第43話 魔槍グランディール
この社会の成り立ちがメンドクセー。
自由貿易都市群と言ってるが、要は町の寄り合い。それぞれの思惑が渦巻き、纏まるものも纏まらない社会。町長ではなく議員ってのも怪しさ全開である。まず町を見てないよね(偏見です)。
まあ、オレがメンドクセーってだけで、世界はそれなりに回っているのだろう。町がそれなりに回っているのだからな。
だが、今は邪神の侵略を受けている。町を滅ぼす様な魔物が多くいる。魔物により流通が壊され様としている。この状況をひっくり返すには人類(他種族も含む)が団結すること。
うん。無理。できる社会でもなければやれる人物もいない。各個撃破で滅ぼされるだけである。
まさに人類の命は神に選ばれた九十八人の働きにかかっている。
サラッと自分をぬかすなって突っ込みはしないで。サラッと流してくださいませ。
利己的と言われようが薄情者と罵られようがオレはオレの命が大切だ。まず自分の命を優先させる。正義のヒーローじゃねーんだ、自己犠牲なんてやってられるか。文句があるならまずテメーが先陣切って戦い、人類のためにその命を燃やしやがれってんだ。
とは言え、他人事にして、見えないフリをしていては自分の首を絞めるだけ。滅びへとまっしぐらだ。
不味いことになる前になんとかしなければ。
いや、三歳からやっているよ。だが、まだ準備段階だ。自分が納得するものができるまでにまだまだ時間を要する。ってか、ローブに振りすぎて停滞気味だわ。なにやってんだ、オレ!
クソ。なんで人生はこんなに上手くいかないんだよ!
って、愚痴っても仕方がない。人生が上手くいかないのは前世で学んでる。今生でも学ばされてる。上手くいかないからと嘆いていても問題は解決しないってこともな。
オレの基本戦略は命大事に。それ、趣旨とか目標とかじゃね? とは自分でも思うが、命あっての物種。命に重きを置いた考えしなければならないのだよ。
バフリーで大量の魔力を得たとは言え、不測の事態を考えて使いたくはない。なので、ないものとして考える。
考えれば考えるほど、オレに打てる手は限られて来る。そして、魔力以上に金も必要になって来る。
……商売か……。
今のオレでは大金を稼ぐことは無理だ。無理にやったとしても厄介事しか生まれないだろう。
なにがある? なにができる? なにをしたら稼げる?
どう考えても名案は出て来ない。出て来るのは地道な商売だけである。
「止めだ。止め止め。考えてもダメなときはダメな答えしか出せないもの。一旦考えるの止めだ」
娼館での話を聞いてから何日も考えたが、なに一つ名案は出て来ない。ならば、それはなにかが足りないんだ。
勝利への答えはインスピレーション。勝利への材料が揃っているときに出るものだからな。
まだ時間はある。と信じて今を大切に生きよう。お茶だ。脳に糖分だ。ココアはやっぱり森〇だ。うん。美味しい。
「ガウ」
ん? 誰か来たのか?
しばらくして、街道に通じる道から団体さんがいらっしゃいました。
「エルフ?」
お耳が長いことからしてエルフなんだろうが、その中にドワーフ的な筋肉ダルマな方々も混ざっていた。
……また難民か……。
誰が広めてんだよ。いや、獣人たちだろうが、どんな情報を元に集まって来てんだよ? ここは最後の楽園じゃねーんだぞ。
団体さんはこちらに目を向けるが、やって来ることはない。獣人たちの集落(あとちょっとで村になりそうだ)へと向かっていった。
しばらくしてジェスが慌てた様子でやって来た。どったの?
「す、すまない。エルフ族とドワーフ族が来てしまった」
あ、やっぱりドワーフなんだ。今さらながらファンタジーな世界だよ。
「そう」
ジェスはオレの逆鱗に触れた様にあたふたしてるが、ジェスたちが住み着いたときに難民が増えることは想像していた。それが現実になったからと言って怒る気にもなれんよ。
「……いいのか……?」
「好きにしたらいい」
ダメだと言っても言うこと聞かないだろうが。切羽詰まった状況にいるヤツなんかによ。
「……すまない……」
「無秩序よくない。考えてる?」
「…………」
わかってはいるけど考えつかないってことね。わかるよ。オレも似たような状況だからね。
「世の中はもっと悪くなる。魔物によって」
それはオレよりわかっているだろう。肌で感じているだろう。どうしようもない閉塞感に自分の無力さを痛感しているだろう。
「ジェスはどうしたいの?」
「……妹を、同胞を守りたい……」
まともな神経を持っていれば真っ当な願いだ。
「それには力が必要。数も必要。金も必要。知恵も必要。運も必要。わかる?」
わからなければどんな願いも戯言だ。そんな戯言に四苦八苦してるのがオレ。笑えるだろう?
「……わかる……」
恨みでも吐くかの様に言葉を出した。
「希望は絶望より残酷」
わかっちゃいるけど望んでしまう。だって人間だもの。
「……それでも、願わずにはいられないんだ……」
「うん。それが人の証。人の尊厳。諦めたら人でなくなる。ジェスは正しい」
誰が認めなくてもオレが認める。それでこそ人だとな。
「リン、死にたくない。生きたい。幸せになりたい。愚かだと思う?」
「……愚かではない。人ならば誰でも願うことだからだ」
誰かに肯定されると言うのは嬉しいもんだな。
「リン。力ない。数もない。だからジェスたちを利用しようと思う」
あまり使いたくはないが、使わざるを得ないときは躊躇ってはダメだ。逃してはダメだ。それはチャンスなのだから。
「リン。傭兵団を創ろうと思う。出せる報酬は少なく、汚れ仕事が多いと思う。蔑まれることもある。それでも入りたいと言う人がいるなら紹介して」
ジェスよ。お前は決断できるか?
「ならば、最初におれを雇ってくれ。お前の、いや、あなたの槍にさせてください」
片膝を地面につけ、頭を下げた。
手のひらの創造魔法で白銀に輝く魔槍を創り出し、地面に刺した。
「わかった。今日この時からジェスはリンの槍。このグランディールをジェスに託す」
「はっ!」
立ち上がり、グランディールをつかんだ。
さあ、ジェス。英雄となって世界を救うのだ。オレのためにな!
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