第60話 魔法幼女
そんなワケねーだろう!
と、突っ込みを入れる方に申し訳ないが、今のところ平和に過ごしております。
……あぁ、幸せでござる……。
我が家でのんびりゆったりしながら飲むホットココアの美味しいことよ。今なら世界平和を心から願えるぜ。
「リンねーできたー!」
「ねーね、あたちもできたー!」
女性率百パーセントのリビングルームでお勉強会をしていたジュアとミューツ、って今さらだけど、ジュアは六歳でミューツは四歳の獣人の子だ。いつも一緒にいるが、姉妹ではないようだ。
「リンちゃん。わたしもできたわ」
十二歳とは思えないおねーさん感を出すのは、ねーちゃんの友達(以上に見えるけど、教育上そうしてます)のミューリーだ。
他にもエルフの子とドワーフの子がいるが、そちらはねーちゃんに任せている。教えるのも修業だってね。決して面倒だから押しつけたワケじゃないのであしからず。
差し出されたノートを見る。
書かれているのはひらがな。日本語だ。
獣人の識字率は限りなくゼロに近かった。冒険者をしていたジェスですらこの辺の文字をかけない始末。まあ、単語を何個か知ってるくらいだったっけ。
ないのなら何語を教えても構わんやろ。使い慣れた日本語を獣人の文字とする。そのうち漢字やカタカナも教える。
需要あんのかい?
グランディール傭兵団にはある。記録や内部資料は日本語で書くのだ。秘密保持のためにもな。
転生者の悪行と罵られようが構わない。優先されるべきはオレの利。オレの都合で今生を生きさせてもらいます。
「うん。綺麗。二人ともよく書けてる。偉い」
褒めると、ジュアとミューツは嬉しそうに笑った。可愛いヤツらよ。
母性本能があるかはわからんが、懐いてくれるのは嬉しいもの。モフモフが癒しだわ~。
「ミューリーも綺麗でしっかり書けてる。覚えるの早い」
知的好奇心が高く、頭も良いので覚えるのが早い。もうひらがなは完璧と言っていいだろう。
「ふふ。だって楽しいんだもの」
いちいち仕草が色っぽい。男だったら一発でノックアウトしてるだろうよ。女なのでエロいな~としか思わないけど。
「じゃあ、カタカナ教える」
「カタカナ?」
「ひらがなを別の文字にしたもの」
カタカナと五十音表と濁音表も。遠慮なく覚えなさい。
「ふふ。いろんな文字があるのね」
なんとも楽しそうなミューリーちゃん。おねーさまと呼びたくなるね。
文字の他にも計算も覚えさせる。将来はグランディール傭兵団の事務を任せるためにもな。
とは言え、勉強ばかりでは不健康。豊かな心を育むためにも外に出て自然を感じることも必要だ。
冬の晴れ間の日。牧場へとウィンターピクニックと洒落込む。
熊車には六人のお子さまを乗せ、年長者の八人は歩いてもらう。もちろん、オレはシルバーの背に跨がってます。
「ガウ」
ん? 歩き難い? 一メートルくらいしか積もってないだろうが。お前最近たるんでるぞ。もうマスコットキャラに成り下がりやがって。リリーを見習え。
「守護天使を馬車馬のように働かせるのもどうかと思うけどね」
神様からの贈り物。ありがたく使わせてもらいます。
「しょうがない。吸引」
ローブの右袖口をシルバーの前に向け、吸引魔法陣を展開。雪を吸引する。
「リンねー! あたしもやりたーい!」
ジュアのやりたいに他の子たちもやりたいやりたいと騒ぎ出す。
楽しいのか? と思って名案がピカリ。いいことを思いつきました。
まあ、魔力は使うが、一度創っておけばこれからも使える。投資にケチって儲けを逃すな、だ。
手のひらの創造魔法で吸引具を創り出す。
子どもの手で持てるように柄は細くし、重量も二百グラムくらいにする。
「リリー。今のを止めてこれをコピーして」
「鬼ね」
庇護対象を鬼とか言うな! いいからやりなさいよ。
オレが死なない限りリリーは死なない。つまり、どんなに無茶しようとリリー単体では死なないと言うこと。生命体ってなんだろう? なんて疑問は彼方にポイ。死なないのなら遠慮はいらぬ。さあ、コピーしてちょうだいな。
「悪魔か」
悲しいかな人間だよ。神の僕が。ほれ。さっさとコピーしんしゃい。
リリーの働きにより人数分の吸引具が揃い、皆に渡す。
「こうやって使う。吸引」
棒の先に魔法陣が展開。雪に向けて吸引する。
「すごぉーい!」
「おもしろーい!」
なにが? と思わず尋ねたくなるのをグッと堪える。
まずは好きにさせる。思うがままに楽しめ。オレはホットココアを飲みながら冬の晴れ間を楽しむんでよ。
「リン様。雪なんて集めてどうするんですか?」
ジェスが不思議そうに尋ねてくる。
ちなみに今日は第一部隊が護衛としてついて来てます。先日はエルフやドワーフが活躍したので、自分たちの立場が危ういとか言ってな。
別にどの種族を特別に優遇する気はない。ちゃんと平等に戦ってもらうぜ。
「災害獣との戦いが夏になったときに使う。ジェスたち、暑いの苦手でしょう」
毛は少ないのになぜか夏が苦手な獣人たち。不思議なもんである。
「気づかい、ありがとうございます」
「いい」
まあ、それは建前。雪集めは日照り対策だったり、貯水だったりする。他にもあるが、アイテムボックスの空きがもったいないから入れておくのだ。
お子さまたちが飽きる前にお昼にする。
お腹いっぱいになり、年少組はお昼寝。オレもお昼寝したいがその前に。
「これから競争。一番先にいっぱいにしたら武器をあげる」
年長組はまだ武器を持たせてもらえない年齢だ。なので、武器をエサに雪集めを頑張ってもらいます。
「ハイ、開始」
武器に目が眩んだ少年少女たちが我先と駆けだしていった。
「リン様。我々にもやらしてもらえませんでしょうか?」
なにやら大人組も参加したいご様子。
「じゃあ、交代で。一番先に集めた者にはとっておきのナイフをあげる」
大人組もエサがあったほうがやり甲斐があるやろ。頑張れ。
張り切るジェスたちを横目にホットココアを堪能する。
「人を惑わす極悪魔女め」
愛と平和を守る魔法幼女です。
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