかくとして、死霊ってゾンビかよ。出て来る世界間違えてねーか? アメリカンな世界をファンタジーな世界に持ち込んでくんなや。
「避難民は出た?」
「逃げ出した者はいますが、そこまで纏まってはいませんでした」
外回りを任せたのは冒険者をやっていたものを中心に任せてあるので、その報告は確かなんだろう。
「どこかの町から兵は出た?」
「近隣の町に走った者を見ましたので、今頃はカイヘンベルクに出てるかと思います」
そこは町を治める者次第ってことか。
「休んだらまたお願い。他の人たちにもよろしくと伝えて」
「はっ。お任せください」
休んだらって言ったのに、すぐに駆けていってしまった。
「二丸」
冬は役に立たないが、他の季節は役に立つ二丸を呼ぶ。
「カァー」
四阿の上から鳴き声がして、すぐに降りて来た。
「外回りを追ってカイヘンベルクの様子を探って」
「カァー」
二丸は索敵に特化させ、意識を二丸に乗せることもできるので、詳細なことがわかるだろうよ。
「これは、グランディール傭兵団に依頼が来るわね」
だろうな。この流れは。
急いでも仕方がないので、ホットココアを飲んで心を落ち着かせてから本部に向かった。
本部の食堂兼待機室にはオバチャンたちとミューリーのばーちゃんが縫い物をしていた。
ミューリーのばーちゃんは、オレの魔法で目を治し、食事改善により健康な体となり、グランディール傭兵団で働いているのだ。
「誰かジェスを呼んで来て。大事な話がある」
「わかった」
と、一人のオバチャンが答えて、本部を出ていった。
代表席(なんかいつの間にかできてました)に座り、ジェスを待つ。
本部に詰めていた秘書のミレイズがホットササを出してくれた。あんがとさん。
「リン様。戦いなんですか?」
秘書にしたがそれほど親しくもないミレイズが不安そうに尋ねて来た。
「なると思う」
まったくもって不本意ではあるがな。
「わたしも戦わせてください! 皆を守りたいんです!」
あら、好戦的なのね、ミレイズちゃんたら。まだ十五歳なんだから平和に暮らしてなさいよ──とはオレが言えることじゃないか。ねーちゃんを戦いに出してんだからよ。
「ダメ。弱い者を……うん。これに魔力をいっぱいにできたら戦いに出す」
レーザーライフルを創り出してミレイズに渡した。
「リンの側にいないときに魔力を注いで」
光の指輪と同じ量の魔力を必要とするが、レーザーライフルは数を撃てるようにしてある。
「これに魔力を込めればいいんですね!」
やるだろうとは思ったけど、本当にやる若さかな。ってか、どいつもこいつも人の話を訊かんヤツらだよな。もっと理性を鍛えろや。
「このおバカさんを運んで」
オバチャンに頼んでミレイズを片付けてもらう。
「すみません、リン様」
同族の過ちを謝罪するハリュシュ。謝れるようになったとはあなたも成長したね。
「いい。痛い目にあったほうがミレイズのため」
それでも懲りずにやるならそれはそれで立派だ。さらなる試練を与えてやろうではないか。
「ふふ。厳しいのね」
「厳しくしないと死んじゃうから」
艱難辛苦を乗り越えてオレを守る盾となれ、だ。
しばらくしてジェスたちがやって来た。だから、なんでお前らはオレの話を無視すんのよ。ナメてんの?
「すみません。皆、聞かなくて……」
聞かせろよ。団長なんだから。いや、聞かせられないオレも同罪だけど!
「騒ぐようなら出てってもらう」
「皆、静かに聞くように。リン様のことばを遮るようならおれが追い出すからな」
ほんと、頼むよ。
「それで、なにかありましたか?」
「外回りからカイヘンベルクで死霊が溢れた」
騒ぎはしなかったが、緊張が食堂内を走った。それだけのものってことか。
「まだ詳しい状況はわからない。けど、町は壊滅に近いと思う。近隣の町に走ったと言ってたから傭兵団なり出ると思う。ジェスは死霊と戦ったことある?」
物理攻撃が効く系か魔法攻撃が効く系かで対処が変わって来る。
「おれは戦ったことはありませんが、死霊が溢れたら火で焼くと聞いたことがあります」
汚物は消毒だ~! 的なノリか? もっと頭を使った倒し方しろよ。
「要は死霊のことはなにも知らない、か」
事前情報がないのは痛いな。だが、対策がないワケじゃない。邪神の呪いで動かしてるなら要はハーケンハイローと同じ。魔力さえ奪えば動くなくなるだろう。
まあ、絶対じゃないから他の対策も考えておこう。
「たぶん、グランディール傭兵団に依頼が来ると思う。死霊相手だから魔法を使える者を中心に編成する。誰が選ばれてもいいようにしてて」
「リン様もいくのですか?」
「災害竜の前の予行演習しておきたいからいく」
異種族の集団を纏める経験は積んでおきたい。絶対、上手くいかないと思うから。
「人数はどのくらいになりますか」
「戦闘隊で二十人。予備と補給に十人。ジェスが隊長」
少ないとは思うが、指揮素人のオレにはそれくらいが精一杯だろう。
「そう言うことだから。解散」
さて。オレも遠征準備をしておくか。
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