第11話 シルバー

「お前の名はシルバーだ」


 特に名前に意味はなし。銀色の毛だからシルバーにしただけです。ちなみに雄でした。


「ガウ」


 了解と頷くシルバー。なんか仕草がコミカルである。


 ん~。手のひらの創造魔法で改造したのはいいが、なんか野生が死んでしまった感じがする。


 ま、まあ、オレの幸せのために働いてもらうのだから理知的に育ってもらおう。


「シルバー。畑を耕せ」


「ガウ!」


 まだ凶悪でない爪で荒れた大地を耕していく。ウム。役立つ熊である。


 耕したところに手のひらの創造魔法で改良した万能豆を植えていく。育てや育て我が家の食卓を豊かにするために~。


 四歳児による農作業は順調で、春に植えた万能豆は三十日で実を生らす。


「大漁大漁」


 万能豆は味噌や醤油、餡子、豆乳、豆腐などなど、いろんなものに化けてくれるのだ。グフフ。


「ガウ!」


「どうした、シルバー?」


「ガウガウ」


「腹減ったって? お前食いすぎだろう」


 成長盛りなのか、二時間置きくらいに腹減ったと抜かしやがるのだ。


 小さな仔熊がたった一月で大型犬くらいとか、育ちすぎだわ。ってか、親は三メートルはあったし、そのくらいになるのか? そんなんなったら大騒ぎになるな。なんか考えておかないと。


 それはともかく、腹が減っているなら食わせるだけ。冬の間に溜めたウサギ肉が大量にあるし、ゴブリンを退治したり薪を運んで来てくれたりと役に立ってくれるからな。ご褒美だ、たーんと食うがよい。


 万能豆は季節を選ばず、連作に強くしたので、収穫したらまた植える。


 栄養は野望の穴から流しているので、一日一回の水やりをすればあとは放置、とまではいかないが、早め早めの草取りをすれば農作業にかける時間は二時間程度だ。


 なので、農作業が終われば昼飯の用意。今日は豆腐のクリームシチューだ。


 鼻歌を奏でながら美味しい豆腐のクリームシチューを創っていると、一丸がやって来た。


「老人と若いのが来る。老人は杖を持ち身形がいい。若いのは剣を持ってる」


 なにやらこれまでにないタイプのが来たな。なんだ、いったい?


 お玉を置き、外に出てみる。


「シルバー」


 家の裏にいるシルバーを呼ぶ。番犬ならぬ番熊でオレのボディーガードでもある。


 ちなみにねーちゃんは朝から山へ殺戮しにでかけてます。シルバーがボディーガードになってからね。


 町のほうからやって来るのはじーちゃん。見た目からして六十前後。上等な服からして金持ちか貴族。若い男は護衛だろう。


 シルバーを盾にして二人と向かい合う。人攫いなら容赦はしないぜ。


「お嬢ちゃんがリンかい?」


「…………」


 四歳児なので不躾に無遠慮に見詰めます。


「わしは、旅の爺じゃ。ミレンさんからの紹介じゃよ」


 ミレンとはオレのかーちゃんだ。客か?


「なに?」


「お前さんが旨い料理を作ると聞いてな、御相伴にあずからせてもらおうと思うて来たのじゃよ。これで食べさせてもらえんかのぉ?」


 と、じーちゃんが銀貨一枚を差し出して来た。


 随分と気前がいいじーちゃんだこと。四歳児の料理に出す値段じゃねーだろう。


「ミレンさんの言うように賢い子じゃな。わしは、旨いもんを食うのが好きでな、そのためならいくらでも出す変人なんじゃよ」


 この世界にグルメがいるとは驚きだ。いや、道楽者かな?


「シルバー」


 銀貨をもらいんしゃいと命令する。


「賢い赤目だ」


 種族名ってわけじゃない感じだな。通称かな?


「従魔かい?」


「友達」


 適当に従魔って呼んでたけど、この世界でも従魔なんだ。知らないうちに神様に情報をインプットされたか?


「こっち」


 家の中に御招待。銀貨一枚の価値がある料理かは知らんけど、かーちゃんの紹介なら無下にもできん。気前がよい客は正義だし。


「変わったものだな?」


 不思議そうに囲炉裏を見るじーちゃん。魔力が増えてから家の改造はちょこちょこやり、煮炊き用にと囲炉裏を創ったのだ。


「そこ」


 草で編んだゴザに座るよう勧める。って、護衛さんは入らんの?


「そやつのことは気にせんでくれ」


 まあ、護衛だしな、一緒にとはいかんか。御苦労様です。


 豆腐のクリームシチュー創りを再開し、できたら皿に盛ってじーちゃんに渡す。あと、フランスパンモドキを炭火で軽く炙って渡した。


「うん」


 さあ食うがよい。今日の豆腐のクリームシチューは絶品やで。


「……旨いの……」


 それはなにより。たーんとお食べ。


 三杯お代わりしたじーちゃんは満足して帰っていった。


 ……本当に食いに来ただけだったのか……?


 養子にしたいとかだったら喜んで受けたのに。がっかりだよ。


 だが、気前のいい客なのは間違いない。定期的に来てくれると嬉しいんだがな。グルメなら酒も飲むだろう。なら、蜂蜜酒でも創っておくか。蜂とか結構飛んでたしな。


 もらった銀貨一枚は貯金壺へ。将来のために貯蓄しないとな。


 使った木皿やスプーンを川で洗い、午後からはウサギの皮を鞣した革で背負いバッグ創りだ。


「ガウガウ」


 チクチク革を縫っていると、シルバーがやって来て魚が食いたいと要求する。


「……お前、従魔のクセに主を使いすぎだぞ……」


 まあ、それ以上に使ってる主だけどさ。


「ガウガウ」


 食わせろと駄々をこねるシルバー。ったく、我が儘なやっちゃ。


「わかったわかった。だから暴れるな。家が壊れる」


 お前はゴブリンを一撃で殺せるだけの力があるんだから家の中で暴れないで。うちはボロなんだからよ。


 シルバーを家の外へ追い出し、川へと向かう。


 昔は魚が泳いでる姿が見て取れたものだが、食われる立場を理解してからは姿を見せなくなった。


 しかし、我が手のひらの創造魔法から逃れることは不可能。川に右手を突っ込み、逃げた魚をいい匂いで誘い出す。


「シルバー。食っちゃいな」


 あとはシルバーの踊り食いの開幕。前世の熊同様、内臓だけ食ってあとはポイ。もったいないので残りは野望の穴へとポイ。畑の肥料としましょうだ。


 そんなことやってると殺戮しに出かけていたねーちゃんの帰還。無事でなによりだ。


 ねーちゃんの武勇伝を聞きながら夕飯の準備へと取りかかった。

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