第8話 数式
ゴール前やや左寄り21m。
ボールの前には
ライオネルとシウバが立ち
壁の位置をポジショニングしていく。
笛が鳴る。
ゆっくりした助走から
ライオネルが蹴り出す。
キーパーも必死に飛ぶが僅かに届かない。
左足から放たれたボールは回転をかけキーパーから外に逃げていく。
だがゴールまで近かった為か、スピードよりも曲がりを優先したシュートはそのままポストを叩く。
そこに1番で反応したのは野獣の様な勘を持つウーゴであった。
ーーーーー
「ウーゴのワンタッチは確かに危険だ。
彼はインサイド、アウトサイド、ヒールと
何処からでもシュートを撃てる。
そして彼のマークを外す動き、その一瞬の
スピードは驚くべき驚異である。」
ウーゴに関するレポートだ。
「まあエリア内で彼がボールに反応して
私達の誰よりも早く到達したのであれ
ば、高確率でゴール内へと蹴り込んでく
る技術があるだろう。
さあ、どうしようか?
例えばエリア内に見方が多い時には
なんとかなるかもしれない。
多少のリスクはあるがね。」
ーーーーー
マークマンがウーゴの進行の邪魔をする。
だがそれでも的確に最短距離で詰めていく。
触れるかといった瞬間。
別のスパイクが先にボールに追いついた。
そしてそのまま稲垣は自陣のゴールに向かいダイレクトシュートを放つ。
カキーーンッ
外のポストを叩いてフィールド外へとボールは飛んで行くのであった。
『危なかったですね。。
あわやオウンゴールでした。』
「いや、これは狙ったんじゃないですかね?」
『稲垣がですか?』
「と言うよりかはチーム、監督の狙いですね。ヨハン監督ならやりかねないかと思います。」
稲垣が言われたのは
万が一自陣のペナルティエリア内にウーゴと共に入ることがあれば
自陣のゴールに向かい蹴ろ。
その代わり確実に外すかキーパーの体勢が崩れてなければキーパー正面を狙え。
という事であった。
稲垣のストロングポイントは確かにそのスピードである。
だがヨハンの獲得理由はそこで無かった。
スピードはあくまでオプションであり
彼のワンタッチ目のボールの置き方と
一瞬の加速力であった。
彼は高校時代は器用にロングボールをコントロールして得点を重ねていた。
それがプロでは身体をぶつけられてバランスを崩す事も多くなり、得点が減っていた。
しかし体感を鍛え、徐々に得点数も増えて行った。
だがアンダー世代での国際試合ではそれが全く通用しなかったのである。
日本で出来ていたものが世界で通用しない。
その中で彼に一早く注目して手を差し伸べた監督がヨハンであった。
バルセロナ相手のビッグマッチ。
その中で稲垣は求められていた重役をこなしたのであった。
ヨハンは少し冷や汗をかいていた。
だがそのスリルをも彼は楽しんでいた。
そして彼らに少しの課題を与えたのだが
それをクリアした選手も多く、段々と自信のあるプレーへと変わって行く様を見届けていた。
だが、そう言った時間は諸刃の剣にもなる。
最後のカードを切るのであった。
そしてロスタイムは3分。
「最後まで集中するぞー。」
レガレスの象徴とも言える選手。
ヨハンが監督になってからは交代の出場も多くなっている。
だが監督からも選手からも、そしてファンからの信頼が厚い。
彼が交代でピッチに入ってから、より強固なDFになった様にも感じるバルセロナであった。
『最後の交代はレオナルドでしたね。
彼が最終ラインに入る事で締まりますよね。』
「彼にはキャプテンシーがあります。
レガレス一筋約20年ですしね。
そして37歳ですがまだまだやれると思いますよ!」
ヨハンはデータ面での計算を得意とするが
意外にも感情論をも駆使する。
それが時には人の限界以上の力を出させるということを彼は知っていたからである。
それは運とは違う。
また違ったベクトルで彼はその数式を当てはめていた。
そうしてロスタイムも時間が過ぎていき、、
ピーーーーーッ!
「2-1 試合終了です!!」
スタジアムが歓喜に包まれるのであった。
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