第42話 自由貿易都市群リビラン

 ──と思ったら、そうは問屋が卸さなかった。


 用事が終わるやいなや、おねーさんたちが雪崩込んで来たのだ。


「内締め、クリームは!?」


「クリーム!」


 フードを被り、おねーさんたちの押しくら饅頭災害から身を守る。あ、ネイリーは自分で身を守ってね。


「騒ぐんじゃないよ!」


 ばーちゃんの一喝でなんとか場は鎮まった。ふぅ~。


 でも、すぐ出ると危ないのでもうしばらく待とう。


 興味を持ったおねーさんがオレを揺らすが、中には伝わらないので構わず閉じ籠もる。


「いい加減におし! クリームは売り上げが高い順からだよ」


 ブーブー文句を言うおねーさんたちを部屋から追い出すが、酒利きマーレさんだけは残した。


 やっと静かになったのでフードを外した。


「悪いね。あのクリームはそれだけ価値があるんでね」


「そう」


 まあ、お肌の良し悪しで売り上げが変わって来るなら色めき立つのもしょうがないだろう。


「ネイリー。あんたは帰っていいよ」


 なにやら秘密のお話かな?


「ネイリー。ジェスに薪のこと教えて」


 残ってるのも辛かろうし、薪の用意もあるだろうからな、今日はこれでお帰りなさい。


「あ、うん。わかった」


 ハイ。気をつけてね。


 ネイリーが消えるとお初の少女がお茶を運んで来た。


 今日のはササか。一服にはこれが落ちつくな。


「邪魔するよ」


「遅いよ」


「無茶言わんでくれ。いろいろと仕事があるんじゃからよ」


 ジジイ──ジムって言ったっけか? 娼館のお偉いさん大集合だな。


「他にも幹部はいるが、今はこの面子でいいだろう」


 ジムじーさんが席に座ると、ばーちゃんが切り出した。


「昨日も言ったが、このジジイがここの主だ。あたしは内を仕切ってる。他にも外締めに金守かねもり、若頭、見回り頭がいるよ」


 ほ~ん。娼館にもいろんな職種があるんだな。


「その他にもいるが、細かいことだからお前さんが知らんでも構わんさ。マーレは酒担当で、これからお前さんの担当も任せることにするよ」


 オレ担当? なんやそれ?


「町に出るときにつける案内人だと思えばいい。お前さんの格好は目立つし、恐れているもんもいるからね、変な気を起こさせないためでもあるんだよ」


 ん? 恐れてる? オレを?


「お前さんは証拠を残さない様にやってるつもりだろうが、人一人消えてバレないワケないだろうが。ましてやあの傭兵団が忽然と消えたら話題にならないほうがおかしいわ」


 バレてぇ~ら。


「別にそのことにかんしてどうこう言うつもりはないよ。町の外でのことだからね。ただ、そんなことをやってれば恐れられるってことは覚えておきな」


 それは重々承知してます。オレだって幼女が殺しをやってるって知ったら漏らすほどビビるわ。


「わかった」


 それでも人の忠告は素直に聞いておこう。知らず知らず間違いを起こしてるときはあるんだからな。


「……お前さんのその妙に素直なところがわからないよ……」


 なんで? 素直なんだからいいじゃないか。


「まあ、いいさ。とにかく、町に出るときはマーレをつける。いいね?」


「わかった。よろしく」


 マーレねーさんに頭を下げた。


「……確かに調子狂う子だね……」


 オレ、素直でいい子だよ。と自信を持って言えなくてごめんなさいね。


「それで、だ」


 と、ばーちゃんが場の空気を入れ替えた。


「ベリーワイン、どのくらいあるんだい?」


 いきなりワインの話かい。なにかと思ったよ。


「売れるのは小樽八個。大樽二個。熟成中のがその六倍くらい」


「……また、とんでもない量だね……」


 ベリー摘み、頑張ったからな。あ、ジャムもあるよ。


「すべて買うし、残りもうちで買うから他には売らないでおくれ」


 別にベリーワインを広めたいワケでもなければ、稼ぐ手段の一つとしか思ってない。だからばーちゃんだけに売ってもオレは一向に構わない。が、娼館で買うには多すぎやしないか? いや、娼館での消費量なんて知らんけどさ。


「わかった。けど、なんで?」


 なにか理由があると見た。


「魔物の被害で酒を作るところが減ってるんだよ。エールはまだしもワインや蒸留酒は年々少なくなっているのさ」


 蒸留酒、あったんだ。やはり、外に出てみないとわからないことが多いぜ。


 ってか、確実に邪神の侵攻が進んでるな。他の戦士たち頑張れよ。成人するまで世界が保たないぞ。


 お前もやれよ。とかは聞きません。オレは勝てる戦いしかしない主義だ!


「隊商も年々減ってるよ」


 それなら娼館だって売り上げが減ってるのでは? 余り貧してる感じはしないが……。


「お前さんは本当に年齢に合わない考えをするね」


 部屋を見回してたらばーちゃんが呆れた声を出した。


「そう?」


 なんて惚けておく。


「ここは比較的安全だからね、逃げて来る貴族や避難民が増えてるんだよ」


 それは不味い状況なのでは?


「この町の支配者って誰?」


 表向きの、だよ。


「自由貿易都市、と言ってわかるかい?」


「なんとなくは」


 どこかの国に属してるワケじゃないんだ。ってか、成り立つんだ。どんな社会情勢だよ?


「ここは、自由貿易都市群リビラン。アルイン貿易都市に所属するダリアンナの町だよ」


 六年目でわかる町の名前。ぅん。もっと興味を持とうな、オレ。


「リビランにある町は町長じゃなく都市議員が治めているんだよ」


 一言で表すならメンドクセー、だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る