第38話 約束は人とするもの
ガンズ傭兵団は、総勢四十八人の魔物と戦う集団とのことだ。
昨今、魔物による被害が多く、幾百の村や町が消えたと言う。
この辺の話はジェスから聞いているから驚きはないが、魔物と戦うために傭兵団がたくさん組織され、食うに困った若者は冒険者より傭兵を目指すそうだ。
それならなにも問題はないのだが、傭兵の中には自分で戦うのがイヤと言う者がいて、獣人や貧しい人を攫って戦奴として使い潰しているそうだ。
……道理で人攫いが多いワケだ……。
まあ、そんなことが起きてから奴隷狩り、戦奴狩りが横行し始め、今では一つの商売として成り立ち、魔物退治が主だったガンズ傭兵団も旨味がある戦奴狩り専門の傭兵団となったとのことらしい。
「……腐ってる……」
邪神の侵略はこう言うところまで影響を及ぼすんだな。知れば知るほど腐った世界だぜ。
「多くの仲間が戦奴にされた」
悔しそうに呟くジェス。ご愁傷様です。
不愉快にはなるが、同情心は湧いてこない。弱い者が食い物にされるのは世の常。弱いことが罪なのだ。
違うと言うなら証明してくれ。弱き者を救ってくれよ。争いのない世界にしてくれよ。できないのなら黙ってろ。口先だけの平和なんてなんの役にも立たねーんだよ。頭お花畑は黙ってろ。こっち来んじゃねーよ。平和を口にして滅びやがれ。
まずは力だ。力がなければなにも言うことはできない。なにもできない。ただ、利用されて食い物にされて捨てられるのだ。
「……町に仲間がいます。荷馬車隊の連中と予備のヤツが……」
だろうな。補給とか必要になるし、捕まえたなら運ぶ必要もある。襲うヤツらだけと考えるほうがおかしいだろうが。見た目に騙されるなと言っといて騙そうと思うなよ。アホか!
「捕まえたと言って連れて来て」
「そのまま逃げるのではないか?」
ジェスの忠告ごもっとも。
「やれるのならやればいい」
素直に言うこと聞くなんてこれっぽっちも思ってない。それが正常。逆に素直にしたがうヤツの頭を疑うよ。
「リン。人との約束は守る。生き残れるのは三人」
ウソもつくし騙しもするが人との約束を破るほど落ちぶれちゃいない。約束は死んでも守るわ。
「ほ、本当に助けてくれるんだな?」
コクンと頷く。リンに二言なし。
何度も何度も確認するケダモノども。疑り深いヤツらだ。だが、納得してくれたほうが素直に動いてくれるので信じるまで根気よく頷いてやった。
なんとかかんとかケダモノたちがご納得。んじゃ、あなたとあなたでいって来て。残りは案山子ね。
「ジェス。捕まったフリして。油断させる」
「わかった。なら、悔しそうな顔をしてないとな」
ジェスの冗談に仲間たちが愉快そうに笑った。
奥様たちに話したら妙なノリ気を見せ、なぜか棒を隠し持って捕まったフリをする。
……奥様たちはまだ殺し足りないのか? どんだけ恨み辛みが溜まってんだよ。溜まる前にガス抜きせんとこっちまで被害をかぶりそうだわ……。
獣人さんたちが縛られたフリをしてうちの近くに集まり、残した傭兵は見張り役として立たせる。オレはローブを透明化し、シルバーはオレの横で死んだフリだ。
しばらくして街道から続く道から馬車が数台とケダモノたちがやって来た。
……数からして大きな傭兵団だとは思ってたが、もしかして大手の傭兵団なのかな……?
荷馬車は旅を目的とした様に頑丈で引く……恐竜? え、恐竜!? なんで?! 馬じゃない世界なの?!
そんな変化球は止めて欲しいわ~。いや、待てよ。騎獣ってこれのことか? 狼の肉を食うってヤツ。
やはり、同じ場所にいては情報に弱者になってしまうな。もっと外にアンテナを向けなければ。
「ナーグ。他はどうした?」
別働隊とリーダーらしき男が見張り役の男に声をかけた。
「あ、はい。山狩りに出ています。逃げたのがいたので」
ナイスアドリブ。やるじゃんお前。その才能を別のことに向ければこんなことにならず済んだのにな。哀れなヤツ。
「村ができたとは言ってたが、結構な数の獣人がいたんだな。こりゃ大儲けだ」
漏れないワケはないとは思ってたが、こんなヤツらに届くとは獣人も大変だ。まあ、大変になるのはこいつらなんだけどよ。
荷馬車から獣騎が外され、野営の準備をし始めたところで行動開始。別働隊のリーダー格に目からビーム。続いて武装した者へ。三匹も無力化すれば場は混乱。捕まったフリをしたジェスたちが残りに襲いかかった。
別働隊は二軍なのか、それともジェスたちが強いのかは知らんが、難なく制圧完了。ケガ人も出なかった。
では、お宝探し、開始です。
荷馬車には傭兵どもの私物や食料品、予備の武器などいろんなものが積まれていた。
その中からミカン箱くらいの金属補強された鍵つきの木箱とご対面。鍵開けの魔法でご開帳。こんにちはとばかりに金貨銀貨が現れました。
結構貯め込んでること。
まあ、傭兵団運営も金がかかるのだろう。もう必要ないんだからオレが代わりに使ってやるよ。
さらに探るとまた厳重な木箱を発見。でも軽いな。なんぞや?
「……鱗……?」
に、見えるものが収まっていた。
わからないときは>っと鑑定。エリグラントの鱗と出た。
そのエリグラントとはなによ?
災害竜? ヤダ。知りたくないことばかり書かれてる。
攻略本なら一ページは使われているもので、町をいくつも滅ぼす様なものだった。
……この世界、町を滅ぼす様なの多すぎだよ……。
もっとバランス考えろや、邪神様。ゲームだったら金返せって騒がれる案件だぞ。
「そりゃチートを与えんと勝負にもならんわ」
町を滅ぼすヤツに愛と勇気で挑めとか、プロローグ直後にゲームオーバー必至だよ。
まあ、チートもらっても勝てる気がしねーけどな。
これで勝てる! とか言うヤツは計画書をオレのところに持ってきてください。即シュレッダーに放り込んでやるからよ。
気を取り直してお宝探し再開。だが、金と鱗以外は碌なものがなかった。
「ジェス。残りは好きにして」
欲しいものはアイテムボックスに放り込みましたので。
「いいのか? 売れば一財産になるんだぞ」
「いらない」
幸せ(共犯)は皆で分かち合うもの。遠慮無用だ。
「あ、あの、おれたちはもういいよな?」
「助けてくれるんだよな?」
あ、いたね、君たち。すっかり忘れてたわ。
「いっていい」
満面の笑みを見せ、一目散に逃げ去った。
そんな無様な背中に目からビーム。照準が甘かった様で即死にはならなかった。
「……約束は守るんじゃなかったのか……?」
隣で憎々しげで見ていたジェスが戸惑い気味に訊いてくる。
「約束を守るのは人相手。ケダモノと約束した覚えはない」
あとはよろしくと、お昼寝するために家へと戻った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます